第76話 内側の刃
箱の中は、静かだった。
だが――
その静けさが、不自然だった。
*
リリアは、ゆっくりと手を入れる。
投票箱の中。
紙の束。
重さ。
*
「……多いわね」
小さく呟く。
*
レオナが言う。
「流れは戻ってる」
*
確かにそうだった。
火の中でも、人は並んだ。
守られた流れ。
取り戻した一票。
*
だが。
リリアは紙を一枚取り出す。
*
見る。
*
「……変ね」
*
エリアナが近づく。
「何がですか」
*
リリアは紙を見せる。
*
名前。
候補者。
そして。
――同じ筆跡。
*
「……偶然?」
エリアナが言う。
*
リリアは次の紙を取る。
*
同じ。
*
また一枚。
*
同じ。
*
沈黙。
*
レオナが低く言う。
「……やられたな」
*
「内側」
リリアが呟く。
*
レギオン。
報告が届く。
「票に異常」
*
カイエルが資料を見る。
*
そして。
「……同一筆跡」
静かに言う。
*
カミラが叫ぶ。
「また!?」
*
エルミナ。
「今回はもっと悪い」
*
サディーク。
「中に入ってる」
*
リュネ。
「止められない」
*
イリスが言う。
「止めます」
*
その声は、変わらない。
*
ルクサリア。
リリアは紙を見つめる。
*
「全部無効にする?」
エリアナが問う。
*
リリアは首を振る。
「違う」
*
「見つける」
*
「何を」
*
「混ざってる場所」
*
その発想。
*
レオナが理解する。
「全体じゃないのか」
*
「全部壊す必要はない」
リリアが言う。
*
「壊れてる部分だけ」
*
それは。
均衡そのものだった。
*
その時。
カイエルから通信。
「……リリア」
*
「同じ報告です」
*
リリアは言う。
「どこから?」
*
沈黙。
一瞬。
*
「……内部です」
*
空気が止まる。
*
リリアが問う。
「どこまで分かってる?」
*
カイエルは答える。
「範囲は限定的」
*
「ですが」
一言。
「管理層に近い」
*
沈黙。
*
それは。
最悪だった。
*
リリアは目を閉じる。
*
そして。
「特定できる?」
*
カイエル。
「時間が必要です」
*
リリアは言う。
「ないわ」
*
その時。
背後で音。
*
一人の記録官が、後ずさる。
顔が青い。
*
「……違う」
小さく言う。
*
全員が見る。
*
「違うんです……!」
*
震える声。
*
「命令されたんです!」
*
空気が凍る。
*
レオナが一歩前に出る。
「誰に」
*
記録官は震える。
*
「分からない……!」
*
「でも……」
*
顔を上げる。
*
「中にいます」
*
沈黙。
*
「ここに」
*
その言葉は、刃だった。
*
リリアは、ゆっくりと周囲を見る。
*
兵。
記録官。
民衆。
エリアナ。
レオナ。
*
そして。
通信の向こう。
カイエル。
*
「……そう」
*
小さく言う。
*
「なら簡単ね」
*
全員が息を呑む。
*
リリアは言う。
「全員疑う」
*
沈黙。
*
その宣言。
*
均衡が、もう一段深くなる。
*
地下。
オルディスは笑っていた。
*
「いい」
低い声。
*
「疑え」
*
「壊れる」
*
その目が光る。
*
そして。
「次は」
一言。
「誰が残る?」
*
均衡は、まだ続いている。
だが。
その内側で。
刃が回り始めていた。
読んでいただきありがとうございます!
ついに“内側の刃”が明確になりました。
敵は外ではなく、完全に内部へ。
ここからは「誰を信じるか」という極限のフェーズに入ります。
次話では、ついに均衡評議会の内部に踏み込みます。
――そして“疑い”が現実になります。
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次話もお楽しみに。




