第62話 民衆の不信
石は、今度は止まらなかった。
ルクサリア公都ルクス。
暫定政権の布告が出された翌日。
広場に集まった民衆は、昨日とは違っていた。
「また勝手に決めた!」
「選挙は何だったんだ!」
怒号が渦を巻く。
兵が壁のように立つ。
だがそれは、守るためではなく――押し返すための壁だった。
*
エリアナは階段の上からそれを見ていた。
昨日までの沈黙はない。
迷いもない。
あるのは、はっきりとした拒絶。
「……」
言葉が出ない。
分かっていた。
こうなる可能性は。
だが――
目の前で見ると、違う。
*
「出ない方がいい」
側近が言う。
エリアナは首を振った。
「出ます」
その一言に、覚悟が混じる。
*
階段を下りる。
ざわめきが一斉にこちらを向く。
公女。
それだけで、視線が集まる。
*
「話を聞いてください」
声を張る。
だが。
「聞くか!」
即座に返る。
「どうせ決まってるんだろ!」
「均衡機構が!」
言葉が刺さる。
エリアナは息を呑む。
*
その時。
一人の男が前に出た。
難民の衣。
やつれた顔。
「俺たちは選んだ」
低い声。
「それを無かったことにされた」
沈黙。
その言葉は、正しい。
*
エリアナは答えられない。
選挙は途中で止まった。
暫定政権になった。
それは事実。
*
その時。
背後から足音。
リリアが前に出る。
群衆がざわめく。
「……あんたか」
誰かが呟く。
*
リリアは群衆を見る。
逃げない。
「そうよ」
短く言う。
「決めたのは私たち」
ざわめきが一瞬止まる。
*
「じゃあ責任も取る」
その一言。
空気が変わる。
*
「食料は供給する」
「仕事も作る」
「治安も守る」
一歩前に出る。
「その代わり」
視線を全員に向ける。
「時間をちょうだい」
*
沈黙。
怒りは消えない。
だが。
完全な拒絶でもなくなる。
*
「……信じられるかよ」
男が言う。
リリアは答える。
「信じなくていい」
ざわめき。
*
「結果で見る」
静かな声。
「失敗したら」
一拍。
「私を引きずり下ろせばいい」
沈黙。
その言葉は重い。
*
男は何も言えない。
ただ、睨む。
だがその目は、少しだけ揺れている。
*
群衆は完全には収まらない。
だが。
暴発もしない。
均衡が戻る。
ほんのわずか。
だが確かに。
*
その様子を遠くから見ている者がいた。
黒衣の男。
オルディスの配下。
「……止まったか」
小さく呟く。
そして。
「だが弱い」
口元が歪む。
*
レギオン。
報告が届く。
「暴動、未遂で収束」
カミラが息を吐く。
「ギリギリね」
エルミナ。
「市場はまだ持つ」
サディーク。
「資源も」
リュネ。
「信仰も」
*
カイエルが静かに言う。
「だが」
一言。
「不信は残った」
それが本質。
*
イリスは言う。
「それでいい」
全員が見る。
「信頼は」
「作るものです」
短い言葉。
だが重い。
*
その夜。
ルクサリア。
街の外れ。
密かに集まる影。
「均衡機構は嘘だ」
「選挙を奪った」
「次は俺たちだ」
低い声。
怒り。
そして。
誰かが囁く。
「グラントは生きている」
空気が変わる。
*
「……どこに?」
「分からない」
「だが戻る」
その言葉は火種だった。
*
遠くで、それを見ている男。
オルディス。
「いい」
低い声。
「不信は育つ」
そして。
「次は分裂だ」
*
ルクサリアは、静かに揺れている。
戦争は終わった。
だが。
争いは、形を変えただけだった。
読んでいただきありがとうございます!
今回は「制度 vs 民衆」のぶつかり合いでした。
リリアの選択が正しかったのか、それとも――
そして水面下で動き出した“不信”と“グラントの影”。
ここから一気に次の段階へ進みます。
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次話は「制度そのものが疑われる展開」へ。
お楽しみに。




