第41話 理念の試験
会議場は、静まり返っていた。
通貨急落。
国境衝突。
資源停止。
三つの危機が同時に発生している。
だが七王国の代表は、誰一人として席を立たなかった。
それが、この会議の重さだった。
そして。
静かに椅子を引く音がした。
セレスタ公国。
カイエル・アルセリオン。
柔らかな笑みを浮かべた男が、ゆっくり立ち上がる。
「皆さん」
その声は穏やかだった。
「ようやく、本題に入れそうですね」
レオナが目を細める。
「危機が起きている」
「それが本題だと言うのか」
カイエルは頷く。
「ええ」
「制度は平時のためではありません」
「危機のために存在します」
会議場が静まる。
*
「今起きている三つの事象」
彼は指を折る。
「通貨」
「資源」
「軍事」
「これは偶然ではない」
エルミナがわずかに笑う。
「そう思う?」
「思うのではなく、確信しています」
カイエルの声は穏やかだが鋭い。
「制度を試す者がいる」
円卓がわずかに揺れる。
*
「誰だ」
レオナが問う。
「それを今言う必要はありません」
カイエルは首を振る。
「重要なのは別のことです」
一歩前に出る。
「制度は、試されている」
「そして今、失敗すれば」
円卓を見渡す。
「この大陸は、旧秩序へ戻る」
沈黙。
「王は世襲へ」
「軍は独立へ」
「市場は分裂へ」
「信仰は国家へ」
それは後退。
歴史の逆行。
*
カミラが腕を組む。
「結論は?」
「簡単です」
カイエルは言う。
「今この場で」
「七王国の相互安定原則を決める」
空気が動く。
「共同安定基金」
「共同資源備蓄」
「緊急軍事監査」
「信仰自由条項」
彼はゆっくり言う。
「全てを一つの枠組みにする」
イリスの目が動く。
それは彼女の構想に近い。
だが一段大きい。
*
「つまり」
エルミナが言う。
「大陸制度を作ると?」
「ええ」
カイエルは頷く。
「国家の上に立つ制度ではない」
「国家同士の均衡機構」
レオナが言う。
「誰が管理する」
カイエルは微笑む。
「誰も」
「そして全員」
ざわめき。
「七王国均衡評議会」
「代表七名」
「緊急時のみ発動」
短い説明。
だが構造は明確。
*
サディークが初めて興味を見せる。
「資源管理は?」
「共同監視」
「備蓄量は公開」
エルミナ。
「通貨?」
「共同介入」
レオナ。
「軍?」
「三国監査」
カミラ。
「民意?」
「公開議論」
リュネ。
「信仰?」
「自由保障」
静寂。
すべてが繋がっている。
*
イリスは静かに言う。
「それは」
「大陸秩序です」
カイエルは頷く。
「ええ」
「そして今、この瞬間」
窓の外を見る。
「それが必要な瞬間です」
遠くで鐘が鳴る。
王都の市場。
通貨はまだ揺れている。
国境では兵が対峙している。
資源は止まっている。
だがこの円卓で、
初めて一つの構造が見え始めた。
大陸秩序。
七王国均衡機構。
それは国家の終わりではない。
国家が共存するための枠組み。
*
レオナが小さく笑う。
「面白い」
エルミナも微笑む。
「利益はありそう」
カミラは記録を続ける。
「公開する価値はある」
リュネは静かに頷く。
「神も否定しない」
サディークは短く言う。
「資源も守れる」
そして。
イリスが言う。
「議論を続けましょう」
七王国会議は、新しい段階へ入った。
だが同時に。
この会議を壊そうとする者も、確実に動き始めていた。
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