第66話 資金の流れ
レギオンの夜は、静かすぎた。
その静けさが、逆に不気味だった。
――内部に敵がいる。
その事実だけで、すべての音が違って聞こえる。
*
「動きます」
エルミナが言った。
均衡評議会の机の上に、地図と帳簿が広がる。
「時間がない」
サディークが頷く。
「資金の流れを止める」
それは、戦争と同じだった。
ただし、剣ではなく――金で戦う。
*
リリアは資料を手に取る。
数字。
記号。
名前のない取引。
だが。
「……ここね」
一点を指す。
港湾都市マレク。
そして。
「この商会」
小さな名。
目立たない。
だが。
「ここを通ってる」
*
エルミナが笑う。
「いい目してるじゃない」
そして即座に命じる。
「封鎖する」
*
同時刻。
マレク港。
夜の倉庫。
帳簿を閉じる男。
扉が開く。
*
「動くな」
均衡機構の監査官。
兵が周囲を固める。
逃げ場はない。
*
「……何の用だ」
男は冷静だった。
商人の顔。
だが。
目が違う。
*
「資金の流れ」
リリアが言う。
まっすぐに。
「説明してもらう」
*
男は笑った。
「合法だ」
即答。
「問題はない」
エルミナが一歩前に出る。
「そうね」
笑顔。
だが冷たい。
「表はね」
*
帳簿が開かれる。
数字が並ぶ。
だが。
そこに「ない」ものがある。
*
「抜けてる」
リリアが言う。
男の目が一瞬動く。
それだけで十分だった。
*
「二重帳簿」
エルミナが言う。
「古い手だけど有効よ」
男は沈黙する。
*
「誰の指示?」
リリアが問う。
男は答えない。
*
レオナの兵が一歩前に出る。
圧。
だが。
男は笑う。
「遅い」
また同じ言葉。
*
「もう流れてる」
その言葉に、空気が変わる。
*
「どこに」
リリアが問う。
男は言う。
「王都」
*
レギオン。
同時刻。
別の報告が届く。
「大規模資金移動」
「複数口座」
「同時発生」
サディークが言う。
「止めきれん」
*
カイエルが静かに言う。
「目的は」
一言。
「一箇所」
*
「どこ?」
カミラが問う。
カイエルは答える。
「選挙管理局」
空気が凍る。
*
「……何をするつもり?」
リュネが呟く。
誰も答えない。
だが。
想像はできる。
*
リリアは即座に動く。
「戻る」
短く。
*
レギオン。
夜。
選挙管理局。
静かな建物。
だが。
その中で。
何かが動いていた。
*
「準備は?」
低い声。
「完了」
複数の影。
*
「記録を書き換える」
その一言。
*
「結果を変える」
沈黙。
そして。
頷き。
*
扉が開く。
「動くな!」
リリアたちが突入する。
*
短い衝突。
逃げる影。
だが一人が倒れる。
捕まる。
*
「……誰だ」
リリアが問う。
男は笑う。
「もう終わった」
*
「何が」
男は答える。
「信頼だ」
その言葉が、最も重かった。
*
レギオン。
カイエルが静かに言う。
「……間に合っていない」
*
イリスは目を閉じる。
そして。
「確認を」
*
数秒後。
報告。
「選挙記録」
「一部改ざん」
沈黙。
*
カミラが呟く。
「……最悪」
*
エルミナが低く言う。
「市場は崩れる」
サディーク。
「資源も」
リュネ。
「信仰も」
*
レオナが言う。
「軍は動く」
だが。
*
イリスが言う。
「いいえ」
全員が見る。
*
「ここは」
一言。
「制度で取り戻します」
その声は静かだった。
だが強い。
*
地下。
オルディスは笑っていた。
「いい」
低い声。
「壊れた」
*
「均衡は」
一言。
「信頼で成り立つ」
そして。
「それを壊した」
*
彼はゆっくりと立ち上がる。
「次は」
一言。
「完全崩壊だ」
*
レギオンの夜は、まだ静かだった。
だがその内側で。
最も重要なものが、壊れ始めていた。
――信頼。
それは、剣よりも脆く、
そして最も強い基盤だった。
読んでいただきありがとうございます!
ついに「資金」と「情報操作」が繋がり、
黒幕の狙い――“信頼の破壊”が明確になってきました。
そして改ざんされた選挙。
これは均衡機構にとって致命的な一手です。
ここからは「制度 vs 崩壊」の本格衝突へ。
次話では、ついに“内部の裏切り”が表に出ます。
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次話もお楽しみに。




