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オル・トア ―精霊の往く先―  作者: 流留架
蒼の季 初夏 ―平原に吹く風―
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蒼の季-11.夏前に

 王都へ帰路、辺りはもう暗い。

 木の隙間から覗く空には、いくつかの星が瞬いている。


 今日は少し風が強いだろうか。

 細い山道の両側から、唸るように騒ぐ木々が迫ってくるようだ。


「遅くなってしまったな」


 隣で呟いたのはエデュードだ。

 その声は、何かを考えながら漏れてしまった、行き場がない言葉だ。



 蒼の季の初めになると、毎年必ずここを通っている。

 王都の東側、山に中腹にある貯水湖の現地調査のためだ。


 貯水湖は、王都の水の約半分を担っている。


 雨が続く蒼の季後半に向けて、数が増える魔獣を討伐し、付近の設備を点検し整える。

 アルデニアの生活を整えるグラナートと、付近の魔獣討伐を担うアベリスが、共に行うのが通例だ。



「今年は骨が折れそうですね……」


 エデュードの言葉に返したのは、彼の従者であるファムだ。

 水を扱うファムは、毎年この調査の中心だ。


「あと三巡ほど猶予がある。早めに来て正解だったな」

「あの数は少し……多すぎる気がしますが」


 レイランの声も、珍しく沈んでいる。

 ユアンもそれを思っていた。


「帰ってから方法を考えよう。……だが、季節の進みが早いのであれば、雨の降り始めも早まるかもしれないな」

「うむ……」


 今年の現状は、魔獣も設備も、このままにしておくのは難しい状態だった。

 担当する兵士たちは、現場に待機とした。

 

 皆それぞれに考えながら進む山道を、低い風の音だけが埋めていた。




 アルヴィンの執務室に入ると、そこにはすでに人が集まっていた。


 王都防衛隊、魔獣討伐隊、設備部、財務部の責任者たちだ。


「随分と時間がかかったね、待っていたよ」


 奥に座っているアルヴィンが声を掛けると、その視界を避けるように4人はこちらに礼を取った。

 身体の大きな鎧姿が2人と、所属を示す色布を掛けた小柄な2人が両側に分かれると、その雰囲気は見事に対照的だ。


「遅くなりました」

「今年はどうだった?」


 アルヴィンの問いかけに、エデュードが低い声で答える。


「……少し、人手がいりそうです」

「そうか、詳しく聞こう」



 山の中腹にある貯水湖付近には、暑くなるにつれて水を求める魔獣が現れる。


 その中でも面倒なのがラクサールという鱗魔獣だ。


 大型のトカゲのような姿で、長い尾と硬い鱗に守られている。

 昆虫や小型の動物、果実などを食べる雑食で、通常は地中に潜って生活する。

 好戦的な魔獣ではないが、攻撃されると土を纏って硬化し、長い尾で岩や石を飛ばして身を守る。

 直接、尾に殴られるとそこそこの距離を吹っ飛ばされ、運が悪ければ貯水湖へ真っ逆さまだ。

 硬い鱗と硬い土で物理の攻撃は通りにくく、強くはないが相手にすると厄介だ。


 ラクサールはこの時期、水を求めて貯水湖付近に集まる。

 土に潜るという特性のせいなのか、源になる湧き水を塞いでしまうのだ。

 

 水量が不安定になるだけでなく、出口を失った水が別の場所から湧き出る。

 それが地盤を緩くし、時には土砂崩れを引き起こすこともある。


 それを防ぐため、毎年この時期に大掛かりな討伐が行われてきた。


 今年は例年より早い時期にも拘らず、すでにかなりの数のラクサールが現れていた。

 


「例年の倍以上、確認できただけでも30頭ほど。土に潜っているものもいるとするなら、もっと多いでしょう。40から50は考えた方が良いかもしれません」

「そんなに……」

「随分多いですね」


 討伐を担当する2人は、渋い顔だ。

 気持ちは痛いほど分かる、ひたすら面倒な相手なのだ。


「……討伐以外の方法も……視野に入れて良いと思います」


 ユアンが言おうとしたことを、レイランが先に口にした。

 自分が言う方が収まりが良いと思ったのだろう。

 

