第64話 見えない敵
最初に崩れたのは、倉庫だった。
夜明け前。
ルクサリア北部、仮設補給拠点。
見張りの兵が、異変に気づいた時には遅かった。
「火だ!」
叫びが上がる。
次の瞬間、爆ぜる音。
穀物袋が燃え上がる。
油が撒かれていた。
明らかに、事故ではない。
*
「誰だ!?」
兵が走る。
だが影はもういない。
残っているのは、焼ける匂いと――
刻まれた印。
床に、黒い炭で描かれた印。
円が歪んでいる。
均衡の紋章を、意図的に崩した形。
*
レギオン。
報告は即座に届く。
「補給拠点、襲撃」
円卓に緊張が走る。
レオナが言う。
「敵か」
カイエルが首を振る。
「違う」
一言。
「内部です」
*
リリアが眉をひそめる。
「民衆?」
「一部」
カイエルは答える。
「だが誘導されている」
その言葉に、空気が変わる。
*
カミラが言う。
「……誰が?」
沈黙。
その答えはまだない。
だが。
全員が思い浮かべている。
*
イリスは静かに言う。
「証拠を」
短い。
だが鋭い。
*
ルクサリア。
エリアナは焼けた倉庫を見ていた。
黒く焦げた穀物。
崩れた壁。
そして。
残された印。
「……これ」
手を伸ばす。
触れる。
冷たい。
だが。
意図がある。
*
「均衡の紋章……?」
側近が言う。
エリアナは首を振る。
「違う」
静かに。
「壊されている」
その違和感に気づく。
*
その時。
一人の男が捕らえられて連れてこられる。
「放火犯です!」
兵が叫ぶ。
男は震えている。
ただの民。
*
「なぜやった」
エリアナが問う。
男は叫ぶ。
「命令された!」
「均衡機構は敵だって!」
ざわめき。
*
「誰に」
男は答えられない。
ただ。
「知らない……」
震える。
*
リリアが近づく。
男の目を見る。
「金は?」
男が一瞬、反応する。
それだけで十分だった。
*
「誰かが払ってる」
リリアが言う。
冷静に。
*
レギオン。
サディークが言う。
「資金の流れを追う」
エルミナが笑う。
「ようやく出番ね」
市場。
金。
ここに来て繋がる。
*
カイエルが静かに言う。
「これは」
一言。
「組織的です」
沈黙。
*
リュネが呟く。
「信仰だけではない」
カミラ。
「民衆だけでもない」
レオナ。
「軍でもない」
*
イリスが言う。
「全部です」
その一言で、全てが繋がる。
*
その夜。
レギオンの地下。
密談。
黒衣の男たち。
「うまくいっている」
「不信は広がった」
「次は?」
一人が言う。
「選挙を潰す」
*
「グラントは?」
「動いている」
低い笑い。
*
その影の奥。
一人の男が立っている。
オルディス。
「いい」
低い声。
「均衡は壊れる」
*
「外からではない」
ゆっくり言う。
「内側から」
*
ルクサリア。
エリアナは空を見上げていた。
静かな夜。
だが。
確実に何かが動いている。
「……敵は」
小さく呟く。
「見えない」
*
リリアが隣に立つ。
「見えるわ」
エリアナが振り向く。
「どこに?」
リリアは答える。
「結果に」
*
「誰が得をするか」
一言。
「それで分かる」
エリアナは息を呑む。
その視点はなかった。
*
遠くで火が上がる。
また一つ。
また一つ。
小さな炎。
だが確実に増えている。
*
均衡は試されている。
今度は。
見えない敵に。
そして。
それはもう――
止まらない。
読んでいただきありがとうございます!
ついに「見えない敵」が動き出しました。
民衆・信仰・市場――すべてを巻き込む“内側からの崩壊”。
そしてリリアの一言、
「誰が得をするか」が今後の鍵になります。
次話では、ついに“黒幕の輪郭”が見え始めます。
ここから一気に物語が加速します。
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次話もお楽しみに。




