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オル・トア ―精霊の往く先―  作者: 流留架
翠の季 春 ―谷に棲むもの―
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翠の季-09.調合と構築

 夜が明けてすぐ、まだ森が目覚める前、ルティナは作業部屋にいた。

 

 五感への刺激が少ない朝は、頭の深いところで考えられる時間だ。


 調合や製法を組むのは、まだ静けさが残る早朝の空気がいい。

 素材の声が読み取りやすく、感覚に集中できる。

 


 作るのは、魔素に乗せて流し、ヴェリッダを落ち着かせる鎮静の香。

 もうひとつは、林に留まってもらうための、安らぎと凪の香。


 まずは、製法がまとまっている鎮静の香から作り始める。

 風に乗せるのなら、香りが動きやすい粉末か刻みで、淡い煙を出す方が良いだろう。

 外で焚くことを考えると、粉末は少し扱いにくい。

 大きめに刻んで、樹脂で重みを持たせ、直接火を付けて焚く。

 樹脂でまとめれば、煙も少なくて済む。


 ルティナは、作業部屋の奥に向かう。

 いくつも並べられた引出式の移動棚には、様々な素材が並ぶ。

 森で採れる物だけではなく、川や山、行商人から買い付けた異国の素材も揃っている。

 

 その中から、眠り木の樹皮と、沈癒の涙を取り出した。

 ヴェリッダ用ならば、アルデ大陸の素材を使った方が身体に負担が少ないはずだ。


 眠り木の樹皮は、夜になると葉を閉じる“眠り木”の樹皮だ。

 冬の最後、もっとも陰が深まった頃に、自然と浮き上がり剥がれ落ちる。

 閉じる、内側へ向くという陰の効果が高く、外に向く意識を自身へ戻し、眠りと休息へ導く。

 

 沈癒の涙は、傷ついた古木が自身の治癒のために、長い時間をかけて流す癒しの樹脂。

 時間の流れを緩め、焦りや活動欲求を抑える。身体を落ち着ける効果が高い。


 共に樹木の素材で相性も良い。身体と心、両方から鎮静を促せる。


 乾燥させた眠り木の樹皮をほぐして刻み、沈癒の涙を染み込ませる。

 上がってくる香りからは、強い陰調を感じる。

 火を付けることを考えると、このくらい強くないと負けてしまうだろう。


 表面が少し乾いてきたら、陰の霊素で包み、休ませながら馴染ませる。



 問題は次だった。


 まだ、考えがまとまっていない。

 あの林を、ヴェリッダたちが安らげる場所だと感じるためには何が必要なのか。


 イメージは、我が家の庭だ。

 陽が強く、活発な気性のアウリスでも、安心して寝息を立てるほど落ち着いた空間。

 香りの効果というより、緩い結界のように作用させたい。


 自然界に溢れる、あの揺らぎの効果。

 炎や木漏れ日、川のせせらぎのような、一定と不規則が程よく調和した波動。

 それを、香りから体感に繋げて伝えたい。


 ルティナは、机の端に置いた小さな包みを手に取る。

 中には、ヴェリッダの巣穴近くの木の樹皮、ヴェリッダの毛が入っている。

 レイランが昨夜の観察時に取ってきてくれたものだ。

 今朝、門の前に置かれていたということは、ほぼ休まず、夜の観察をしていたのだろう。


 ヴェリッダ自身の匂いと、ヴェリッダの好む風の気配、そこに留まらせる効果。

 それを、あの林に浸透させるような……


 並んだ棚に、手をかざす。

 香りではなく、その素材がもつ心地よいゆらぎの波動を探る。 


 手が選んだ引出しには、ホオの実。

 弱い熱を与えると、実の中の空洞から風を思わせる微かな音が鳴る。

 気の乱れを調える薬としても使われる実だ。


 そして、時忘草の根。

 沼地の緩い土壌にも、深い根を張りしっかりと大地を掴む草。

 地に足をつけ、心を自身の中心において安定させる効果がある。


 これなら、ヴェリッダの匂いをそのまま乗せられる。

 揺らぎの波動も噛み合いそうだ。


 林に留まらせるなら、香りが広がる練り香の方が良いだろう。

 直接火を付けるのではなく、熱を与えて低い位置を漂うように。

 匂いを入り口に、心地よさに包まれる体感へ、これを上手くまとめる繋ぎが欲しい。


 それなら、蜜脂(みつし)はどうだろう。

 蜂蜜と植物脂を合わせた基材なら、ほのかな甘い香りで、練るための繋ぎ役にもなる。


 

