第70話 均衡崩壊前夜
刃は、音もなく迫っていた。
リリアは振り向かなかった。
気づいていたからだ。
背後にある“意図”に。
*
夜のレギオン。
廊下は静かだった。
だが、その静けさの中に――確かな殺気があった。
*
「遅いわね」
リリアが呟く。
その瞬間。
影が動く。
*
刃が振り下ろされる。
だが。
金属音。
弾かれる。
*
レオナがそこにいた。
「予想通りだ」
低い声。
*
襲撃者は一瞬止まる。
だがすぐに距離を取る。
無駄がない動き。
訓練された者。
*
「誰の差し金?」
リリアが問う。
答えはない。
*
次の瞬間。
襲撃者は煙玉を投げる。
視界が白くなる。
*
「逃がすな!」
レオナが叫ぶ。
兵が動く。
だが。
影は消えていた。
*
沈黙。
煙が晴れる。
残されたのは――
また、あの印。
歪んだ均衡の紋章。
*
「……来たわね」
リリアが小さく言う。
*
レギオン、均衡評議会。
緊急招集。
「暗殺未遂」
報告が落ちる。
空気が変わる。
*
カミラが立ち上がる。
「もう限界よ」
怒り。
「制度でどうにかなる段階じゃない」
*
レオナが言う。
「護衛を増やす」
即断。
「対象はリリア」
*
エルミナ。
「市場も反応する」
サディーク。
「資源も」
リュネ。
「信仰も揺れる」
*
すべてが連動する。
これが象徴の重さ。
*
イリスは静かに言う。
「予定通り進めます」
沈黙。
*
「再選挙を」
短い。
だが揺るがない。
*
カミラが叫ぶ。
「今!?」
「狙われてるのよ!」
*
イリスは答える。
「だからです」
一言。
*
「ここで止めれば」
「それが答えになる」
沈黙。
誰も否定できない。
*
リリアが笑う。
わずかに。
「いいわ」
*
「受ける」
その一言。
空気が変わる。
*
レオナが言う。
「危険だ」
リリアは答える。
「分かってる」
そして。
「でもここで逃げたら終わり」
*
その目は強い。
迷いはない。
*
ルクサリア。
再び広場に人が集まる。
だが今回は違う。
*
ざわめき。
視線。
緊張。
*
「またやるのか」
「今度はどうなる」
期待と不信が混ざる。
*
エリアナが立つ。
その隣にリリア。
*
人々がざわめく。
*
「始めます」
エリアナが言う。
声は震えていない。
*
その瞬間。
どこかで火が上がる。
*
悲鳴。
人が走る。
混乱。
*
「……またか」
誰かが呟く。
だが。
*
リリアが叫ぶ。
「止まるな!」
その声は鋭い。
*
「これが狙いよ!」
「混乱させて止める!」
*
沈黙。
一瞬。
*
そして。
一人が歩き出す。
投票箱へ。
*
また一人。
また一人。
*
流れが変わる。
*
火はまだ燃えている。
だが。
人は止まらない。
*
レギオン。
その映像を見て、カミラが呟く。
「……止まらない」
*
イリスが言う。
「はい」
*
「それが」
一言。
「制度です」
*
地下。
オルディスは静かに笑っていた。
「いい」
低い声。
*
「だが」
目が細くなる。
「まだ足りない」
*
彼はゆっくりと手を上げる。
その先にいる影。
*
「次は」
一言。
「崩す」
*
レギオンの空は、まだ静かだった。
だが。
その下で。
均衡は、限界まで引き伸ばされている。
そして。
次に切れるのは――
どこか。
読んでいただきありがとうございます!
ついに“直接攻撃”が始まりました。
そしてそれでも止まらない選挙――ここが均衡の真価です。
ただし、まだ敵は本気を出していません。
次に来るのは「崩壊の一手」です。
ここで第3部はクライマックスへ突入します。
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次話もお楽しみに。




