第54話 共和国の要求
レギオン、均衡評議会室。
空気が変わっていた。
これまでの議論とは違う。
人道支援は成功した。
だが――
戦争は拡大している。
その現実が、全員の表情を硬くしていた。
*
「提案があります」
カミラが立ち上がる。
共和国ノヴァ代表。
その目は、いつもより鋭い。
「限定介入では足りません」
静寂。
「人道支援は評価します」
「ですが」
一拍置く。
「内戦そのものに踏み込むべきです」
レオナが即座に反応する。
「ようやく現実を見たか」
だがカミラは首を振る。
「違う」
その声は強い。
「軍事制圧ではない」
全員の視線が集まる。
*
「選挙です」
一言。
円卓がざわめく。
「……何だと?」
レオナが眉をひそめる。
カミラは続ける。
「ルクサリアに」
「暫定選挙を導入する」
エルミナが目を細める。
「内戦中に?」
「だからこそ」
カミラは言う。
「王位継承争いの本質は」
一言。
「正統性」
カイエルが静かに頷く。
「軍でも血統でもない」
カミラは続ける。
「民意で決める」
それが共和国の思想だった。
*
レオナが言う。
「現実的じゃない」
即答。
「戦場で投票か?」
カミラは答える。
「だから均衡機構が監視する」
エルミナが言う。
「市場は混乱するわよ」
「短期的には」
カミラは認める。
「でも長期的には安定する」
サディークが低く言う。
「民が決めたなら」
「資源も守りやすい」
リュネ。
「信仰対立も緩和される可能性がある」
議論が動き始める。
*
イリスは黙って聞いていた。
そして言う。
「問題は一つ」
全員が彼女を見る。
「実行できるか」
沈黙。
それが最大の問題だった。
理想は簡単。
だが現実は違う。
*
その時、カイエルが言う。
「可能です」
静かな声。
「均衡機構には」
「公開制度があります」
カミラが頷く。
「記録」
「監視」
「透明性」
それらを組み合わせれば。
「完全ではないが」
「正当性は作れる」
エルミナが笑う。
「不完全な制度で国家を決める」
「面白いじゃない」
*
レオナは腕を組んだまま考えていた。
そして言う。
「条件がある」
全員が見る。
「選挙が失敗した場合」
一言。
「即座に軍事介入」
カミラは少し考えた。
そして。
「受け入れる」
それは大きな妥協だった。
*
サディークが言う。
「資源供給は続ける」
リュネ。
「宗教監視も強化」
エルミナ。
「市場も支える」
均衡が形になる。
軍でもない。
放置でもない。
第三の選択。
*
カイエルが言う。
「採決に入ります」
「ルクサリア暫定選挙案」
カミラ。
「賛成」
エルミナ。
「賛成」
サディーク。
「賛成」
リュネ。
「賛成」
カイエル。
「賛成」
五票。
レオナはゆっくり息を吐いた。
「……賛成だ」
最後に。
イリス。
「賛成」
満場一致。
*
カイエルが言う。
「均衡評議会、第二決定」
「ルクサリア暫定選挙」
それは歴史的な決定だった。
国家の王を、
他国を含む制度が監視して決める。
かつて誰もやらなかったこと。
*
その頃。
ルクサリア北部。
敗走する公女派の中で、
エリアナはその報を聞く。
「……選挙?」
信じられないという顔。
だが。
側近が言う。
「均衡機構の決定です」
少女は空を見た。
戦場の空。
煙が上がる。
だがその向こうに。
わずかな光がある気がした。
*
地下牢。
オルディスは笑っていた。
「面白い」
低く呟く。
「民意か」
そして。
「人は選べると思っている」
目が細くなる。
「だが」
一言。
「選ばされているだけだ」
その言葉は静かだった。
だが確信に満ちていた。
均衡は、新しい一手を打った。
それが希望か。
それとも――
新たな混乱の始まりか。
まだ誰にも分からなかった。
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