第32話 神に選ばれし者
神権国家エルダリア。
空に最も近い国、と呼ばれている。
山脈の頂に築かれた大聖堂は、雲を突き抜ける白塔のようだった。
鐘が鳴る。
深く、静かに。
*
大巫女リュネは祭壇の前に立っていた。
白銀の長衣、閉じた瞳。
「王を人が選ぶ……」
その声は囁きのように柔らかい。
「神意を、どう扱うのか」
周囲の巫女たちが沈黙する。
エルダリアでは、王は“戴冠”されるのではない。
“啓示”によって指名される。
人の多数決ではない。
神の声。
*
「七王国会議への招請」
側近が差し出す。
リュネは書簡を受け取る。
「王位選出制を国際承認へ」
静かな空気が揺れる。
「人が王を選ぶなら」
彼女は目を開く。
「神の役割は、どこに置くのか」
問いは鋭い。
制度は信仰を排除できない。
信仰もまた、国家の根だ。
*
エルダリアの市井。
「王を民が決めるらしい」
「神を否定するのか」
「異端だ」
ざわめきが広がる。
だが若者の一部は違った。
「自分で選ぶなら責任も自分だ」
信仰と自立。
揺れが生まれている。
*
王城、アウレリア。
「エルダリアは出席確定」
アルヴェルトが告げる。
「大巫女自ら来る」
「当然です」
イリスは頷く。
「制度は信仰と向き合わねばならない」
王位は制度になった。
だが王は象徴でもある。
象徴は信仰と切り離せない。
*
リリアは資料を読む。
エルダリアの歴史。
神授王権論。
「……正面から否定はできない」
「ええ」
フィオナが答える。
「信仰を敵に回せば、国内も揺れる」
王位選出制は、無神論ではない。
だが人が選ぶ。
その境界線は、極めて繊細。
*
夜。
リュネは祈る。
「神よ」
「人の選ぶ王を、どう見ますか」
風が塔を撫でる。
沈黙は答えにならない。
だから彼女は決める。
「会議で問います」
制度は神を否定するのか。
それとも包み込むのか。
*
王城、深夜。
イリスは窓辺に立つ。
軍が試し、
市場が揺らし、
今度は信仰が問う。
制度は万能ではない。
だが万能である必要もない。
「王は神ではない」
静かに呟く。
「だが責任は神に委ねない」
それが王位解体の本質。
七王国会議は近い。
力。
利益。
信仰。
民意。
資源。
理念。
そして均衡。
全てがぶつかる。
制度は、祈りに耐えられるのか。
試練は、まだ続く。
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