第七話 リリー2
第七話 リリー2
リリーが十五歳になった。もう、猫としては高齢で、いつ死んでもおかしくない。外見は、そんなに変化しなくて可愛いままなので、タカユキはあいかわらず溺愛している。
「リリーちゃんは世界一可愛いね」
とか言って。
タカユキ自身も、もう中年のオッサンだ。研究所の中でも古株になった。
そんなタカユキがある日、仔猫を連れて帰ってきた。
「リリーちゃん、この仔、リリーちゃんのクローン体だよ」
言われて仔猫を見ると、毛の色も目の色もリリーとまったく同じだった。
「リリーちゃんは世界一可愛いからね、リリーちゃんと同じ姿の仔がいれば、リリーちゃんが死んじゃっても、ボク、寂しくないよ」
人間はバカだと、リリーは思った。同じ姿、同じ遺伝子でもその仔はリリーじゃないし、リリーがまだ生きているのにリリーのクローンを連れて来るとか、リリーに失礼だと思わないのだろうか。
人間は昔から、血統書付きの純血種の猫とか犬とかにこだわっていた。ペルシャとかアビシニアンとか、純血種の猫には毛色とか目の色とか身体つきとかに理想の形を設定して、その基準から外れた個体は無価値だとして殺処分したりしていた。純血種の飼い猫が管理ミスで野良猫と交配してしまうと、純潔じゃない仔はいらないとか言って生まれた仔猫を棄てたりしていた。
犬や猫だけじゃない。
同じ人間の女に対しても、アイドルの○○みたいな顔がいいとか、胸が大きくてウエストがキュッと細くてお尻がプリッとしているのがいいとか、勝手な基準を作って、そこに当てはまらない女をブスとかデブとか言って蔑んでいた。
猫自身は、理想の基準なんて気にしない。でも人間の女性は、もっと胸が大きくなりたいとか痩せたいとか、美人になりたいとか言って、基準にはまりたがっている。なんでわざわざ自ら枠にはまりたいのだろう。
同じ毛色で同じ目の色とか、理想の姿とか、心底どうでもいい。
きっと犬も、そう思っているだろう。いや、犬の場合は、警察犬とか盲導犬とか犬種による能力というものがあるから、純血種とかスタンダードが重要かもしれない。なにをどうやったってチワワやポメラニアンでは盲導犬や山岳救助犬にはなれないのだから。
リリーは、タカユキが連れて来た自分のクローンを、ペロペロと舐めた。
クローンの仔猫はリリーを見上げて、
「にゃあーん」
と甘えた声で鳴いた。
リリーは高齢猫で、もういつ虹の橋を渡ってもおかしくない。
だからタカユキは、リリーのクローンを連れて来たのだろう。
まあ、いいか。
「リリー2ちゃん、リリーちゃんと同じように、ボクを癒してね」
しかしリリー2は気性が荒く、タカユキになつかなかった。タカユキが抱き上げようとすると逃げて、やんのかステップで威嚇するのだ。
「なんで? リリーちゃんみたいに可愛く鳴いて、ボクを癒してよ」
「シャーッ!」
リリー2はタカユキの手に猫パンチした。
タカユキの手にはひっかき傷ができて、血が流れた。
「ああーっ、いってえええ!」
タカユキは情けない声をあげる。
「リリー2ちゃん、ひどい!」
「シャーッ!」
オリジナルのリリーはそれをぼーっと見て、欠伸をした。




