第74話 守る一票
刃は、今度は隠されていなかった。
人混みの中。
静かに、しかし確実に近づく影。
その手にあるものは――明確だった。
*
リリアは、気づいていた。
だが、動かない。
*
目の前。
投票箱。
そこに紙を入れようとしている少年。
震えている。
迷っている。
それでも――進もうとしている。
*
「……」
リリアは、その少年を見る。
*
次の瞬間。
影が動く。
*
一直線。
少年へ。
*
速い。
完全に狙っている。
*
「――伏せろ!」
レオナの声。
だが間に合わない。
*
その瞬間。
リリアが動く。
*
少年を押し倒す。
*
刃が振り下ろされる。
*
金属音。
弾かれる。
*
レオナの剣。
*
襲撃者は即座に後退。
だが逃げない。
*
周囲の影が動く。
*
二人。
三人。
*
囲まれる。
*
「……やっぱり来たわね」
リリアが立ち上がる。
*
少年が震えている。
だが。
紙はまだ握っている。
*
「……大丈夫?」
リリアが問う。
*
少年は頷く。
涙をこらえながら。
*
「……入れろ」
レオナが低く言う。
*
その声は、命令ではない。
支えだった。
*
少年は立つ。
震えながら。
*
そして。
紙を入れる。
*
音。
*
その瞬間。
襲撃者が再び動く。
*
今度は、投票箱を狙う。
*
「させるか!」
レオナが踏み込む。
*
衝突。
短い。
激しい。
*
だが。
数が違う。
*
兵が間に合わない。
*
リリアは箱の前に立つ。
*
「……これが狙いね」
*
次の瞬間。
刃が迫る。
*
だが。
止まる。
*
一人の男が、襲撃者の腕を掴んでいた。
*
老人。
最初の一票の男。
*
「……やめろ」
低い声。
*
襲撃者が睨む。
*
「どけ」
*
老人は動かない。
*
「これは」
一言。
「俺の一票だ」
*
沈黙。
*
その言葉は重かった。
*
襲撃者の動きが一瞬止まる。
*
その隙。
*
レオナが斬り込む。
*
決着。
*
襲撃者たちは退く。
煙を残して。
*
静寂。
*
誰も動かない。
*
そして。
ゆっくりと。
ざわめきが戻る。
*
「……守った」
誰かが呟く。
*
リリアは息を吐く。
*
老人を見る。
*
「ありがとう」
*
老人は肩をすくめる。
「……俺のだ」
*
その一言。
*
それは。
ただの言葉ではなかった。
*
周囲の人間が、そのやり取りを見る。
*
一人が前に出る。
*
紙を取る。
*
書く。
*
入れる。
*
また一人。
*
また一人。
*
流れが、変わる。
*
さっきまでとは違う。
*
恐怖の中で。
それでも進む流れ。
*
エリアナの目が潤む。
「……戻ってる」
*
リリアは言う。
「違うわ」
*
「始まったのよ」
*
レギオン。
その映像を見て、カミラが呟く。
「……戻ってる」
*
カイエルが言う。
「いいえ」
*
「これは」
一言。
「別物です」
*
イリスが頷く。
*
「はい」
*
「強い」
*
地下。
オルディスは静かに目を細める。
*
「……なるほど」
*
小さく笑う。
*
「守るか」
*
その目が鋭くなる。
*
「なら」
一言。
「奪う」
*
ルクサリア。
広場。
*
人は増えている。
*
だが。
その中に。
*
別の影が混ざる。
*
今度は。
刃ではない。
*
火。
*
均衡は、守られた。
一度だけ。
*
だが。
次に来るのは――
もっと大きい。
読んでいただきありがとうございます!
ついに「一票を守る」という展開が来ました。
ここで初めて、“制度が人に守られる側”に変わりました。
ただし敵も次の段階へ進みます。
今度は「個人」ではなく、「流れ」そのものを壊しに来ます。
次話ではさらに大きな衝突が起きます。
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次話もお楽しみに。