 素材をすべて粉末にして、割合を調整しながらバランスを調える。

 ヴェリッダの匂いをベースに、風の気配、定着の効果を織り交ぜる。

 陰の霊素を指先から与えながら、ほのかな甘さで包むように、丁寧に練り上げる。

 指先から伝わる霊素の感覚を頼りに、ぴったりと陰が満たされるのを確認する。


 仕上がりを視ると、青白い光が内側に含まれた美しい練り香になっていた。

 これなら、かなり良いのではないだろうか。


 香の(めい)はどうしようか。

 独自の特殊な調合をするのなら、しっかりと名をつけ責任を持つこと。

 薬草師としてのそれは、小さな儀式のようなものだ。


 ヴェリッダの安らぎのためだけの香。

 ルティナは、“ヴェリッダの安息”と名を付けた。


 ルティナの額には、微かに汗が滲んでいる。

 手の甲を額にあてると、手の冷たさが気持ちいい。

 顔が火照って、少しのぼせているのか、頭がぼーっとしている。


 外は陽射しが強くなり、森も騒がしくなっている。

 とりあえず……、美味しいお茶をいれて、休憩をしよう。




 食の間の椅子に腰を下ろすと、足から力が抜け、一気に重さを実感する。

 初めての調合、しかも連続では、さすがにちょっと疲れた。


 先日仕上がったばかりのホノシズクの新芽茶は、まだ若さを感じる。

 寝かせた茶葉のまろやかさもいいが、この季節にしか飲めない浅い風味も、また別の美味しさがある。



 お茶で身体が温まってくると、ようやく少し落ち着いてきた。

 芯から広がる心地よい熱で、身体が緩み、呼吸がしやすくなる。


 ルティナの身体の中は、霊核の影響でとても陰が濃い。

 その性質のため、もともと体温が低く、指先や足が冷たくなってしまう。

 力を使い霊核が刺激されると、それが更に強くなる。

 陰が身体を巡るほど、全身が静かに、冷えていくのだ。


 ルティナがこの森をあまり離れないのは、この森の陽でそれが緩和されるからだった。

 ルティナのために、父がこの森を選んだのもそれが理由だ。



 今日も外は明るく、空は澄み切って青い。

 春から夏にかけては、ルティナが過ごしやすい陽の巡る季節だ。


 午後はもう一度谷に行ってみよう。

 香をどうやって焚くか。

 魔素の巡りや霊素の変化も合わせて、考える必要があるだろう。





 軽く朝食をとった後、フェンと一緒に谷へ向かった。


 今日は風がいくらか穏やかで、リシア付近の草原は凪いでいる。

 一面の緑の中、ところどころに山羊が見え、のんびりと草を食む。

 その姿が、午後の時間をさらに緩やかにしていた。

 空と緑の境が遠くまで伸び、抜けるような景色を見ると、谷の騒ぎが嘘のように思えてくる。


 谷に近付くにつれて、昨日よりたくさんの人が動いている。

 着ている鎧は、リシアの兵士たちのものだ。

 柵を作ったり、土嚢のようなものを積み上げたりと、何やら作業を進めている。


 こちらに気付いた兵士が、大きく手を上げた。

 ジグだ。今日は外の作業に出ているようだ。


「こっちまで来ることもあるんだな」


 ジグは手を止めて、汗を拭きながら腰を大きく後ろに反らせる。 

 陽射しが強くなって、来ている鎧はとても暑そうだ。

 柵を打つ槌を地面に立て、いつものにかっとした笑顔で笑った。


「こんにちは。少し、谷の様子を見に来ました」

「まだ通れないぞ。近々解決すると思うが」

「そうですか……」


 まさか、その解決にルティナが関わっているとは思いもしないだろう。

 何を言うのもおかしくなる気がして、口をつぐんでおく。


「まあ、谷に近付きすぎなければ大丈夫だ。気をつけてな」

「ありがとうございます、ジグさんも頑張って下さい」


 この柵は何のためのものなのだろう。

 こちらまでヴェリッダが来ることを想定しているとすれば、かなり大掛かりな作業になる。

 自分が立てた作戦は、とても大変なものだったのかもしれない。

 大丈夫なのだろうか……。



 昨日と同じ丘の上、谷を東側から見下ろせる位置で全体を眺める。

