第69話 崩れる信頼
ざわめきは、広がるのが早かった。
噂は、火よりも速い。
――裏切り者がいた。
――選挙はまた壊された。
――均衡機構も信用できない。
その言葉は、街を覆っていく。
*
ルクサリア、公都ルクス。
広場に再び人が集まる。
だが今回は、怒号ですらない。
もっと冷たいもの。
「……もういい」
誰かが呟く。
それが広がる。
*
「どうせ決まってる」
「何をしても同じ」
諦め。
それが最も危険だった。
*
エリアナはその空気を感じていた。
怒りならまだいい。
ぶつけられる。
だが――
諦めは、動かない。
「……」
言葉が出ない。
*
その時。
人混みの中から声。
「投票なんて意味ない!」
「全部嘘だ!」
誰かが叫ぶ。
だが。
反応は弱い。
*
「……そうかもな」
別の誰かが言う。
それで終わる。
議論にもならない。
*
エリアナは一歩前に出る。
「違います!」
声を張る。
だが。
*
「証明できますか?」
静かな声。
振り向くと、一人の老人。
目は鋭い。
*
「今回も改ざんされた」
「前回も止まった」
ゆっくり言う。
「何が違うのですか」
沈黙。
*
エリアナは答えられない。
事実だからだ。
*
その時。
人の波が割れる。
リリアが前に出る。
*
「違いは一つ」
短く言う。
全員が見る。
*
「今回は隠さない」
沈黙。
*
「壊れたことも」
「裏切りも」
「全部出す」
その言葉に、空気が揺れる。
*
「……出してどうする」
老人が問う。
*
「選ばせる」
リリアは答える。
*
「壊れたまま選ぶか」
「やり直すか」
そして。
「決めるのはあなたたち」
*
沈黙。
完全な納得ではない。
だが。
完全な拒絶でもない。
*
「……信じられん」
誰かが言う。
リリアは頷く。
「そうね」
*
「だから」
一歩前に出る。
「私も賭ける」
*
「もしまた壊れたら」
一拍。
「私が責任を取る」
ざわめき。
*
「どうやって」
*
「辞める」
短い。
だが重い。
*
沈黙。
その言葉は効いた。
*
エリアナが息を呑む。
そこまで言うのか。
*
老人がリリアを見る。
長く。
そして。
「……なら」
一言。
「見届ける」
*
その言葉は小さい。
だが。
確実に広がる。
*
完全な信頼ではない。
だが。
完全な拒絶でもない。
*
レギオン。
報告が届く。
「暴動なし」
「だが信頼低下」
カミラが呟く。
「最悪は避けた」
*
エルミナ。
「市場もギリギリ持つ」
サディーク。
「資源も」
リュネ。
「信仰も」
*
カイエルが言う。
「だが」
一言。
「脆い」
*
イリスは静かに頷く。
「はい」
*
「だからこそ」
彼女は言う。
「次が重要です」
*
その夜。
レギオンの別の場所。
暗い部屋。
複数の影。
「……効いている」
「信頼は崩れた」
「あと一歩だ」
*
一人が言う。
「次は?」
*
別の声。
「象徴を壊す」
沈黙。
*
「誰を」
*
「リリア」
空気が変わる。
*
地下。
オルディスは静かに笑っていた。
「いい」
低い声。
*
「信頼を壊すには」
一言。
「象徴を壊せばいい」
*
レギオン。
リリアは一人で立っていた。
窓の外を見る。
静かな街。
*
「……来るわね」
小さく呟く。
*
その時。
背後で音。
振り向く。
*
誰もいない。
だが。
気配だけが残る。
*
均衡は、限界に近づいている。
そして。
次に壊れるのは――
“人”だった。
読んでいただきありがとうございます!
ついに「信頼の崩壊」が広がり始めました。
そして次に狙われるのは――リリアという“象徴”。
ここから物語はさらに緊張感の高いフェーズに入ります。
守るべきものが「制度」から「人」へと変わっていきます。
次話ではついに“直接的な攻撃”が描かれます。
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次話もお楽しみに。




