第44話 崩れる均衡
七王国会議、三日目。
空気は重かった。
通貨は回復しきっていない。
資源は止まったまま。
国境は静かだが、緊張は解けていない。
そして今――
第四の報が届いた。
*
会議場の扉が開く。
使者が駆け込む。
「緊急報告!」
「アウレリア中央銀行、外貨準備の三割投入!」
ざわめき。
エルミナが即座に理解する。
「市場防衛」
だが顔色がわずかに変わる。
「……大きすぎる」
それは短期防衛には有効。
だが長くは持たない。
*
続けて別の報。
「王都デモ、衝突発生!」
「負傷者多数!」
カミラが低く言う。
「民意が爆発し始めた」
そして。
最後の報。
「ザハル鉱物価格、さらに上昇!」
サディークは表情を変えない。
だが誰もが理解する。
均衡が崩れ始めている。
*
レオナが机を叩く。
「会議を続ける意味はあるのか」
率直な疑問。
「外では秩序が壊れている」
イリスは答える。
「だからこそ続ける」
短い沈黙。
彼女の声は揺れない。
「この場が崩れれば」
「大陸は戦争に戻る」
それは事実だった。
七王国の均衡は、極めて薄い。
この会議が失敗すれば――
旧秩序が戻る。
*
リリアが静かに言う。
「市場は恐怖で動く」
「でも」
視線を上げる。
「制度は恐怖で作るものじゃない」
エルミナが笑う。
「それでも市場は待たない」
その通り。
時間はない。
*
カイエルが言う。
「ならば加速するしかない」
円卓が彼を見る。
「今日中に決める」
「均衡機構の骨格」
レオナ。
「軍事監査条項」
エルミナ。
「通貨安定基金」
サディーク。
「資源共同備蓄」
カミラ。
「公開制度」
リュネ。
「信仰自由条項」
イリスが頷く。
「全部やる」
沈黙。
それは大胆すぎる提案。
だが他に道はない。
*
その時。
会議場の外で、鐘が鳴った。
長く、重く。
都市レギオンの警鐘。
使者が飛び込む。
「不審火!」
「港の倉庫で爆発!」
エルミナが立ち上がる。
「そこは共同備蓄予定地!」
会議場が凍りつく。
偶然ではない。
完全な破壊工作。
*
イリスは静かに言う。
「敵は、会議を壊したい」
レオナが頷く。
「なら逆だ」
短く言う。
「今決めろ」
エルミナ。
「市場は危機で決断する」
サディーク。
「資源も同じ」
カミラ。
「民意も」
リュネ。
「信仰も」
カイエルが最後に言う。
「均衡は危機で生まれる」
静寂。
七王国は理解した。
これは外交ではない。
これは秩序の誕生か、崩壊か。
二つに一つ。
そして今、
見えない敵が最後の一押しをかけてきた。
港は燃え、
市場は揺れ、
国境は張り詰め、
民衆は叫び、
資源は止まり、
信仰は揺らぐ。
すべてが同時に動く。
イリスは円卓を見渡す。
「続けましょう」
その声は静かだった。
だが決して折れない。
大陸の秩序は、
今この瞬間に試されている。
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