第29話 七王国への書簡
リリアの立候補表明は、その日のうちに王都全域へ広がった。
王族か、商人か。
血か、民か。
制度は整った。
だが感情が、動き始めている。
*
王城、執務室。
「正式に受理しますか」
フィオナが問う。
「当然です」
イリスは即答する。
「制度は平等です」
商人であろうと、王族であろうと。
条件を満たせば候補者だ。
それが王位解体の帰結。
*
「そして」
アルヴェルトが書簡を差し出す。
「七王国への正式招請文です」
大陸盟約改定を議題とする七王国会議。
王位選出制を導入する国が、
その制度を国際的に問う場。
これは内政ではない。
外交だ。
イリスは一通ずつ封を確認する。
ヴァルド軍事王国。
マレク商業都市連邦。
神権国家エルダリア。
共和国ノヴァ。
砂漠王国ザハル。
そしてセレスタ公国。
「送ってください」
静かな命令。
大陸が動く。
*
ヴァルド軍事王国。
王城ではなく、軍議室。
地図の前に立つ女。
レオナ・ヴァルド。
短い銀髪、鋭い眼光。
「王位選出制か」
書簡を片手に笑う。
「戦場を知らぬ王が選ばれる可能性もある」
「愚かだ」
部下が問う。
「出席なさいますか」
「当然だ」
彼女は即答する。
「弱さは、目で確かめる」
その声に、軍がざわめく。
*
マレク商業都市連邦。
高層会議室。
エルミナ・カルディアは書簡を眺める。
「制度輸出を狙っている」
冷静な分析。
「投資対象になるかどうか」
彼女は微笑む。
「会議には出るわ」
「利益があるなら支える」
「なければ、揺らす」
商人の国家は、常に計算する。
*
神権国家エルダリア。
大聖堂。
大巫女リュネは静かに祈りを終える。
「王を人が選ぶ?」
巫女たちがざわめく。
「神は何を思われるか」
リュネは目を閉じる。
「会議へ向かいます」
「神の言葉を携えて」
静かな圧。
制度と信仰は、必ず衝突する。
*
共和国ノヴァ。
議会。
女性議長カミラが笑う。
「やっと王制が追いついた」
「遅いが悪くない」
「参加する」
「議論は公開を要求する」
民意至上主義国家は、隠し事を嫌う。
*
砂漠王国ザハル。
静かな宮殿。
若き王サディークは書簡を読む。
「資源共同備蓄?」
側近が問う。
「どうします」
サディークはゆっくり言う。
「出る」
「だが代償は求める」
資源は力だ。
制度よりも重い。
*
セレスタ公国。
カイエルは微笑む。
「ついに来たか」
「会議は戦場になる」
「理念は試される」
ミレイアが言う。
「揺さぶりますか」
「揺らさない」
カイエルは首を振る。
「まずは見る」
理想が現実に耐えられるか。
それを。
*
王都、夜。
リリアは一人、灯りの下に座る。
王候補。
七王国会議。
大陸の視線が集まる。
「私は商人」
だが今は、それだけではない。
王位を制度にした瞬間、
王は国の代表であり、
制度の象徴になった。
イリスもまた、静かに書類を閉じる。
国内の戦いは始まった。
そして今、大陸を巻き込む。
七王国会議。
それは会談ではない。
思想の戦争だ。
火種は国内から広がった。
次は、大陸が燃える。




