第43話 見えない手
七王国会議、二日目。
円卓の空気は、昨日とは明らかに違っていた。
通貨急落。
資源停止。
国境越境。
すべてが同時に起きた。
そして今、全員が理解している。
これは偶然ではない。
*
「誰かが動かしている」
カミラが最初に言った。
共和国議長は、議事録を閉じて円卓を見渡す。
「市場操作」
「国境挑発」
「国内扇動」
「三つが同時に起きる確率は低すぎる」
エルミナが頷く。
「市場は自然に揺れる」
「でも今回の売りは違う」
「意図的」
レオナは腕を組む。
「越境も同じだ」
「命令系統を通っていない」
沈黙。
それはつまり――
各国の内部に、何かがいる。
*
イリスは静かに言う。
「目的は?」
カイエルが答える。
「均衡の崩壊」
短い言葉。
「七王国が互いを疑えば」
「制度は成立しない」
その通りだった。
疑念は制度を壊す。
*
サディークが言う。
「利益は?」
カイエルはゆっくり答える。
「混乱」
エルミナが補足する。
「市場では混乱が最大の利益になることもある」
だがレオナが首を振る。
「違う」
「軍の動きもある」
「これは国家規模」
円卓が再び静まる。
国家を越える規模の何か。
*
その時、会議場の扉が開く。
アウレリアの使者が入る。
「王都報告」
「王制廃止を叫ぶデモが拡大」
ざわめき。
カミラがすぐ言う。
「共和国は関与していない」
「分かっています」
イリスは答える。
「資金源は?」
「不明」
リリアの眉が動く。
「……市場経由」
エルミナも気づく。
「匿名資金」
それは普通の投資ではない。
扇動資金。
*
カイエルが呟く。
「見えない手」
誰かが、裏から全てを押している。
市場。
軍。
民衆。
同時に。
*
その時。
会議場の後方で、控えていた一人の男が静かに動いた。
黒衣。
会議の記録官の一人。
誰も気に留めない存在。
彼は小さな紙片を燃やした。
炎はすぐ消える。
誰も気づかない。
男は小さく呟く。
「均衡は脆い」
その目は冷たい。
「だから壊れる」
男の名は、まだ誰も知らない。
オルディス。
秩序破壊を望む者。
*
一方、円卓では。
イリスが言った。
「内部調査を始めます」
レオナが頷く。
「軍も同じだ」
エルミナ。
「市場も追う」
カミラ。
「公開調査」
リュネ。
「神殿も協力する」
サディーク。
「資源流通を監視」
そしてカイエルが静かに言う。
「均衡を壊す者は」
「均衡を恐れている」
沈黙。
それは真実だった。
七王国が協力すれば、
大陸秩序が生まれる。
それを望まない勢力がいる。
*
会議は続く。
だが空気は変わった。
これは外交ではない。
これは秩序防衛戦。
七王国は初めて、同じ敵を意識した。
まだ姿は見えない。
だが影は確実に存在する。
そしてその影は、
会議場のすぐ内側にまで入り込んでいた。
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