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透ける約束は片結び  作者: 檻 依舞 (おりーぶ)
【第一章】はじまりの片結び

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<第十足>新しい家族へ。


病院での話から数日。


市役所での手続きを終えた頃には、春の日差しは少し傾き始めていた。


養子縁組の手続きは無事に終わり、如月は正式に煌星家の一員となった。


もっとも、高校卒業までは学校や各種手続きの関係もあり、名字はそのまま「如月」を名乗ることになった。


「卒業したら、その時に改めて考えよう」


院長がそう告げると、如月は静かに頷いた。


その足で携帯ショップへ向かい、人生で初めて自分だけのスマートフォンを手にした。


「ワイフォン…?ナンドロイド…?」


「周りはワイフォンが多い…。せっかくだから最新機種のにしよう」


「好きな色を選んでいいのよ」


愛にそう言われても、如月はしばらくショーケースを眺めるばかりだった。


「……自分で選んで、ええん?」


その一言に、舞姫は優しく笑う。


「もちろん。夢玖ちゃんのものなんだから」


****


その後は通学用のバッグ、文房具、そして新しい靴。


「靴だけは俺に任せろ」


希望は笑いながら夢玖の足に合う一足を選んだ。


「これなら毎日歩いても疲れにくい。」


如月は新品の靴を見つめ、小さく微笑む。


「色んなブランドや形もあるんやな…」


大阪から福島まで歩いた、あの日の擦り切れた靴はもうない。


代わりに、新しい一歩を踏み出すための靴がそこにあった。


帰り道、鳳斗から一本の電話が入る。


「もしもし生野?この前の子の学校が落ち着いたらさ、うちでアルバイトしてみないかって伝えといてくれ。接客も勉強になるし、本人がやってみたいなら歓迎だ」


「ありがとうございます。本人にも話してみます」


電話を切ると、俺は隣を歩く如月を見た。


今はまだ慣れないことばかりで、覚えることも多い。


だから、この話は焦らなくていい。


如月には、ゆっくり自分のペースで新しい生活を歩いてほしかった。


これから如月が暮らす場所は煌星家だ。


そこには院長と愛、そして舞姫が待っている。


「学校は私が送り迎えするし、家事も一緒にやるわよ!家でも学校でもずっと一緒よ」


けれど、俺たちのマンションもまた、如月にとって大切な帰る場所だった。


「またいつでもご飯食べに来てね。今度は…たこ焼きかな」


舞姫が笑えば、


「……うん」


如月も自然と笑顔を返す。


帰る場所が、一つ増えた。


信じられる人が、たくさんできた。


あの日、大阪からたった一人で歩いてきた少女は、もう一人ではない。


新しい家族と、新しい仲間、そして新しい未来へ。


夢玖─如月の物語は、ここから本当の意味で始まろうとしていた。



……To be continued

ここまで『透ける約束は片結び』第一章を読んでいただき、本当にありがとうございました。


第一章では、夢玖が大阪から福島へ歩き、一人の少女が「居場所」と「家族」を見つけるまでを描きました。


靴や靴紐には、この作品の大切なテーマを込めています。


ほどけてしまう結び目もあれば、結び直せる結び目もある。


人との繋がりも、それと同じなのではないかと思いながら書いています。


夢玖は、希望や舞姫、愛、そして煌星家と出会い、少しずつ「人を信じること」を覚え始めました。


ここまでが、彼女にとっての「始まり」です。


第二章からはいよいよ夢玖達の高校生活がスタートします。


新しいクラスメイトとの出会い、アルバイト、初めての学校生活、そして少しずつ広がっていく人間関係。


もちろん、希望たちや煌星家の面々も変わらず登場しますので、これからも温かく見守っていただけたら嬉しいです。


読んでくださる皆さんの感想や応援が、作品を書く大きな励みになっています。


これからも『透ける約束は片結び』を、どうぞよろしくお願いいたします。


焙野 煎

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― 新着の感想 ―
何度も結び直した古い靴紐が夢玖の苦しい生活を象徴している。それが希望との出会いにつながり、第十話で新しい靴を手に入れる。シューフィッターという主人公の仕事が、夢玖の人生を支える行為にも重なっているとこ…
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