第59話 戦争を止める戦争
炎は、夜の方がよく見えた。
ルクサリア南部。
焼け落ちた投票所の残骸が、まだ赤く光っている。
兵の足音が、ゆっくりと近づく。
「制圧完了です」
報告が上がる。
グラントはその光景を見下ろしていた。
「次だ」
短い命令。
「北へ進む」
迷いはない。
選挙を止める。
それが彼の戦争だった。
*
同時刻。
レギオン。
均衡評議会。
「南部、完全制圧」
報告が落ちる。
沈黙。
重い。
誰もすぐには口を開かない。
*
レオナが立ち上がる。
「時間切れだ」
低く、はっきりと。
「これ以上は無理だ」
誰も反論できない。
現実が追いついてきた。
*
カミラが言う。
「まだ北は動いてる」
「選挙は続いている」
声は強い。
だが――
少しだけ揺れている。
*
エルミナが静かに言う。
「市場が崩れ始めてる」
机に数字が並ぶ。
「輸送停止」
「信用低下」
「資本逃避」
それは静かな崩壊。
*
サディーク。
「航路も限界だ」
リュネ。
「信仰も再び割れる」
カイエル。
「選挙は成立しない」
現実が積み重なる。
*
イリスは黙って聞いていた。
そして。
「……そうですね」
小さく言う。
その一言で空気が変わる。
*
彼女は立ち上がる。
「均衡は」
一拍。
「万能ではありません」
誰も否定しない。
*
「選挙は」
静かに言う。
「ここまでです」
沈黙。
それは決断だった。
制度の限界を認める決断。
*
カミラが息を呑む。
「……撤回?」
イリスは首を振る。
「違います」
そして。
「次に進みます」
*
レオナがわずかに笑う。
「ようやくか」
その目は鋭い。
だが、どこか安堵もある。
*
「軍事介入」
イリスが言う。
その言葉は静かだった。
だが重い。
*
カイエルが確認する。
「均衡評議会として」
「正式発動」
イリスは頷く。
*
採決は早かった。
レオナ。
「賛成」
エルミナ。
「賛成」
サディーク。
「賛成」
リュネ。
「……賛成」
カミラは最後まで迷った。
だが。
「……賛成」
そして。
イリス。
「賛成」
満場一致。
*
「均衡評議会」
カイエルが言う。
「初の軍事発動」
その言葉は歴史になる。
*
ルクサリア北部。
エリアナはその報を聞く。
「……軍?」
側近が言う。
「均衡機構です」
少女は目を閉じる。
一瞬だけ。
そして。
「……遅かった」
小さく呟く。
だが。
すぐに顔を上げる。
「でも」
一言。
「まだ終わってない」
*
南部。
グラントは報を受ける。
「均衡機構、軍を動かす」
沈黙。
そして。
ゆっくりと笑う。
「来たか」
その目は冷たい。
「ようやく」
一歩前に出る。
「本当の戦争だ」
*
レギオン。
イリスは静かに言う。
「戦争を止めるために」
一言。
「戦争をします」
その矛盾を、誰も否定できない。
*
地下牢。
オルディスは笑っていた。
「いい」
低い声。
「結局そうなる」
そして。
「人は」
一言。
「剣を選ぶ」
その目は鋭い。
*
「均衡は」
ゆっくり呟く。
「壊れる」
そして。
「ここからが本番だ」
*
大陸は、次の段階へ進む。
それは。
制度では止めきれなかった現実。
――戦争。
だがそれは、
ただの戦争ではない。
均衡が選んだ戦争だった。
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