第63話 制度は誰のものか
石は止まった。
だが――視線は止まっていなかった。
ルクサリア公都ルクス。
広場に残る民衆は、誰も帰ろうとしない。
叫びは消えた。
だが、沈黙が重い。
*
リリアはその中心に立っていた。
誰も何も言わない。
ただ見ている。
それが一番厄介だった。
*
「……何か言えよ」
誰かが呟く。
だがそれは要求ではない。
試している。
この女は何を言うのか。
*
リリアは一歩前に出る。
「言うわ」
短く。
視線を正面に向ける。
「制度は」
一拍。
「あなたたちのものじゃない」
ざわめきが走る。
*
「……は?」
「何言ってんだ」
怒りが戻る。
だが。
リリアは続ける。
「私たちのものでもない」
沈黙。
*
「制度は」
ゆっくり言う。
「“使うもの”よ」
誰もすぐには理解できない。
*
「剣と同じ」
「持つだけじゃ意味がない」
「使わないと」
一歩踏み出す。
「何も変わらない」
*
男が言う。
「俺たちは選んだ!」
リリアは頷く。
「そうね」
「でも途中で止まった」
事実。
否定しない。
*
「だから今は」
一言。
「中途半端」
沈黙。
その言葉は鋭い。
*
「完成してない制度に」
「完璧を求めてる」
ざわめき。
誰も言い返せない。
*
エリアナがその言葉を見ていた。
それは彼女にも刺さる。
自分も同じだ。
*
リリアは続ける。
「だから」
一歩前へ。
「完成させる」
*
「選挙を」
「最後までやる」
空気が変わる。
*
「……できるのか?」
男が問う。
今度は怒りではない。
疑問。
*
リリアは答える。
「できるようにする」
短い。
だが強い。
*
「邪魔するなら止める」
「助けるなら任せる」
そして。
「選ぶのはあなたたち」
沈黙。
*
民衆の中で、何かが動く。
怒りではない。
完全な信頼でもない。
だが――
拒絶でもない。
*
その時。
エリアナが前に出る。
「……私も」
声が少し震える。
だが続ける。
「やります」
*
「逃げません」
「決めます」
そして。
「民に任せます」
その言葉は小さい。
だが。
確かに届く。
*
群衆がざわめく。
先ほどとは違う。
少しだけ。
前に進んだざわめき。
*
遠くで見ていた黒衣の男が眉をひそめる。
「……変わったな」
小さく呟く。
そして。
「だが遅い」
*
夜。
ルクサリアの裏路地。
集まる影。
「選挙を再開するらしい」
「ふざけるな」
「また奪われる」
低い声が交錯する。
*
「グラントが戻る」
その一言で空気が変わる。
「本当か?」
「確実じゃない」
「だが動いている」
*
誰かが言う。
「ならその前に動く」
沈黙。
そして。
頷き。
*
レギオン。
カイエルが報告を聞いていた。
「地下組織の動き」
「活発化」
彼は静かに目を閉じる。
「……始まったか」
*
イリスが言う。
「何がですか」
カイエルは答える。
「制度の本当の試験です」
*
「敵は」
一言。
「外ではありません」
沈黙。
*
「内側です」
その言葉は重い。
*
地下牢。
オルディスは笑っていた。
「いい」
低い声。
「制度を使うか」
そして。
「壊すか」
目が細くなる。
「人は選ぶ」
*
ルクサリア。
再び動き始める。
選挙。
民衆。
制度。
そして。
見えない敵。
*
均衡は、次の段階へ進む。
それは。
制度が“使われる”か。
それとも。
“壊される”か。
その分岐点だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は「制度は誰のものか」という核心に踏み込みました。
リリアとエリアナの一歩が、わずかに流れを変えましたが――
同時に、水面下では新たな火種が動き始めています。
次話ではついに「見えない敵」が具体的に動き出します。
制度は守られるのか、それとも内側から崩れるのか。
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次話もお楽しみに。




