第72話 選択
灰が、まだ舞っていた。
燃えた紙の残骸。
踏み荒らされた投票所。
誰もいない広場。
*
リリアは、その中心に立っていた。
動かない。
何も言わない。
*
敗北。
その言葉が、はっきりと形になっていた。
*
「……終わり、ですね」
エリアナが言う。
声は小さい。
折れている。
*
リリアは答えない。
ただ、目の前を見る。
*
何も残っていない。
制度も。
流れも。
信頼も。
*
「……違う」
小さく呟く。
*
エリアナが顔を上げる。
「え?」
*
リリアはゆっくりと振り返る。
その目は、まだ死んでいない。
「終わってない」
*
その一言で、空気が変わる。
*
「全部壊れた」
頷く。
「だから」
一歩前へ。
「やり直す」
*
「でも……どうやって」
エリアナの声は震えている。
当然だ。
何も残っていない。
*
リリアは答える。
「簡単よ」
*
「一つずつ」
沈黙。
*
「一人ずつ」
*
その言葉は、あまりにも原始的だった。
制度でもない。
仕組みでもない。
*
「……そんなの」
エリアナが言う。
「遅すぎます」
*
リリアは頷く。
「ええ」
*
「でも」
一言。
「確実よ」
*
その目は揺れていない。
*
レギオン。
均衡評議会。
沈黙が続いていた。
*
誰も口を開かない。
何を言っても、無意味に思える。
*
その中で。
カミラが言う。
「……もう無理よ」
*
「制度は失敗した」
その言葉は重い。
*
エルミナが言う。
「市場も崩れる」
サディーク。
「資源も」
レオナ。
「軍しかない」
*
結論は出ていた。
ように見える。
*
その時。
イリスが言う。
「選択します」
*
全員が顔を上げる。
*
「制度を続けるか」
「力に移るか」
*
沈黙。
これは、すべての分岐点。
*
カミラが言う。
「力」
即答。
*
レオナ。
「同意」
*
サディーク。
「現実的だ」
*
エルミナ。
「市場もそれを望む」
*
リュネは目を閉じる。
「……祈りでは止まりません」
そして。
「力です」
*
全員が、同じ方向を向く。
*
最後に。
イリス。
*
彼女は、ゆっくりと目を閉じる。
*
そして。
「いいえ」
*
空気が止まる。
*
「制度を続けます」
その一言。
*
カミラが叫ぶ。
「無理よ!」
*
イリスは言う。
「無理でもやります」
*
「ここでやめたら」
「それが答えになる」
*
沈黙。
誰も言い返せない。
*
その時。
扉が開く。
*
リリアが入ってくる。
*
全員が振り向く。
*
その姿は、煤で汚れている。
だが。
目は変わっていない。
*
「……どうだった」
レオナが問う。
*
リリアは答える。
「負けた」
*
沈黙。
*
「完全に」
*
誰も言葉を出せない。
*
そして。
リリアは続ける。
「だから」
一歩前へ。
「やり直す」
*
イリスがわずかに笑う。
*
「同意します」
*
カミラが呟く。
「……本気?」
*
リリアは言う。
「今度は」
一言。
「見える形でやる」
*
「隠さない」
「誤魔化さない」
「全部出す」
*
エルミナが眉をひそめる。
「市場が崩れる」
*
「一度ね」
リリアは答える。
*
「でも」
一歩前へ。
「その後は戻る」
*
その言葉には、根拠がない。
だが。
確信がある。
*
沈黙。
*
そして。
レオナが笑う。
「……面白い」
*
「乗る」
*
カミラが頭を抱える。
「狂ってる……」
だが。
その口元は、わずかに笑っていた。
*
イリスが言う。
「決定です」
*
「制度を続ける」
*
その瞬間。
均衡は、もう一度動き出す。
*
地下。
オルディスは静かに目を細める。
「……まだか」
*
予想外。
*
「壊れたのに」
*
彼は小さく笑う。
「いい」
*
「なら」
一言。
「もっと壊す」
*
そして。
影が動く。
*
レギオンの夜。
静かだった。
だが。
確実に、何かが変わった。
*
均衡は、一度崩れた。
そして今。
もう一度、選ばれた。
*
それが正しいのか。
それとも。
ただの延命か。
*
答えは、まだ誰も知らない。
読んでいただきありがとうございます!
ついに「選択」の回でした。
完全に崩壊した中で、それでも制度を選ぶ――
ここがこの物語の核心です。
ここからは逆転編に入ります。
ただし、簡単には勝てません。
次話では「どうやって取り戻すのか」、
具体的な一手が描かれます。
続きが気になったら、
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次話もお楽しみに。