 草原とは打って変わって、ここの風は少し荒い。

 丘の上の霊素は昨日より増えているが、まだ谷に降りるほどではない。

 魔素の濃度も昨日より濃い。ピークはまだ来ていないのだろう。


「ルティナ殿! こちらに来て下さったのですか」


 ルティナに気付いたのはウィランだ。

 レイランも一緒に、谷の様子を観察していたようだ。


「ウィラン様もこちらだったのですね。香ができたので、谷の様子を確認に参りました」


 レイランもこちらに気付き、軽く会釈をする。


「もしお時間があれば見ていただけますか? 僕が感じる魔素の流れを図にしたものです」


 ウィランの手には、谷の魔素の循環を示した図があった。

 それはぱっと見る限りかなり正確で、見えていないのが信じられないほどだ。


 図の脇には、いくつか不思議な図形が描かれている。

 三角形の図形には、不思議な文字と、それらを繋げる線や記号が描かれている。

 これが、魔法を組むということなのだろうか。


「とても正確に描かれています。ここは繋がらずに、ゆるく散っていますね。おそらく散ったものがこちらからまた流れに戻っているようです」


 ルティナは、図と谷を交互に指さしながら説明する。

 だが、それ以外は、まったくずれがない。

 やはり、ウィランはほとんど見えているのだ。

 ただ、その感覚を、視覚として捉えていないだけだ。


「なるほど。ああ、そうか……全てが路を通るわけでなく、一度散って戻るという動きの余白は、広い場所なら考えなければならない要素なのか」


 ウィランはぶつぶつと呟きながら、魔素の流れを書き加える。


「それ以外は図の通りです。ウィラン様はもうほとんど捉えられているので、すぐ見えるようになると思いますよ」

「そうですか! それは嬉しいお言葉です。この件が終わったら、是非そのことについてもお話を伺いたいです」


 目を輝かせるウィランは、とても生き生きとしている。

 こういう部分が自分と重なるからだろうか、とても親近感が湧く。


 魔素や魔法の理論は、ルティナにはわからない分野だ。

 珍しいものを目にしてしまうと、どうしても気になってしまう。


「下の小さな図形は、この谷を表したものですか?」


 ルティナの言葉に、ウィランは分かりやすく固まった。

 一点を見つめたまま、ゆっくりと、ゆっくりと、こちらに視線をずらす。


「ルティナ殿……、なぜ、そう思うのですか?」


 その鋭い視線で、足がじりっと後ろににじる。


「あ、の、この谷の魔素の流れにとても近いと思いまして……。谷の道、出口から巻き上がって上空の頂点へ、谷の反対側からまた道に戻る。きれいな三角形のように魔素が巡っているので、それを表しているのかと……」

「あ、……あ、あ、……」


 ウィランは焦点が定まっていない目で、必死に何かを見ようとしている。

 一瞬の沈黙の後、バッと谷を振り返った。

 魔素の流れを示した図の上に、すごい勢いでペンを走らせる。

 殴り書きと言ってもいい。


 その様子は鬼気迫るもので、レイランと2人、ただ見つめるしかなかった。


 しばらくのあと、ウィランは書くのを止めた。

 その小刻みな呼吸からは、彼の興奮が伝わってくる。


「……ルティナ殿。あなたはやはりとんでもない人だ。その目には一体なにが見えているのだろう。僕はあなたの目と頭が欲しくてたまらない」


 ウィランはこのまま倒れてしまうのでは、と心配になるほど興奮している。


 ルティナにはまったく意味が分からない。

 レイランと顔を見合わせ、ただウィランを見守る。


「この谷の魔素の動きは、それだけで魔法陣のような形を成しているんだ。三角形は風の魔法陣の原型だ。谷の魔素の大きな循環の中に、細かい渦や方向性があり、この循環がすでに緩い魔法として成立している。自然界の中にだ、人が考える魔法陣の形……逆を言えば、自然界にあるこの状態を、人が魔法として理論建てた可能性だってある。これはとんでもないことだ。摂理はここにあったんだ」


