第十話 タカユキ13
第十話 タカユキ13
約二百三十四年後。オリジナルはとうの昔にいなくなった。
クローンしかいない世の中になって、ずいぶん時間が経過した。
動物は、同性生殖によって生まれた個体が、ずいぶんと増えた。そしてその個体とクローン体との自然繁殖も、かなり多くなった。同性生殖で生まれた個体はコピーミスが僅かずつ修復された結果として性欲が徐々に復活してきた。
家畜はもう、クローニングをしなくても安定的に出荷できるようになった。同性生殖によって生まれた個体を種牡として、クローンのメスを妊娠させる。クローンには性欲が無いので嫌がるが、不可抗力だ。
そうやって生まれた中には、性欲が復活しつつある個体が散見される。よい兆候だと、研究者たちはニマニマした。
ただし、人間はそういうわけにはいかなかった。
同性生殖をしない。
自然繁殖も、復活しない。
だから今もクローニングが続けられている。コピーミスは修復されず、人間の遺伝情報は脆弱になっていく。
「あれ?」
細胞センターで細胞の保管状態を整理していたタカユキ13が声をあげた。
タカユキ13は、オリジナルのタカユキから再クローニング十三世代目である。
「ヒトミって、オリジナルの俺の同期だった人ですよね?」
「俺に訊くなよ」
タカユキの細胞の保管場所にヒトミの細胞があったのだ。
「そんなにヒトミって女が好きだったんですかねえ」
性欲が消失しても、恋ってするんですかねえ、と、タカユキ13は感慨深げにつぶやいた。
「恋ってなんですか?」
若い研究者が不思議そうな顔で言う。
性欲が無いことが当たり前のこの時代、恋の意味がわからない者もたくさんいる。
「俺もよくわからないけど、きっと俺のオリジナルはヒトミを大事にしていたんだよ」
だからこのヒトミの細胞をきちんとクローニングしてあげよう、とタカユキ13は思ったのに、うっかり忘れてそのままになってしまった。
その頃、研究者のひとりが、海外からのデータを仲間達に見せていた。
アメリカでの成果で、何世代かクローニングを繰り返して遺伝子変異が蓄積したクローン男の細胞を、冷凍保存されていたオリジナルの女性の卵子細胞に人工授精させたところ、遺伝的異常が劇的に修正された個体が生まれたというデータだ。
「クローン女性の卵子にオリジナル男性の精子を受精させた場合でも、同じくらいの数値が得られたそうですよ」
「そうか」
犬、猫、豚やウサギ、それに牛や馬でも、オリジナル体とクローン体の交配で、クローニングによる遺伝子異常を高確率で修正した個体が確認できた。
ただし、遺伝子異常がリセットできるのは、第二十六世代までで、それ以上の再クローニング体は、遺伝子異常のリセット率が下がるようだった。
「やっぱりクローニングではなくて自然交配のほうが強いんだな」
この場合の強いというのは、コピーミスが修正される、遺伝子の脆弱性が補強される、という意味だ。
「とにかく大きな一歩だ。オリジナルや同性生殖で生まれた個体とクローンを交配していれば、いずれは自然繁殖までたどり着くぞ」
「そうなるといいですね」
人間のクローン第二十七世代頃。
再クローニングの成功率が、下がり始めた。
障害のある個体が多くなってきた。
人格や人権があると法律で定められているので、かつてのように殺処分はできない。
しばらくすると、コピーミス体保護センターが増設されることになった。
オリジナルの細胞保管状況を統括する国際細胞連盟から発表があった。
『保管されているオリジナルの細胞が、最多の時の半分になりました』
あれだけべらぼうな量のオリジナルの人間の細胞を保管したのに。
動物は、自然繁殖が復活しつつあるのに。
人間は、早く自然繁殖を復活させなければ、世代限界に到達してしまう。




