第61話 残された王位
戦いは、終わった。
だが――静けさは訪れなかった。
ルクサリア公都ルクス。
崩れた城壁、焼けた街路、閉ざされた市場。
そして、誰も座っていない王座。
*
広場に人が集まっていた。
だが歓声はない。
勝利もない。
ただ、戸惑いだけがあった。
「……結局、誰が王なんだ?」
誰かが呟く。
その言葉は、静かに広がった。
*
エリアナは玉座の前に立っていた。
足元には、割れた石。
戦いの痕跡。
彼女はまだ王ではない。
だが、王に最も近い場所にいる。
「……」
言葉が出ない。
民を守ると決めた。
戦いも、逃亡も乗り越えた。
だが――
最後の一歩が、見えない。
*
その時、扉が開く。
均衡機構の一団が入ってくる。
レオナ。
カミラ。
リュネ。
そして。
リリア。
*
空気が変わる。
誰もが彼女を見る。
王ではない。
だが、この場で最も「決断」をしてきた人物。
*
リリアはゆっくりと歩く。
王座の前まで。
そして止まる。
「……空いてるわね」
その一言に、空気が揺れる。
軽い言葉。
だが重い意味。
*
カミラが言う。
「選挙は不成立」
レオナ。
「軍で決めるか?」
リュネは首を振る。
「それは繰り返しです」
沈黙。
誰もが分かっている。
ここで間違えれば、
また戦争になる。
*
リリアは玉座を見つめていた。
そして。
「一つだけ方法がある」
全員が彼女を見る。
*
「王を決めない」
沈黙。
理解が追いつかない。
*
エリアナが言う。
「……どういうことですか」
リリアは振り向く。
「暫定政権」
短く言う。
「王不在で国家を動かす」
*
ざわめきが広がる。
「そんなことが……」
「できるのか?」
当然の反応。
*
カイエルがいれば頷いただろう。
だが今は、リリアが言う。
「均衡機構は」
一歩前に出る。
「それをやっている」
静寂。
*
「国家も同じ」
「王がいなくても動く」
そして。
「制度で」
*
レオナが言う。
「不安定だ」
リリアは即答する。
「王を無理に立てるよりはマシ」
エルミナがいれば笑っていた。
だが今は、沈黙だけがある。
*
カミラが言う。
「民意は?」
リリアは答える。
「だからこそ暫定」
「再選挙までの時間を作る」
理にかなっている。
だが――
感情が追いつかない。
*
エリアナは玉座を見つめた。
そこに座ることもできた。
名乗ることもできた。
だが。
彼女はゆっくりと首を振る。
「……私は」
小さく言う。
「まだ、その資格はありません」
沈黙。
それは強さだった。
*
リリアはわずかに微笑む。
「なら決まりね」
*
カミラが記録を取る。
「ルクサリア暫定政権」
レオナが短く言う。
「軍は監視に留める」
リュネ。
「信仰も介入しない」
均衡が再び形になる。
*
民衆のざわめきが変わる。
完全な安心ではない。
だが。
崩壊ではない。
*
その時。
一人の男が叫んだ。
「また上が決めたのか!」
空気が凍る。
「選挙も意味がなかった!」
「結局、同じだ!」
その声は広がる。
共鳴する。
*
リリアはその男を見る。
逃げない。
「そうね」
静かに言う。
ざわめきが止まる。
*
「完璧じゃない」
「間違いもある」
「でも」
一歩前に出る。
「何も決めない方が、もっと悪い」
沈黙。
その言葉は、重い。
*
男は何も言えない。
ただ、睨む。
そして。
視線を落とす。
*
均衡は、完全ではない。
だが。
動いている。
*
レギオン。
その報告を受けて、イリスは言う。
「よくやりました」
小さく。
だが確かに。
*
だが。
その直後。
新たな報が入る。
「グラント」
「所在不明」
空気が変わる。
レオナが言う。
「……逃げたか」
カミラ。
「終わってない」
*
イリスは静かに言う。
「はい」
一言。
「終わっていません」
*
地下牢。
オルディスは笑っていた。
「いい」
低い声。
「王を消したか」
そして。
「なら次は」
目が細くなる。
「国家を消す」
*
均衡は、一つ前に進んだ。
だが同時に。
より大きな問題を生んでいた。
――王なき国家。
それは安定か。
それとも崩壊の始まりか。
まだ誰にも分からない。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ついにルクサリアは「王を決めない」という選択にたどり着きました。
これは安定なのか、それともさらなる混乱の種なのか――
そして逃げたグラント、動き始めるオルディス。
物語はここから「王位」と「国家の本質」に踏み込んでいきます。
次話では、いよいよ「民衆の不信」と「制度の限界」が正面衝突します。
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それでは、次話でお会いしましょう。