「リシアのヴェリッダのように?」


 アルヴィンの目はレイランに向けられる。

 その場にいる全員の視線が、同じくそこに集まっている。


「今回時間をかけてでも考える方が、今後のためにも良いかと」


 レイランの視線はぶれない。

 

「だが……あまり時間をかけるわけにもいかない。雨の時期の前までには、設備の整備も終わらせなければならない。方法を探せなかった場合の討伐にかかる時間も考えると……厳しいのではないか?」


 眉を寄せたままのエデュードは、声色を変えないままだ。


「討伐すればいいのではないですか? 多くはありますが、無理な数ではないでしょう」

「人手を増やしてやれば、そんなに時間がかかることでもないですしね。今年は運が悪かったと思って、頑張りましょう」


 渋い顔だった討伐担当の2人だが、当たり前だと言いたげな顔だ。

 今までだったら、ユアンもそう思っただろう。

 それが魔獣との関わり方だったからだ。


 レイランはあれ以降、魔獣との付き合い方を考え続けていた。

 共存、共生が可能なら、無理な討伐はしたくない。


 ずっとそれを担ってきたからこそ、より強く感じるのだ。

 


「今年たまたまだと言うなら、来年も再来年も“たまたま”多いかもしれない。対処を続けるだけでは、毎年必ず討伐を行い続けることになります。解決策を考えられるなら、来年以降これを行わなくても良くなるかもしれない。少なくとも、リシアではそうなる未来があります」


 レイランの口調は少し強くなった。


 アルヴィンはレイランから視線を離さない。


「もしそれが可能なら、今後それにかかる時間も資材も人も必要なくなる。それはこれから先ずっと続くことだ。考えるなら早い方がいい」


 声を落ち着けて、ユアンはゆっくりと言葉を繋いだ。

 珍しくレイランは熱くなっているようだ。


「……それは……《《我々に》》できることか?」


 肘を付いたまま手を口の前で組み、アルヴィンは2人を見る。


「……考えます。少し時間を下さい」


 レイランは目を伏せる。


 おそらく、まだルティナの力を借りずに進めるのは無理だ。

 まだ全然足りていない。

 だが、考えることはできる。

 今はより多くの知識と経験が欲しい。


 いつかこれを自分たちで考えて、実行できるようになりたい。

 


「蒼の季24日までには、作業をすべて完了すること。その中で方法を考えるのは構わない。5日後までに最初の報告をしてくれ」


 アルヴィンはかなり余裕を持って時間をくれている。


 あと二巡。

 考えて準備できるのは一巡ほどだろう。

 ヴェリッダのときと準備期間は同じくらい。

 だが、あのときはルティナがヴェリッダを知っていたのが大きい。

 急いで進めてもぎりぎりだ。



 アルヴィンは各担当者たちを下がらせ、部屋の中央にある長椅子に座った。

 先ほどとは打って変わって、興味と期待を込めた顔になっている。


「お前たちが帰って来てから、退屈する日がないよ。実に楽しい」

「猶予をいただき、ありがとうございます」


 レイランの表情は硬い。

  

 でも、ユアンは嬉しかった。

 今までならこんな無理を通すことは絶対にしない。

 可能であること。

 自分の手の届く範囲内で、最適な方法を取るのがレイランだった。


 アルヴィンもそう思っているからこそ、最大限の猶予をくれた。

 兄の判断にも感謝している。

 上手くいってもいかなくても、きっとレイランの財産になる。



「兄上、アベリスで魔獣生態の研究を始めたいと思っています」


 アルヴィンの目が更に輝く。


 高い視点を持ちながら、考えは柔軟、自由で奔放だ。

 そして、広く大きく受け止めてくれる。

 だからこそ、下にいる者もよく考え、よく動く。

 それが、この国をよりよく変えていく。



「生態……か。ウィランは魔獣の印の解明を進めて、新しい魔法の可能性を探したいようだよ。協力して進めてもよいのではないか?」

「なるほど……では、許可していただけますか?」

「もちろん構わないよ。部として立ち上げるなら、オルフェスに相談を。責任者はユアンに、実務関係はレイランに任せる。定期報告は季に1、2度程度。その他、何か面白いことが分かったら逐一報告を入れること」

