第68話 裏切り者
紙が、静かに燃えていた。
証拠資料。
再選挙のために集められた原本。
その一部が、焼かれている。
*
「……誰がやった」
リリアの声は低かった。
怒りではない。
冷静な殺意に近い。
*
レギオン、選挙管理局。
封鎖された室内。
兵が立ち、記録官が震えている。
「管理は完全だったはずです……!」
叫びに近い言葉。
だが。
現実は目の前にある。
*
カイエルが焼け跡を見ていた。
しゃがみ込む。
灰を指で触れる。
「……新しい」
静かに言う。
「今、燃やされた」
*
レオナが即座に言う。
「内部だな」
沈黙。
それしかあり得ない。
*
カミラが怒りを抑えきれない。
「ふざけないで」
「これで何回目よ」
*
エルミナは冷静だった。
「パターンが同じ」
「証拠を消す」
「信頼を削る」
そして。
「確実に内側」
*
イリスが言う。
「全員を調べます」
短い。
だが絶対。
*
空気が張り詰める。
均衡評議会。
全員が対象になる。
*
リュネが目を閉じる。
「……信仰も疑われるのですね」
その声は小さい。
*
サディーク。
「市場も例外ではない」
カミラ。
「共和国も」
レオナ。
「軍も」
*
そして。
カイエル。
「……当然です」
静かに言う。
*
その時。
兵が駆け込む。
「報告!」
「逃走者あり!」
空気が一変する。
*
「誰だ!」
レオナが叫ぶ。
*
「記録管理官、ユリウス!」
沈黙。
*
「……どこに」
リリアが問う。
*
「南区画へ!」
即座に動く。
*
夜の廊下。
足音が響く。
追う者。
逃げる者。
*
ユリウスは走っていた。
息が荒い。
だが止まらない。
*
「……もう少し」
小さく呟く。
その目に迷いはない。
*
扉を蹴破る。
外へ。
*
その瞬間。
剣が首元に突きつけられる。
レオナ。
「終わりだ」
低い声。
*
ユリウスは止まる。
そして。
笑う。
*
「遅い」
その言葉に、全員が止まる。
*
「何をした」
リリアが問う。
*
ユリウスは答える。
「少しだけ、ずらした」
沈黙。
*
「何を」
*
「信頼を」
その一言。
*
カミラが叫ぶ。
「意味が分からない!」
*
ユリウスは笑う。
「分からなくていい」
そして。
「感じればいい」
*
「疑うだろ?」
「またかって思うだろ?」
その言葉が刺さる。
*
「それで十分だ」
静かな確信。
*
リリアは一歩前に出る。
「誰の指示?」
*
ユリウスは一瞬だけ黙る。
そして。
「選んだだけだ」
*
「何を」
*
「壊れる方を」
その目は狂っていない。
むしろ。
冷静だった。
*
「人は」
ゆっくり言う。
「信じるより疑う方が簡単だ」
沈黙。
*
その瞬間。
小さな音。
ユリウスの口元から血が流れる。
*
「毒か!」
兵が叫ぶ。
*
ユリウスは倒れる。
最後に。
笑った。
*
「……もう」
かすれた声。
「始まってる」
そして。
動かなくなる。
*
沈黙。
誰も動けない。
*
レギオン。
報告が届く。
「裏切り者、死亡」
カイエルが静かに言う。
「……消された」
*
イリスは目を閉じる。
そして。
「違います」
全員が見る。
*
「選んだのです」
一言。
*
「壊す側を」
その言葉は重い。
*
リリアは窓の外を見る。
静かな街。
だが。
もう元には戻らない。
*
「……信頼は」
小さく呟く。
「壊れた」
*
地下。
オルディスは笑っていた。
「いい」
低い声。
「一人で十分」
*
「均衡は」
ゆっくり言う。
「内側から崩れる」
*
そして。
「次は」
一言。
「誰だ?」
*
レギオンの夜は、さらに深くなる。
そして。
疑いは、全員に向けられる。
――誰が、次の裏切り者なのか。
読んでいただきありがとうございます!
ついに“裏切り”が表に出ました。
しかも敵は外ではなく、「選んだ側」にいるという事実。
ここからは完全に心理戦と崩壊のフェーズに入ります。
「誰を信じるのか」が最大のテーマになっていきます。
次話では、ついに“信頼の崩壊”が広がり、
均衡機構そのものが揺らぎ始めます。
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次話もお楽しみに。