 息継ぎすることもなく言い放った後、ウィランは咳き込んで胸を叩いている。

 レイランが寄り添い、ウィランの背中をさする。


「それは……すごいですね。確かに、魔素は魔法の源。属性は風自身が持っている……。それを陣で発動するのなら、魔法は成立する。……改めて、自然の大きさ……計り知れない深さを感じてしまいます」


 レイランはさすりながら、冷静に考えを巡らせている。

 ルティナも同意見だ。


 魔素というのもまた、霊素と共にこの世界の巡りに深く関わっているもの。

 霊素は人へ繋がる部分も多く、魔素は環境に影響を与えやすい。


 この2つが互いに補完し合いながら、霊素と魔素のバランスが保たれている。


 今回はそのバランスが少し強く揺らぎ、魔素の力が強く影響を出したのだ。


 そして、ウィランはきっと、見えない霊素の存在に気付くだろう。

 これだけ深く考えるのであれば、魔素だけでは説明が出来ないことにたどり着く。


 ユアンとレイランは、きっと自らそれを語ることはしない。

 ルティナは、ウィランにもいつかそのことを話す日が来るのだと、心の中で思った。


「ウィラン様の、魔素を読み解く目は素晴らしいです。わたしはただ、昨日おっしゃっていた魔法の構築というのが、この図形なのかと思っただけなのです」

「その視点だよ、僕にはないその客観的な視点だ」

「それは、わたしが魔法を知らないだけだと思いますが……」

「確かにそうかもしれない。でも、それだけではないんだ。本質を見る力、捉える力の差だ」


 真っ直ぐすぎる褒め言葉は、本当に慣れないし、受け取るのが苦手だ。

 そんなにきらきらとした嬉しそうな目を向けないで欲しい。


「あ、ありがとうございます……」


 レイランが見かねて、何気なく間に入ってくれる。


「それはそうと、ルティナ様、お届けしたものは使えそうですか? 足りなければまた取ってきますが」


 無理のない話題の切り替えは、さすがレイランだ。

 心の中でレイランに拍手を送るのは、2度目だ。


「はい、わざわざありがとうございました。あれを使って、香を仕上げることができました」


 ルティナは小さな包みを取り出す。

 2種の香の効果と、焚き方を説明する。


「なるほど、匂いを入り口にして、自然界の心地よい揺らぎを体感として伝える……。これもまた、考えられない発想だ……」


 ウィランは再び、思考の巡りに戻ったようだ。


「そこで、ご相談なのですが……レイラン様。火を起こさず、熱だけを香に与えるということは可能でしょうか?」

「熱だけ、ですか」

「この鎮静の香は、火を付けて焚くことで、淡い煙と共に魔素の流れに乗せます。ですが、こちらの練り香は、火を灯さず、熱だけで香りを沈むように広げたいのです」


 レイランは、少し考えるように下を向く。


「今まで、火を出さずに魔法を発動したことがありません……。熱を発する魔導石では、代わりにならないでしょうか?」

「魔導石は常に一定の熱になってしまうので、人の魔法が持つ“揺れ”が欲しいのです」

「魔法の、揺れ……」


 少し離れたところから飛んでくる鋭い視線は……、感じない……はずだ。


「人の発動する魔法は、微かに揺れがあります。魔素が身体の中を通りますから、呼吸、鼓動、脈、人の身体にあるそれらが影響するのかと。火や風といった自然のものには、そういう揺れがあるものです。生物にはその方が馴染みやすいと言いますか、それも含めて、香の効果といいますか……」