「わかりました」

「ありがとうございます、兄上」


 アルヴィンは大きく伸びをして、満足そうに笑う。

 今日はいつになく上機嫌だ。 


「ルティナ殿が来てから、皆のやる気が漲っている。見ていてこんなに楽しいことはない。ウィランの印の研究も然り、先ほどはミオルとロイが、リュサールで食の在り方を文化として広める研究をしたい言ってきた。しかも、言いだしたのはロイだそうだ。彼女と関わると、あっという間に皆が変わっていく」


 レイランと顔を見合わせた。

 ミオルは間違いなくルティナと相性が良いと思っていたが、あの控えめなロイがというのが驚きだ。


 昨日離れに戻ったのも、かなり遅い時間だったようだ。

 書庫にいると言伝は聞いていたが、そんな話になっているとは思わなかった。


「ウィランの研究には、ジュードも積極的に参加している。ジュードも目が変わった。ウィランがとても嬉しそうだったよ」

「……ジュードの変化には、私も驚いた」


 エデュードが目元を緩ませる。


「グラナートが何か始めるのも時間の問題だと思っているよ」

「……どうだろうな。さて、我らは先に失礼する。レイラン、なにか協力が必要なら声を掛けてくれ。ファムがいた方が進めやすこともあるだろう」


 ファムも頷き、エデュードと共に部屋を出て行った。



「兄上、ルティナを巻き込むことはどうお考えですか?」

「……うん、問題はそこだ。彼女の知識や視点はとても素晴らしいものだ。我々にはない考え方、捉え方で新しい世界を見せてくれる。……でも、それありきで考えるのを許可するつもりはない。彼女がいなければ進まないのなら、それはないのと同じ。未来には繋がらない」

「はい」


 その通りだ。

 今回は、ルティナありきで進めようとしている。

 だから言うのを躊躇った。


 これ以上、彼女をアルデニアに結び付けていいのか。

 彼女のもたらす影響を、これ以上大きくしていいのか。


「だが、学ぶこと、知ることを止めるつもりもない。彼女が了承してくれる範囲で、彼女の好意に甘えず、彼女の意思を最優先にすること。そして、それが自分たちの手の届く範囲を出ないこと。そこは見極めていくつもりだ」

「ありがとうございます」

「それから、彼女の守り方を考えること。これはミオルにもウィランにも伝えたことだ。彼女はとても強く美しいが、人はあれほど美しくはいられない。彼女にとってその毒は何よりも苦しいものだろう。向けられる毒を払うのではなく、向けられないように立ち回れ」

「……肝に銘じます」


 ひと呼吸置いて、少し考えるようにアルヴィンは続けた。


「……それから、お前たちがどう見ているかは知らないし、彼女にとっては余計なお世話かもしれないが……客観的に見て、彼女の容姿と雰囲気はとても目立つ。……彼女自身がそれにあまり気付いていない節がある。これから関わる人間も、皆この国では目立つ人間になるだろう。その点もふまえて、自分の置き場所を考えなさい。これは2人ともだ」


