第六話 出来心
第六話 出来心
ある日、タカユキは酔っぱらってアパートに帰ってきた。
リリーは酒のニオイは気にならない。猫は植物性のニオイには興味が無いからだ。アロマオイルやエッセンシャルオイルは猫には有害らしいが、タカユキの部屋にはそんなものは無い。柑橘類やハーブも無い。冬には蜜柑を食べることくらいはあるが。
人間の女だったら、酒臭い、近寄るな、と怒るであろう腕でリリーを抱き寄せる。
タカユキはリリーを抱いて撫でながら、ぶつぶつと愚痴をこぼしている。
「ヒトミちゃん、あんなに可愛いのに腐女子なんだって。ショックだよ。だからこっそり、ヒトミちゃんの核を抜いた未受精卵にリリーちゃんの核、入れちゃった。そうしたらリリーちゃんみたいな可愛くて優しい女の子になるかもしれないもんねえ」
「にゃあーん」
もちろん、タカユキだって科学者の端くれだから、人間と猫のあいのこなんてできるはずがないと、ちゃんとわかっている。しかしケモ耳ケモ尻尾の可愛い女の子は、男のロマンだし、いろいろとストレスが溜まっていたのだ。
リリーちゃんの核を入れたヒトミの未受精卵を、細胞センターにこっそり保管した。遠い未来に、いつか誰かがクローニングしてくれればいいな、とニマニマした。
クローニングしてもすべてが成功するとは限らないし、成人まで育つとも限らない。
毎年、決められた数のクローンが作られ、三歳までは細胞センターに併設された養育センターで育てられてから、出荷される。後継者を必要とする事業主や金も暇もあって子育てをしたい夫婦に引き取られ、育成される。
それでも、地球人口は緩やかに減少していく。
人間の自然繁殖は、復活しない。
クローニングは、まだ、可能だ。
しかしいずれ、限界を迎える。
第五十八世代。それ以上はクローニングできないと、マウスでは実証されている。人間では、わからない。
わからないけれど、それまでに自然繁殖を復活させることが、人類共通の最優先の課題なのだ。させなければ、人類は滅ぶのだから。




