<第十足>新しい家族へ。
病院での話から数日。
市役所での手続きを終えた頃には、春の日差しは少し傾き始めていた。
養子縁組の手続きは無事に終わり、如月は正式に煌星家の一員となった。
もっとも、高校卒業までは学校や各種手続きの関係もあり、名字はそのまま「如月」を名乗ることになった。
「卒業したら、その時に改めて考えよう」
院長がそう告げると、如月は静かに頷いた。
その足で携帯ショップへ向かい、人生で初めて自分だけのスマートフォンを手にした。
「ワイフォン…?ナンドロイド…?」
「周りはワイフォンが多い…。せっかくだから最新機種のにしよう」
「好きな色を選んでいいのよ」
愛にそう言われても、如月はしばらくショーケースを眺めるばかりだった。
「……自分で選んで、ええん?」
その一言に、舞姫は優しく笑う。
「もちろん。夢玖ちゃんのものなんだから」
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その後は通学用のバッグ、文房具、そして新しい靴。
「靴だけは俺に任せろ」
希望は笑いながら夢玖の足に合う一足を選んだ。
「これなら毎日歩いても疲れにくい。」
如月は新品の靴を見つめ、小さく微笑む。
「色んなブランドや形もあるんやな…」
大阪から福島まで歩いた、あの日の擦り切れた靴はもうない。
代わりに、新しい一歩を踏み出すための靴がそこにあった。
帰り道、鳳斗から一本の電話が入る。
「もしもし生野?この前の子の学校が落ち着いたらさ、うちでアルバイトしてみないかって伝えといてくれ。接客も勉強になるし、本人がやってみたいなら歓迎だ」
「ありがとうございます。本人にも話してみます」
電話を切ると、俺は隣を歩く如月を見た。
今はまだ慣れないことばかりで、覚えることも多い。
だから、この話は焦らなくていい。
如月には、ゆっくり自分のペースで新しい生活を歩いてほしかった。
これから如月が暮らす場所は煌星家だ。
そこには院長と愛、そして舞姫が待っている。
「学校は私が送り迎えするし、家事も一緒にやるわよ!家でも学校でもずっと一緒よ」
けれど、俺たちのマンションもまた、如月にとって大切な帰る場所だった。
「またいつでもご飯食べに来てね。今度は…たこ焼きかな」
舞姫が笑えば、
「……うん」
如月も自然と笑顔を返す。
帰る場所が、一つ増えた。
信じられる人が、たくさんできた。
あの日、大阪からたった一人で歩いてきた少女は、もう一人ではない。
新しい家族と、新しい仲間、そして新しい未来へ。
夢玖─如月の物語は、ここから本当の意味で始まろうとしていた。
……To be continued
ここまで『透ける約束は片結び』第一章を読んでいただき、本当にありがとうございました。
第一章では、夢玖が大阪から福島へ歩き、一人の少女が「居場所」と「家族」を見つけるまでを描きました。
靴や靴紐には、この作品の大切なテーマを込めています。
ほどけてしまう結び目もあれば、結び直せる結び目もある。
人との繋がりも、それと同じなのではないかと思いながら書いています。
夢玖は、希望や舞姫、愛、そして煌星家と出会い、少しずつ「人を信じること」を覚え始めました。
ここまでが、彼女にとっての「始まり」です。
第二章からはいよいよ夢玖達の高校生活がスタートします。
新しいクラスメイトとの出会い、アルバイト、初めての学校生活、そして少しずつ広がっていく人間関係。
もちろん、希望たちや煌星家の面々も変わらず登場しますので、これからも温かく見守っていただけたら嬉しいです。
読んでくださる皆さんの感想や応援が、作品を書く大きな励みになっています。
これからも『透ける約束は片結び』を、どうぞよろしくお願いいたします。
焙野 煎