 置き場所……。

 その言葉を、うまく自分に入れることができない。

 女性としてのルティナを、どう守るのか。

 アルヴィンの言っていることはそういうことだ。


 そもそもそれは、こちらが判断することではないことだろう。

 だが、危険からは遠ざけたい。

 どこに、自分を置くか。


「たしかに、ルティナ様はそこには本当に疎い人ですね。最初は謙遜かと思っていましたが、どうやら本当に分かっていないようです」


 冗談めかして言うレイランの声が、やけに耳に残る。


「分かりました、ルティナの意思を最優先にしたいのは俺も同じです。出来る限り負担にならないように、気を付けます」


 胸の奥が、なぜか落ち着かない。

 自分の言葉が耳に入ってこない。


「……ああ、そうだね。それから、ルティナ殿はどのくらい王都に滞在するんだ? ミオルは蒼の季の終わりまではいてもらうように頼んだと言っていたが……」


 言葉を濁しながら、言いにくそうだ。

 蒼の季の終わり。

 ルティナが帰るとき、自分はどこにいるだろう。


「蒼の季の終わり、ですか……それは随分と……」


 レイランも驚いている。

 そもそも、彼女の帰るタイミングは、どうやって決めるのか。


「特に決めていないなら、こちらとしてはいられるだけいて欲しいところだが。本人はユアンに聞かないと分からないと言っていたそうだよ」

「そう、ですか……」


 自分が決めて良いことなのだろうか。

 彼女が帰りたいというときに送っていくつもりでいた。


 そもそも、彼女が王都にいる理由はもうなくなっているのではないか。


「……ユアン、お前がここに彼女を連れてきたんだ。そこに自覚を持て。意思を尊重するのと、任せきるのはまるで違う。彼女が自分で決められることばかりではないよ。そんな態度では、彼女も不安になる」


