第48話 信仰条項
会議棟の廊下にはまだ焦げた匂いが残っていた。
小規模な爆発。
人的被害はない。
だが意図は明確だった。
――会議を止めろ。
しかし円卓は崩れなかった。
むしろ逆だった。
七王国の代表たちは、さらに議論を前へ進めていた。
*
「次は信仰だ」
イリスが言う。
円卓の視線が一斉にリュネへ向く。
神権国家エルダリア。
大巫女リュネは静かに立ち上がった。
白い衣がゆっくり揺れる。
「信仰は国家より古い」
静かな声。
だが会議場全体に響く。
「国家は滅びる」
「だが信仰は残る」
誰も反論しない。
歴史がそれを証明している。
*
「だからこそ」
リュネは続ける。
「国家が信仰を支配してはならない」
カミラが頷く。
「同意する」
共和国は宗教と政治を分離している。
エルミナが言う。
「市場も信仰には干渉しない」
サディーク。
「砂漠でも同じだ」
信仰は人のもの。
国家のものではない。
*
リュネはゆっくり言う。
「だが」
「信仰も国家を支配しない」
空気が変わる。
それは大きな譲歩だった。
神権国家の大巫女が、自ら言った。
信仰は政治を支配しない。
*
イリスが言う。
「信仰自由条項」
カミラが補足する。
「国家は宗教を禁止しない」
エルミナ。
「宗教も国家政策を決めない」
サディーク。
「信仰は個人」
リュネが静かに頷く。
「そして」
最後の一行を加える。
「神殿の自治を保障する」
それで均衡が成立する。
*
カイエルが言う。
「信仰条項、成立」
六つの柱のうち五つが整った。
金融。
資源。
軍事。
公開。
信仰。
残るは一つ。
均衡評議会。
*
だがその瞬間。
会議場の外で再び騒ぎが起きる。
衛兵が駆け込んできた。
「拘束しました!」
円卓がざわめく。
「会議棟内部に潜入していた人物です!」
兵士に押さえつけられた男が連れてこられる。
黒衣。
顔には笑み。
レオナが鋭く問う。
「誰だ」
男は答えない。
ただ笑う。
イリスが言う。
「名前は?」
男は初めて口を開いた。
「オルディス」
会議場が静まる。
「何者だ」
レオナが言う。
オルディスはゆっくり言った。
「秩序の敵」
短い沈黙。
カイエルが問う。
「なぜこの会議を壊す」
オルディスは笑う。
「簡単だ」
ゆっくり円卓を見る。
「均衡は、最も脆い秩序だからだ」
言葉は静か。
だが冷たい。
「国家は争う」
「市場は奪う」
「信仰は対立する」
「民意は揺れる」
そして。
「均衡は、必ず壊れる」
その目は狂っていない。
むしろ冷静だった。
*
レオナが言う。
「連れて行け」
兵がオルディスを引きずる。
だが男は最後に言った。
「もう遅い」
会議場が凍る。
「均衡は、すでに壊れ始めている」
そして男は連れ出された。
静寂が残る。
だが。
イリスは言った。
「続けましょう」
誰も反対しない。
秩序は恐怖で止まらない。
そして。
最後の柱――
七王国均衡評議会が、ついに議論されようとしていた。
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