第53話 難民一万
国境は、人で溢れていた。
ルクサリアから流れ出た難民は、さらに増えていた。
一万二千。
そして、まだ増え続けている。
子供が泣き、母親がそれを抱き、老人が座り込む。
兵士は線を引く。
だが、その線はあまりにも細い。
レオナはその光景を見下ろしていた。
「……これが現実だ」
低く呟く。
戦争は、戦場だけで起きるわけではない。
むしろ外側で、人を壊す。
*
「水が足りません!」
現場から報告。
「医療も不足!」
「食料は二日分!」
アウレリアの補給隊が必死に動いている。
だが追いつかない。
これは国家一つの問題ではない。
すでに規模が違う。
*
レギオン。
均衡評議会。
報告は次々に届いていた。
「難民数、一万五千を突破」
カミラが顔をしかめる。
「共和国でも受け入れ要求が出てる」
エルミナ。
「市場は不安定化」
「労働力としては魅力だけど、短期的には混乱」
サディーク。
「水と穀物の供給が追いつかん」
リュネ。
「宗教衝突、難民内部でも発生」
すべてが連鎖している。
*
カイエルが言う。
「これは」
一言。
「人道危機です」
静寂。
それは、政治や市場を超えた問題。
*
レオナが言う。
「だから軍を入れるべきだ」
即答。
「内戦を終わらせれば難民は止まる」
カミラが首を振る。
「違う」
強い声。
「それは“結果”であって、“原因”じゃない」
エルミナが続ける。
「戦争を止めても、人はすぐ戻らない」
サディーク。
「水も食料もすぐには戻らん」
リュネ。
「信仰の対立はもっと長い」
レオナは黙る。
反論はできる。
だが、全員正しい。
それが問題だった。
*
イリスが言う。
「難民対応を優先します」
円卓が静まる。
「均衡機構として」
「初の人道措置」
カミラがすぐに頷く。
「共和国は賛成」
エルミナ。
「資金出すわ」
サディーク。
「水と穀物、供給する」
リュネ。
「神殿を開放します」
レオナは少し考えた。
そして。
「ヴァルドも補給を出す」
短い言葉。
それで十分だった。
*
カイエルが言う。
「共同難民支援」
「均衡機構名義」
これが初めての
**“国家を超えた支援”**
になる。
*
国境。
難民の中に、エリアナの姿があった。
公女。
だが今はただの一人の少女。
彼女は自分の国を出ていた。
理由は一つ。
「民を守るため」
だが現実は残酷だ。
彼女自身も、ただの難民の一人に過ぎない。
その時。
遠くから補給隊が来る。
七つの旗。
異なる国の色。
だが同じ紋章。
均衡の印。
人々がざわめく。
「あれは……?」
兵が叫ぶ。
「均衡機構の支援だ!」
ざわめきが広がる。
*
水が配られる。
食料が運ばれる。
医療班が動く。
人々の表情が変わる。
ほんの少しだけ。
だが確実に。
希望が戻る。
*
レギオン。
その報告を聞き、イリスは静かに言う。
「これが」
一言。
「制度です」
剣ではない。
命令でもない。
だが確実に、人を救う。
*
しかし。
その夜。
新たな報告が届く。
「ルクサリア北部」
「公女派、敗走」
円卓が凍る。
グラントが進軍を成功させた。
つまり。
戦争は終わらない。
むしろ加速している。
*
レオナが低く言う。
「……間に合わなかったな」
カミラが答える。
「違う」
強い目。
「まだ終わってない」
イリスが言う。
「第二段階に入ります」
均衡は止まらない。
試され続ける。
*
地下牢。
オルディスは静かに笑っていた。
「いい」
低い声。
「人は救われる」
そして。
「だが戦争は止まらない」
その目は冷たい。
「それが現実だ」
均衡は、確かに人を救った。
だが同時に、
それだけでは足りないことも、
はっきりと示されていた。
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