第71話 崩壊
最初に崩れたのは、人の列だった。
ルクサリア公都ルクス。
再選挙の投票列。
静かに、確かに続いていた流れが――
途切れた。
*
「……やめだ」
一人の男が列から外れる。
それだけだった。
だが。
その動きは、あまりにも自然で――
あまりにも重かった。
*
「どうせまた壊れる」
男は振り返らずに言う。
*
沈黙。
そして。
もう一人が、列を離れる。
*
「……意味ない」
小さな声。
だが、それは確実に広がる。
*
一人。
また一人。
列が崩れていく。
*
エリアナの目の前で。
希望だった流れが、ほどけていく。
「待ってください!」
叫ぶ。
だが。
*
誰も止まらない。
怒りでもない。
恐怖でもない。
ただの――諦め。
*
リリアが前に出る。
「止まりなさい!」
声を張る。
だが。
*
「止まったらどうなる」
誰かが言う。
静かな声。
*
「また壊される」
*
「また裏切られる」
*
「また無駄になる」
その言葉は、刃だった。
*
リリアは言葉を失う。
正しいからだ。
*
その時。
遠くで爆発音。
*
悲鳴。
煙。
炎。
*
「……始まったか」
誰かが呟く。
*
群衆が一斉に動く。
逃げる。
押し合う。
転ぶ。
叫ぶ。
*
投票箱が倒れる。
紙が舞う。
踏みつけられる。
*
完全な崩壊。
*
レギオン。
映像が映る。
沈黙。
*
カミラが震える声で言う。
「……終わった」
*
エルミナ。
「市場も崩れる」
サディーク。
「資源も」
リュネ。
「信仰も」
*
レオナが低く言う。
「軍を出す」
*
誰も止めない。
それしかない。
ように見える。
*
だが。
*
イリスが言う。
「いいえ」
*
全員が見る。
*
「まだ終わっていません」
その声は、静かだった。
だが。
*
カミラが叫ぶ。
「終わってる!」
「見てよ!」
*
映像。
燃える街。
逃げる人。
壊れる制度。
*
イリスはそれを見つめる。
そして。
「だからです」
*
「ここで終わりにしない」
その言葉は、祈りではない。
決断だった。
*
ルクサリア。
リリアは立っていた。
炎の中で。
動かない。
*
「……全部」
小さく呟く。
*
「全部壊れた」
*
エリアナが言う。
「リリア様……」
その声は震えている。
*
リリアは答えない。
ただ。
前を見る。
*
崩れた投票箱。
燃える紙。
去っていく人。
*
そして。
一人の少女が立っている。
*
手に紙を持って。
震えながら。
*
「……どうすればいいの」
小さな声。
*
リリアはその少女を見る。
*
ゆっくりと歩く。
*
焼けた箱を起こす。
灰を払う。
*
そして。
「ここに入れなさい」
*
少女が戸惑う。
「でも……」
*
リリアは言う。
「誰も見てなくても」
一言。
「やるのよ」
*
沈黙。
*
少女は、紙を入れる。
*
音。
小さな音。
だが。
確かに。
*
それを見ていた一人が、足を止める。
*
また一人。
*
だが。
その流れは、弱い。
あまりにも弱い。
*
遠くで。
再び爆発。
*
そして。
完全に流れが途切れる。
*
リリアは、立ったまま。
動かない。
*
理解している。
*
これは。
負けだ。
*
地下。
オルディスは笑っていた。
「いい」
低い声。
*
「終わった」
*
「均衡は」
一言。
「崩れた」
*
レギオン。
沈黙の中。
イリスが目を閉じる。
*
そして。
開く。
*
「……次です」
*
誰も動かない。
だが。
全員が理解している。
*
ここからが、本当の戦い。
*
均衡は、崩れた。
だが。
まだ終わっていない。
*
それを。
証明できるかどうか。
*
すべては。
次にかかっている。
読んでいただきありがとうございます!
ついに――均衡が崩壊しました。
ここまで積み上げてきたものが、一度すべて壊れた瞬間です。
ですが、ここが終わりではありません。
ここからが本当の逆転の始まりです。
次話では、リリアが“何を選ぶのか”が描かれます。
ここが物語最大の分岐点になります。
少しでも続きが気になったら、
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次話もお楽しみに。




