避難地 3
「まず僕達はこの近辺で事件が起きたときに野次馬で見に行ったんだ。でも現場をみて青ざめたよ。明らかに普通の事件だとか暴動とかとは一線を越えていて、逆に作り物の映画でも見ている気分だったよ。これはやばいと思ってすぐにその場を離れて家に帰ったんだ。そこからニュースやインターネットで事件のことを調べていたんだ」
ここまでの経緯を語り始める如月。
「しばらくすると、すごい爆発音と地響きがしたから窓からその方角を見ると煙が上がっていてね、怖かったけどそんなに遠くではなかったから三人で見に行ったんだ。すると燃えているバスに一人倒れている君を見つけてね、ゾンビもよってきていたし慌てて抱えてこの家まで避難してきたんだよ」
「宗助は!?宗助はどうしたの!?」
いきなりの大声に如月は驚き、返答に詰まってしまう。
しかし綾香はそんな事お構いなしに必死に問い続ける。
「ねえ答えてよ!宗助は!?宗助は!?」
「宗助って誰かはわからないけど、あの現場にいたのは気絶している君一人だったよ?」
その言葉を聴いた綾香の視界が歪む。
もしかしたら、宗助はゾンビに噛まれてしまったのか?いや、ランクAの異能力を持つ五十嵐さんまでいたんだ。なんとかなる可能性のほうが高い。
つまり、見捨てられたのかもしれない。
そう考えると膝に力が入らず、うまく立つことができない。
今まで小さい頃から一緒にいた宗助に見捨てられた。それは綾香にとっては一番の辛いことであった。
「宗助君は大丈夫だよ!」
そんな状態の綾香を救ったのは西ヶ野の一言だった。
「事故が起きたときに火とかバスの残骸でみんな離れ離れになっちゃったんだよ。宗助君は疲労で動くことができなかったから久美ちゃんがつれていっちゃったの」
「そう…なんだ。よかった…」
今にも消えそうな声でつぶやく綾香だったが、西ヶ野はあえて真実を伝えていない。
西ヶ野は見てしまった。教師の梁瀬と、小雪が倒れている綾香を見捨てた瞬間を目撃してしまった。
偶然見逃したとかではない。明らかに気付いた上でその場を去っていた。
どんな意図があったとしても西ヶ野は彼らの行為を許すことができなかった。次にあったときには、どんな結末になろうと話をつけなければならない。
だがそれを今綾香に伝える必要はない。無駄に彼女を混乱させるだけだ。
「なら、はやく行かないと!宗助が待ってる!」
「ま、まってよ!君は怪我をしているし、何より今は夜だよ?今から行くのは危険だよ。せめて明後日まではこの家で安静にしようよ」
「でも早くいかないと、ッツ!」
「ほら言わんこっちゃない。まだ痛むだろう?安静にしておくべきだよ」
「私もそう思うよ。井上さん。もっと万全の状態になってからいこう。幸いまだいてもいいっていってくれているみたいだし。焦ってあいつらにやられちゃうほうが問題だよ」
「え、ええ…」
先を急ぎたい綾香であったが、さっきの意見も正しいとわかったので万全を期すために明後日にイミュを目指すことに決めた。
如月に案内され、綾香と西ヶ野は誰も使っていない空き部屋にたどり着いたところで如月は急に二人へ注意をしてきた。
「この部屋は自由に使っていいけど1つだけ注意してほしいことがある。この部屋をでて一番奥にある部屋には絶対に入らないでほしい」
「いいけど…どうして?」
明らかに怪しい注意に西ヶ野は不審に思い、理由を尋ねる。
「それは……病気の祖母が寝込んでいるんだ。なるべく静かにしてあげたいから、頼むよ」
「そうなの…わかったわ」
「わかってくれてよかった。じゃあごゆっくり」
そういってその場を去る如月に残った二人は語り始める。
「最初は怪しい感じがしたけど、結構いい人なのかもしれませんね」
「そうかもね」
「今日はもう疲れたし、お風呂は入れないんですかね?」
「じゃあ私が聞いてきてあげるよ」
そういって壁をすり抜け、部屋を出て行く西ヶ野。
彼女自身も気付いてきたが、幽霊になる前より力が増していると感じていた。今までは壁を通り抜けることも楽なことではなかったのだが、今はそんなことを全く感じないほど滑らかに通り抜けることができる。
何回かの壁を越えた後、彼ら三人組が何か話し合っている姿を見つけて声をかける。
「あのー?お風呂って入れる?」
「うわっ!びっくりした!急に話しかけないでよ!」
普通の驚きとは度を越した反応をした三人組。
如月が三人を代表して西ヶ野に強い口調で言う。
「お風呂はあっちだ!勝手に入っていいからさっさといってくれ!」
「う、うん…。そんなに怒らないでも…」
とぼとぼと部屋に戻りお風呂の場所を綾香に教える。
「じゃあお風呂に行きますけど…西ヶ野さんって入れるんですか?」
「ううんと…たぶん入る意味がないと思うんだ。今までも幽霊の状態になっていると汗もかかないし、汚れもしないし。一人で入ってきなよ」
「そうですか…じゃあ一人で行ってきますね」
「うんいってらっしゃい」
一人で行ってしまった今、一人ぼっちになった西ヶ野はなんとなしに寝転びながらプカプカと浮かぶ。
するとどこかから声が聞こえたような気がした。
「たす……けて……」
「えっ!?今の声何!?幽霊!?」
「たす…けて!」
「え?怖い!?何!?井上さぁぁぁぁん!!」
突然の声に怖くなった西ヶ野はお風呂に入っている綾香の下へ急いで飛んでいった。