「なるほど……なんとなく理解できます。ですが――」

「これではどうだろう?」


 ウィランが紙を差し出した。

 そこには、五芒星のような形の魔法陣が描かれていた。

 ウィランがレイランに説明を始める。


「発火して広がる火ではなく、集めて凝縮させる陣だ。あまり強くし過ぎると逆に弾けてしまうと思うが、そのあたりの調整はできるだろう?」


 発火せずに熱を凝縮させる魔法陣を、今この場で構築したということだろうか。

 でも、多分これはとても難しい。

 火の持っている性質とは逆の方向で安定させるということだ。

 陰の霊素を広げようとするのと同じ。それをできるようになるまで、かなり苦労した。


「これは……少し難しそうですが……」

「ちょっと試してみてくれ。無理があれば調整する」


 レイランは魔法陣が描かれた紙を受け取り、少し離れたところで集中する。


 魔法を発動する時の魔素の動きを視たい。ルティナは額に意識を置く。


 レイランの体内の魔素が右腕に集まる。

 そこに紙に描かれた魔法陣が組まれていく。

 不思議だ。そして美しい。

 その魔法陣が組み上がるほど、魔素は赤みを帯びていく。


 組み上がった後、世界に漂う魔素が、その魔法陣に吸い寄せられるように動く。

 魔法とは、体外の魔素を取り込み発動するもの。

 理屈は分かっていたが、実際に見ると、それはずっと幻想的な光景だ。

 

 魔法を扱える人は、魔素を使っているのではない。

 魔素に自分の色を渡し、意思を伝え、共に形を成す。

 それは魔素との共鳴だ。

 互いに響き合える者が、魔法を扱えるのだ。


 それは霊素のそれとも重なる部分が大きい。


 魔素も、霊素も、本質は同じなのだ。



 この光景から、ルティナはこの世界への深い感動と理解を受け取った。

 ずっとどこかにある孤独感も、埋めてくれるような気がした。

 自然と目から涙が落ちる。


 レイランの右腕の前には、小さく集まった火の粒子が、橙色の光を放っていた。



「ルティナ……殿、どうかされましたか?」


 心配そうな声が近付いてくる。

 魔法を試していたレイランも、焦ったように駆け寄ってきた。


「……いえ、とても……感動してしまって」


 ルティナは今見たまま、感じたままを2人に伝える。

 この人たちならば、きっと同じように感じるはずだ。

 そういう人たちだ。



 2人はただルティナの話を聞き、それぞれに何かを感じていた。

 レイランは誇らしそうに、ウィランはどこかに意識が飛ばされているようだ。


「魔法とは、そういう風に発動していたのですね。自分で扱っていながら、そこまで理解はしておりませんでした」

「……誰だってそうだ。自分の力で発動している気になってしまう。僕はとても……深く反省している。自分が魔法を操っているような感覚だった」


 その気持ちも、ルティナにはよく分かる気がした。

 誰にでもできるわけではない、人よりも強く扱える、そういう感覚は特別感が生まれるのだ。


 ルティナはそれで苦しんだ経験で、むしろ霊素という存在が嫌で仕方がなかった時期もある。

 それは被害妄想――違った意味での特別感だ。


 霊素という存在を受け入れ、理解したいと思ってからが始まりだったように思う。

 ルティナはふと、思った。


「ウィラン様、なんでもいいので魔法を発動してみていただけませんか?」


 ウィランは不思議な顔をしながらも、小さく抜ける風を放った。

 その風はとてもしなやかに、ルティナの横を通り遠くへと消える。


「あ……」


 ウィランはその風の向かった先を見つめたまま、動かない。


「……見えましたか?」

「……ああ、見えた。ほんの僅かだが、確かに感じた。身体の中と、目の前に……」


 ウィランは左手を見つめている。


「……淡い翡翠のような。まるで自分の瞳の色のようだった。そして、ルティナ殿の言っていた、白に近い銀鼠も」

「やはり、もう見える状態だったのですね。五感ではしっかり捉えておられましたから」


 ウィランは、全身から、溢れんばかりの笑顔で頷いた。



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