第37話 剣は制度を守れるか
七王国会議、初日。
円卓の空気はすでに張り詰めていた。
イリスの開会宣言を受け、最初に立ち上がったのは――
ヴァルド軍事王国、女将軍レオナ・ヴァルド。
軍服の裾がわずかに揺れる。
「確認したい」
低く、よく通る声。
「選出制の王は、有事に即断できるのか」
静寂。
「議会を通すのか」
「民意を測るのか」
「討論するのか」
一歩前へ。
「戦場は待たない」
重い言葉だった。
国境での演習を知る者には、なおさら。
*
イリスは座ったまま答える。
「即断権はあります」
ざわめき。
レオナの目が細くなる。
「ほう」
「国家緊急条項」
「侵攻確認時、王は即時軍事発動を命じられる」
イリスは続ける。
「ただし」
空気が動く。
「事後監査を受ける」
レオナの眉がわずかに動く。
「監査?」
「濫用を防ぐため」
「緊急権は無制限ではない」
円卓にざわめきが走る。
*
「戦場で躊躇すれば兵が死ぬ」
レオナは言う。
「事後審査を恐れて判断が鈍るなら、制度は兵を殺す」
正論だ。
軍事国家の現実。
イリスは視線を逸らさない。
「判断を鈍らせる制度は設計しない」
「緊急発動から七日以内に三国監査」
「正当性が認められれば継続」
「否定されれば即時停止」
円卓が静まる。
「三国?」
共和国議長カミラが問う。
「なぜ三国」
「一国では偏る」
「二国では対立する」
「三国なら多数決」
理屈は通る。
レオナは腕を組む。
「では問う」
「選ばれた王が、戦場を知らぬ者なら?」
視線がリリアへ向く。
会議場の空気が一瞬凍る。
リリアは静かに立ち上がった。
「知らないなら、学ぶ」
まっすぐな声。
「軍を理解する努力を怠らない」
「だが戦場経験が王の条件なら」
「制度は最初から軍人限定になる」
沈黙。
「王は兵ではない」
「兵を無駄に死なせない責任者」
レオナの視線が鋭くなる。
「理想論だ」
「現実論です」
リリアは続ける。
「無制限の緊急権こそ、国家を壊す」
軍席がざわつく。
レティシアが静かに口を開く。
「監査があるなら、軍も安心できる」
意外な一言。
「命令が正当なら恐れる理由はない」
レオナはレティシアを見る。
「貴国の軍は政治に従うのか」
「制度に従う」
短い答え。
それは強い。
*
エルミナが口を挟む。
「緊急発動は市場にも影響する」
「通貨安を招く」
イリスは頷く。
「だからこそ、明文化する」
「曖昧な戦争が最も市場を壊す」
論点が重なっていく。
*
レオナは静かに言う。
「面白い」
笑みはない。
だが否定でもない。
「戦場は理屈で動かぬ」
「だが理屈がなければ、国家は腐る」
彼女は椅子に腰を下ろす。
「続けろ」
それは試験続行の合図。
*
会議場の空気が変わる。
軍事の問いは、制度に組み込まれた。
だが外では――
国境で、ヴァルドの一部部隊が前進を始めていた。
偶発か。
試しか。
まだ誰も知らない。
円卓の内と外。
思想と現実。
両方が同時に動いている。
七王国会議は、まだ始まったばかりだ。
そして制度は、
初めて“剣”と真正面から向き合った。
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