 まったくその通りだ。

 どうして、彼女のことになるとこう判断ができなくなるのか。


「自分の意思を伝えないこともまた違う。ミオルはいて欲しいと願って、彼女ができるだけ不安にならない方法を提案したということだ」

「はい……これからきちんと話をしてきます」


 ユアンは立ち上がった。

 不安にさせたかもしれないと思うと、いてもたってもいられなかった。

 どうしても、今すぐ話をしたいと思った。


「あ、ああ……おそらく今は……書庫にいると思う」

「書庫、ですか」

「ああ、ミオルがあとで行くと、ルティナ殿に言っていたはずだ……」

「……そうですか、わかりました」


 ユアンはそのまま部屋を出た。

 慌てた様子のレイランの足音は、いつもより速い気がした。




 外に出ると、月の白い光がひんやりと首を撫でる。

 霊素を感じるようになった自分にとって、この心地よさは格別なものだ。

 ルティナから感じるものと同じ。

 身体がそれを求めて、喜んでいるのを、無意識で遠くに置いていた。

 そう感じること自体が邪で、彼女の無垢な美しさを穢してしまうように思えた。


 月はもう空の高い位置にある。

 ルティナと昨日の夕前に別れて、ほんの一日離れていただけだ。

 それなのに、もう長い間顔を見ていない気がする。

 こんなにも胸がざわつくのは、互いの霊核のせいなのか。



 リュサールの書庫に向かうのは久しぶりだった。

 階段を上がり、扉に指輪をかざす。


 独特の本の匂いと、鎮まった低い空気の中。

 窓際の椅子に座り、ミオルと何か話しているルティナの姿があった。


 ミオルはいつもと違う装いだ。王都の外にでも出たのだろうか。

 ――眼鏡を外している。

 ミオルの無防備な横顔は、見たことのない柔らかな笑顔だった。

 その2人を、少し離れた位置で微笑みながら見つめるロイが、こちらに気付いて礼をした。


 ルティナがこちらに気付き、目元を下げて立ち上がる。

 その姿に、胸の奥が握りしめられるのを、気付かないわけがない。


 ミオルもこちらに目を向け、頷くように会釈をした。


 止まったままになっていた足をなんとか動かす。



「ユアン様、お戻りになられたのですね。ご無事で何よりです」

「少し遅くなってしまった。兄上にここにいると聞いて、迎えに来たよ」


 声はいつも通りに出せているだろうか。


「そろそろお送りしようと話していたところでした。お迎えがいらしたのなら大丈夫ですね」


 変わらぬ様子のミオルは、読んでいた本を閉じた。

 積み上がっている本は、植物や薬草、農業や食の歴史に関するもののようだ。


「レイラン様も、ご無事で何よりです。種も無事に植えることができました。明日からしばらく様子を見に通うつもりです」

「遅くなりました。そうですか、それは安心致しました。別件で少しご相談したいことができたので、その話も聞いていただきたく」

「……そうですか。わたしで分かることでしたらいつでも」


 ルティナは何かを探すように周りを見る。

 ロイが置いてあったルティナの荷物を、ミオルの後ろから手に取った。


「ありがとうございます」

「朝は今日と同じくらいに向かえばよろしいでしょうか?」

「もう少し遅くても構いませんよ? わたしは森で採取しながらお待ちしております」

「いえ、朝は得意な方です。スヴェルフもいたようですし、お側にいた方がよいと思います。同じ時間にお待ちしております」


 ルティナはロイとも打ち解けているようだ。


「ユアン、種に与える森の水が少し汲みにくいので、ロイを同行させようと思うのですが、構いませんか?」


 座ったままこちらに向き、ミオルが言葉を付け加える。

 こういう気遣いを欠かさない人だ。


「ルティナがその方が良いのなら、よろしくお願いいたします」

「ではそのように。……あと、水の護魔をお渡ししたいと思うのですが、それはいかがでしょうか?」


 水の護魔。

 戦闘に参加する治癒師が持つ魔石で、持つ者を敵の目から遠ざける魔法が込められている。

 ミオルが渡すなら強力なものだろう。

 持っていてくれるならば安心なものだ。


「ありがたいご配慮です」

「ではルティナ殿にこちらを。身に着けておくと隠蔽の効果があり、受ける魔法系の効果はほぼ防ぎます。髪飾りの形にしようと思いましたが、すでに付けていらっしゃるので……この形にしました」

「……あ、ありがとうございます」


 すでに用意してあったそれは、指輪の形をした護魔だ。

 美しい淡い水色の石は、ルティナによく似合う。


 手に取ったルティナは、それを確認すると、申し訳なさそうに笑った。


「ミオル様、お心遣いは大変嬉しいのですが……これはわたしには難しいようです」

「何がでしょう?」

「とても強い護りで、わたし自身の感覚も遮られてしまうようです。気配が感じられなくなるのは、とても怖いのです」

「ふむ……護り、遮断……、遮らずに……わかりました。少し調整して、明日ロイに持たせます。それでも駄目なら、ルティナ殿用に陣を組み直しましょう」

「いえ、そこまでしていただかなくても……もともとわたしはそうやって暮らしておりますので、森での過ごし方は心得ております」


 ミオルは受け取った指輪の魔石を眺める。


「森でのことだけではありません。残念ですが、ここは普段生活をしている場所とは少し違います。人の目、人の行為からも、あなたを護るためのものです」

「……ルティナ、持っていてくれると俺たちも安心なんだ」


 ルティナは目を伏せ、それを受け入れたようだ。




 リュサールからの帰り道、自分へ向かう怒りが身体中に刺さる。

 配慮の足りなさ、至らなさを突き付けられた。


 ミオルはやはりすごい人だった。

 アルヴィンの言ったことはこういうことだ。


 あれを今持っていたということは、昨日のうちにそれを仕上げていたということ。

 昨夜書庫でルティナと話し、朝までにあれを用意した。

 アルヴィンに話を通す前だ。


 それを今まで渡さなかったのは、ユアンへの配慮と、提示だ。


 まるで敵わない。

 アルヴィンとは別の意味で、かれもまたこの国の柱だ。


 そんな人たちがルティナを全力で守ろうとしてくれている。

 こんなに心強いことはないはずだ。


 なのに。

 次から次へと湧き出す感情を制御するのがやっとだった。


 足りていない。

 すべてが。

 こんなことで、何があっても守りたいと、どの口が言ったのだ。


 もっと強く。もっと大きくなりたい。

 彼女がありのままでいられるように。



 ユアンは溢れてくる感情に、正面から向き合うと、心に決めた。



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