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婚約破棄された地味令嬢は、辺境で国を再建する ~無能扱いした王太子が後悔してももう遅い ―捨てられたのでお金の管理をやめたら、王都が崩壊しました  作者: 桜庭ルナ
第3部:均衡の試練編

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第60話 均衡は万能ではない

 進軍の音は、静かだった。


 夜明け前。


 霧の中を、均衡機構の軍が進む。


 旗は七つ。


 だが掲げられている紋章は一つ。


 重なり合う円。


 均衡の印。


 *


 レオナは馬上から前を見ていた。


「進軍速度、維持」


「接敵まで二刻」


 短い報告。


 軍は無駄がない。


 選挙とは違う。


 迷いがない。


 *


 一方。


 レギオン。


 均衡評議会室。


 誰も座っていない。


 全員が立っている。


 ただ一つの水晶を見ていた。


 現地の映像。


 *


 カミラが言う。


「これが……」


 言葉が続かない。


 彼女は分かっている。


 これは必要だった。


 だが。


 それでも。


 *


 エルミナが小さく呟く。


「市場は安定する」


 それは事実。


 戦争が始まれば、不確実性は減る。


 だがそれは――


 代償の上に成り立つ。


 *


 サディーク。


「航路は守られる」


 リュネ。


「……祈りが必要です」


 カイエル。


「制度の限界です」


 それぞれが理解している。


 だが受け止め方は違う。


 *


 イリスは何も言わない。


 ただ見ている。


 *


 ルクサリア北部。


 エリアナは軍の到着を見ていた。


 均衡機構の軍。


 敵ではない。


 だが味方でもない。


 その曖昧さが、最も怖い。


 *


「……来た」


 誰かが呟く。


 兵たちがざわめく。


 公女派の兵も、民も。


 誰もが迷っている。


 *


 レオナの軍が前に出る。


 整然と。


 無駄なく。


 そして。


「武装解除を要求する」


 声が響く。


 冷静で、感情がない。


 それが軍だ。


 *


 一瞬の沈黙。


 その後。


 公女派の兵が、ゆっくりと剣を下ろした。


 一人。


 また一人。


 そして。


 広がる。


 戦いは、起きなかった。


 *


 レギオン。


 カミラが息を呑む。


「……止まった」


 エルミナが言う。


「市場は回復する」


 サディーク。


「航路も」


 リュネは目を閉じる。


 静かな祈り。


 *


 だが。


 報告が続く。


「南部」


「王弟派、抵抗継続」


 空気が変わる。


 レオナが低く言う。


「そっちは違う」


 *


 南部。


 グラントは立っていた。


 彼の前には、均衡機構の先遣隊。


 そして。


 彼は剣を抜いた。


「来い」


 一言。


 迷いはない。


 *


 戦いが始まる。


 短い。


 激しい。


 そして。


 血が流れる。


 *


 レギオン。


 その映像が映る。


 誰も言葉を発しない。


 ただ見る。


 これが現実。


 *


 カミラが小さく言う。


「これが……制度の答え?」


 誰も答えない。


 *


 イリスは静かに言う。


「いいえ」


 全員が彼女を見る。


「これは」


 一言。


「途中です」


 *


 彼女は続ける。


「均衡は」


「完璧ではない」


「失敗もする」


「間違いもする」


 静かな声。


 だが強い。


「それでも」


 一歩前に出る。


「最悪を防ぐ」


 *


 沈黙。


 誰も否定しない。


 *


 その時。


 新たな報が届く。


「南部戦線」


「グラント、撤退」


 空気が変わる。


 レオナが言う。


「……終わったか」


 *


 だが。


 次の一報。


「グラント、逃亡」


 沈黙。


 そして。


 カイエルが言う。


「終わっていません」


 *


 イリスは窓の外を見る。


 レギオンの空は静かだ。


 だがその下で。


 何かが動いている。


「均衡は」


 小さく呟く。


「万能ではない」


 *


 地下牢。


 オルディスは笑っていた。


「いい」


 低い声。


「勝ったな」


 誰に対してかは分からない。


 だが彼は確信している。


「均衡は」


 一言。


「穴だらけだ」


 そして。


「そこから崩れる」


 *


 ルクサリア。


 戦いは一旦終わった。


 だが。


 選挙は終わっていない。


 王は決まっていない。


 グラントは消えた。


 そして。


 均衡機構は。


 まだ試され続けている。


 ――ここからが、本当の始まりだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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