第77話 均衡の代償
空気が、重かった。
誰も動かない。
誰も声を出さない。
ただ――互いを見ている。
*
「……全員疑う、か」
カミラが呟く。
その声には、怒りと、そしてわずかな恐れが混ざっていた。
*
均衡評議会室。
円卓。
いつもと同じ配置。
だが、まるで別の場所のようだった。
*
リリアは立っている。
座らない。
*
「そうよ」
短く言う。
*
「ここにいる全員が対象」
*
沈黙。
*
レオナが腕を組む。
「……合理的だな」
だが、その目は鋭い。
*
エルミナが笑う。
「面白いわね」
*
「疑われる側になるのは、初めてかしら」
*
サディークは無言。
ただ、机に置かれた資料を見ている。
*
リュネは目を閉じる。
「……信仰は試されますね」
*
そして。
カイエル。
*
彼は、静かに立っていた。
表情は変わらない。
だが。
ほんのわずかに。
目が揺れている。
*
「方法は?」
イリスが問う。
*
リリアは即答する。
「簡単よ」
*
「全部、開く」
*
カミラが顔を上げる。
「……何を」
*
「記録」
「資金」
「指示」
*
「全部」
*
沈黙。
*
エルミナが眉をひそめる。
「市場が死ぬわよ」
*
サディーク。
「資源も止まる」
*
リュネ。
「信仰も崩れます」
*
リリアは頷く。
「ええ」
*
「だから代償よ」
*
その言葉。
*
カミラが立ち上がる。
「そんなの――」
言いかけて、止まる。
*
理解しているからだ。
*
今のままでも、崩れる。
*
なら。
どちらを選ぶか。
*
レオナが言う。
「俺は賛成だ」
*
全員が見る。
*
「どうせ隠しても終わる」
*
「なら、開けて戦う」
*
その言葉は、あまりにも軍的だった。
だが。
今は、それが正しい。
*
イリスが言う。
「決を取ります」
*
沈黙。
*
カミラ。
*
エルミナ。
*
サディーク。
*
リュネ。
*
そして。
カイエル。
*
一人ずつ。
頷く。
*
「……決定です」
*
イリスが言う。
「全公開」
*
その瞬間。
均衡機構は、自らの鎧を脱いだ。
*
ルクサリア。
広場。
*
掲示が出される。
*
記録。
資金。
操作履歴。
*
すべて。
*
人々が見る。
*
沈黙。
*
ざわめき。
*
「……本当に出したのか」
*
「隠してない」
*
「全部……?」
*
驚き。
混乱。
そして。
*
わずかな。
信頼。
*
エリアナが言う。
「これが……」
*
リリアは頷く。
「そう」
*
「これが代償」
*
その時。
人混みの中。
*
一人の男が、掲示を見ている。
*
顔が強張る。
*
「……ある」
小さく呟く。
*
指が震える。
*
そこに。
見覚えのある記録。
*
自分が書いたもの。
*
だが。
それは。
*
改ざんされている。
*
「……違う」
*
顔を上げる。
*
「これは俺じゃない!」
*
叫ぶ。
*
周囲がざわめく。
*
「証明できるか?」
誰かが言う。
*
男は詰まる。
*
だが。
*
「……できる」
低い声。
*
リリアが前に出る。
*
「証明しなさい」
*
その一言。
*
男は頷く。
*
逃げない。
*
隠さない。
*
それが。
変化だった。
*
レギオン。
カイエルはその光景を見ていた。
*
静かに。
*
「……なるほど」
*
小さく呟く。
*
その目は、もう揺れていない。
*
何かを決めた目。
*
地下。
オルディスは、沈黙していた。
*
初めて。
笑っていない。
*
「……面倒だな」
*
小さく言う。
*
「だが」
*
「まだ終わらない」
*
その目が細くなる。
*
「次だ」
*
均衡は、傷ついた。
だが。
まだ折れていない。
*
そして。
その代償は――
これから、現れる。
読んでいただきありがとうございます!
ついに均衡機構は「すべてを開示する」という最大の賭けに出ました。
これは勝つための一手であり、同時に自分を傷つける選択でもあります。
ここからは「証明」のフェーズへ。
誰が嘘で、誰が本物なのかが明らかになっていきます。
次話では、ついに“黒幕の一部”が表に出ます。
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次話もお楽しみに。




