第28話 王族最後の矜持
公開討論の告知が出された日、王都は奇妙な熱気に包まれていた。
戦ではない。
だが戦以上に、緊張している。
――言葉で王を決める。
それは、この国にとって初めての試みだった。
*
王城、大講堂。
公開討論は三日後。
だがその前に、候補者による所信表明が行われる。
最初に立ったのは、地方行政官。
安定した財政、堅実な防衛、漸進的改革。
拍手はある。
だが火花は散らない。
次に立ったのは、法学者。
制度理論を語る。
論理は美しい。
だが心は揺れない。
そして。
アーネスト・グラン=カリオ。
王族の名を背負いながら、特権を失った男。
講堂が静まる。
*
「私は、血統を誇りに思う」
最初の一言で、空気が動く。
「だが血統で王になりたいとは思わない」
ざわめき。
「王族は、この国を守るために存在してきた」
「だが守るとは、特権を握ることではない」
彼は一歩前に出る。
「守るとは、責任を負うことだ」
視線は真っ直ぐ、イリスへ。
「陛下は王位を解体された」
「私はそれに反対した」
正直だ。
講堂は息を呑む。
「だが今、私は理解している」
「王位を守るために、王位を壊したのだと」
沈黙。
「ならば私は、血ではなく思想で立つ」
「王族最後の矜持として」
拍手は最初、小さい。
だがやがて広がる。
力強くはない。
だが確かな敬意。
*
傍聴席。
リリアは静かに聞いていた。
「……強い」
呟く。
血を捨てたわけではない。
血に依存しないと宣言した。
それは覚悟だ。
*
軍席。
セラフィナは腕を組む。
「王族か」
隣の将校が言う。
「どう思う」
「戦場に立てる目だ」
短い評価。
思想よりも、覚悟を見る。
*
演説後、王城回廊。
アーネストは静かに息を吐く。
「逃げなかったな」
声をかけたのはイリス。
「逃げません」
「血を武器にしなかった」
「使えば勝てたかもしれません」
「だが負けていた」
イリスはわずかに微笑む。
「制度は、あなたのような王族を試すためにある」
「光栄です」
短い沈黙。
「私は陛下を超えます」
挑戦の宣言。
「期待しています」
王と王候補。
だが敵ではない。
制度の中の競争者。
*
商会会館。
「彼が本命だ」
誰かが言う。
「だが民意は動く」
リリアの名が再び挙がる。
「あなたはどうする」
カイルが問う。
長い沈黙。
「……公開討論に出る」
室内が凍る。
「立候補するのか」
「ええ」
彼女は静かに言う。
「逃げない」
王位が欲しいわけではない。
だが制度を信じるなら、その中心に立つ覚悟がいる。
火種は、炎へ変わる。
*
夜。
セレスタ公国。
「王族候補、民間候補、複数立つ見込み」
ミレイアが報告する。
カイエルは静かに笑う。
「理想的だ」
「制度は、対立を内包することで強くなる」
「だが」
彼の目が細くなる。
「内側の対立は、外から揺らせる」
嵐はまだ来ていない。
だが空気は重い。
公開討論まで、あと三日。
王族最後の矜持は示された。
次は。
商人の覚悟が、試される。




