第40話 沈黙の代償
会議場は静かだった。
だがそれは、落ち着いた静けさではない。
嵐の前の沈黙。
神意と民意の衝突が終わったあと、円卓の視線は一人の男に集まっていた。
砂漠王国ザハル。
若き王、サディーク。
彼はこれまでほとんど発言していない。
ただ観察していた。
軍事。
市場。
信仰。
民意。
すべての議論を。
そして今、ゆっくりと口を開く。
「議論は美しい」
低く落ち着いた声。
「だが砂漠では、言葉は水にならない」
円卓が静まる。
「資源は理念に従わない」
彼は指を軽く鳴らす。
ザハルの使節が一枚の書簡を机に置いた。
各国代表の前に配られる。
エルミナの眉がわずかに動く。
レオナの視線が鋭くなる。
カミラが紙を読む。
リュネが静かに目を細める。
内容は短い。
だが重い。
ザハル王国は、
本日より鉱物輸出を全面停止する。
期間は未定。
会議場の空気が凍りついた。
*
「これは宣戦布告か」
レオナが低く言う。
「違う」
サディークは静かに答える。
「現実だ」
「資源は有限」
「価格は市場が決める」
エルミナが口を挟む。
「市場操作ね」
「違う」
サディークは首を振る。
「国家防衛」
沈黙。
「アウレリアは安定を求めている」
「ならば代償が必要だ」
イリスが問う。
「条件は?」
サディークは初めてわずかに笑う。
「長期供給契約」
「価格安定協定」
「そして」
視線が円卓を一周する。
「七王国共同備蓄制度」
リリアの目が動く。
共同安定基金と繋がる。
市場と資源の接続。
エルミナが興味深そうに言う。
「……共同備蓄」
「それなら価格操作は難しくなる」
「そうだ」
サディークは言う。
「だからこそ意味がある」
レオナが腕を組む。
「戦争になったら?」
「供給は止まる」
「だが備蓄がある」
論理は単純。
だが強い。
*
カミラが問う。
「備蓄の管理は?」
「共同監視」
リュネが言う。
「神殿資源は対象外か」
「国家資源のみ」
議論が回り始める。
沈黙の国が、議論を動かした。
*
だがその瞬間。
会議場の外で騒ぎが起きる。
使者が飛び込んできた。
「報告!」
「アウレリア通貨、再び急落!」
「国境衝突発生!」
空気が張り裂ける。
レオナの目が光る。
「やはり来たか」
エルミナは数字を計算している。
カミラは議事録を書き続ける。
リュネは祈りの言葉を呟く。
サディークは沈黙。
そして。
イリスは立ち上がった。
「会議は続けます」
全員の視線が集まる。
「通貨が揺れ」
「国境が揺れ」
「資源が止まる」
「だからこそ、この場が必要です」
静寂。
「大陸は均衡の上に立つ」
「均衡は、対話でしか作れない」
円卓は動かない。
誰も席を立たない。
七王国会議は続く。
外では危機が拡大し、
内では秩序が模索される。
沈黙の国は、代償を提示した。
次に動くのは――
理念の国。
セレスタ公国。
観察者カイエルが、ついに言葉を選ぶ時だった。
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