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40 遺産を発見しました

「アルヴィドッ! おいっ、大丈夫かっ! おいっ!」


 ハリー達は慌ててアルヴィドが落ちた箇所へと駆け寄り、崖下を覗き込みまし

た。


「……っう……。あ、ああ……何とか……」


 家の二階くらいの高さから降って来るハリー達の声に、アルヴィドは手を挙げて答えました。身に着けた青いローブのあちこちに落ち葉や小枝が引っ付き、乱れた銀髪の上から土を被った姿ではありましたが、応答は可能なようです。"高所からの落下"と言うより"急な坂を滑り落ちる"と言った形であった事、滑り落ちる際に崩れた土と、下の地面の湿り気を帯びた柔らかい土と、周辺に群生していた草とがクッション代わりになった事などが重なったためか、どうやら怪我はない様子でありました。


「無理に動くな。ちょっと待ってろ、今行くから」

 そう言ってハリー達も、細い木の幹を手掛かり足掛かりに崖下へと降りて行きます。


「アルヴィド、大丈夫ですか?」

「びっくりしたよ〜……。怪我とかはしてない? 痛いところは?」


 同じく降りて来たエマとヴェネッサから声を掛けられましたが、アルヴィドは返事をしません。顔を上げる事もなく、うつむいたまま地面に視線を落とすばかりです。


「大丈夫か? おい、アルヴィド? ……あのな。虫の居所が悪いのは分かるが、せめて返事くらい――」

「そうじゃない。……これは何だ?」


 アルヴィドがすぐ側の地面を指します。


 指の先には、土の下から金属製らしき何かが露出しておりました。ぱっと見た限りでは白く太い円柱状の物体に見えます。さながら太い樹木の根か枝か、と言った風情ではありましたが、材質からしてそれはあり得ません。良く良く観察して見ると、長辺に対して水平に等間隔の鱗状の継ぎ目が見えます。その狭い隙間一つ一つにも土が詰まっており、この物質が相当な長期間土に埋もれていた事が伺われました。


「……これは……多分、先史文明時代の遺産だろう。この島でかつて栄えていたって言う文明のものだ。ここに放置されていたものへ長年の間に土が積み重なって行って、お前が滑り落ちた勢いで覆っていた土が崩れて露出したんだろう」


「そうでしょうね。けどこんなの、そうそう珍しいものじゃないんじゃない? 形なんかは色々と違ってるにせよ、似たようなものならそこらの平原とかにも転がってるし。アルヴィドだって、こっち来て一回くらいそう言うの見た事あるでしょ

う?」


「確かに見た事はある。だが……」


 アルヴィドは謎の物質が伸びて行く先を辿るよう、周辺の土を素手で軽く掘り返します。辿って行った先、アルヴィド達のすぐ側にある崖斜面には、土や木の枝や苔などに埋まっている"何か"がありました。


 ハリー達も一緒になって、枝を取り除いて土を掘り返して"何か"を確認します。しばらくして、土にくすんだ"黒い物体"が掘り起こされました。


「……これは……部品、だけじゃない……?」


 ティルノア島では、先史文明時代のものと思われる謎の物体を見掛ける機会はしばしばあります。しかし、大抵は『用途不明な何かの部品らしきもの』であった

り、原型を留めていないほどに壊れていたり、精々『辛うじて一部原型を留めている』程度で、結局それが何なのかさっぱり分からない……と言ったものが大半を占めております。


 しかし目の前に埋まっている黒い物体は――あくまでも露出している範囲ではありますが――激しい土汚|れに(まみ)れてこそいますが、しっかりとその形状を保っている様子でありました。


「……僕はティルノア島の遺産に関して、書物である程度の知識は持っている。だが、こんな状態で発掘された例なんて聞いた事さえない。これは……一体何なんだ……?」


「……ねえ、もしかしてあたし達、とんでもないものを見付けちゃったんじゃ

……?」


 ヴェネッサの震える声には、隠しようもない歓喜の響きが混ざっておりました。


 それはそうでしょう。何しろ、島の先史文明を探る上で極めて価値の高いであろう新発見をしたのですから。動植物にせよ、遺跡・遺産にせよ、ティルノア島にて何らかの新発見に貢献した開拓者にはギルドからの報奨金が支払われます。対象の持つ価値によって金額に差は出ますが、例え比較的価値の低いものでも『しばらくは贅沢が出来る』程度の金額が貰えます。ましてや、価値の高い発見ともなれば

『二十代にして悠々自適な隠居生活に入れる』ほどの金額が支払われたケースすら存在しております。


 これだけのものを発見した以上、アルヴィド達には相当額の報奨金が支払われる可能性が高いでしょう。"一攫千金"と言う全開拓者が密かに抱く、あるいは大っぴらに公言する夢物語が、全く予期せぬ形で彼らのすぐ手元に転がり込んで来たのです。


 もちろん、確定ではありません。例えば、土から露出している部分だけが形を保っているだけで、埋まっている部分は丸々損傷している……などの可能性も否定出来ません。報奨金の額も、その分少なくなるでしょう。しかし、それでも十二分な額を得る事が出来るでしょうし、そもそも沸々と興奮が湧き上がっている今の彼らには、そこまで思索出来るまでの冷静さはありませんでした。

 

「そ……そうかも知れません……いえ、きっとそうです! 凄いじゃないですか、アルヴィド!」


「ああ! お手柄だな! ……ま、まずは位置の確認だな。近くに目印も残しておかなきゃ。……いやいや、それよりも俺達が第一発見者だって証拠を残す手段考えるのが先か……」


「…………」


 喜色満面で騒ぎ立てる三人とは対照的に、アルヴィドは"遺産"をじっと静かに眺めるばかりでした。彼とて、先史文明時代の遺産発見を喜んでいない訳ではありません。貴族出身であり、大金が動く場面を相応に見慣れている立場であるため、ハリー達に比べ報奨金が放つ幻惑への耐性は幾分か持っております。しかし、大金が自身の手元に入ると知って泰然としていられるほどに裕福な大貴族でもなければ、悟りを開き俗世の欲を完全に断ち切った聖者でもありません。当然、内心で喜びの感情は浮き上がっております。


 しかし、それ以上にアルヴィドは眼の前の"遺産"に対する些細な違和感に気を取られておりました。それも上手く言葉に出来ないほどの、『何となく』としか表現しようのない些細な違和感です。


 強いてあげるならば――『動いたような気がする』が一番近いでしょうか。


 ――ある訳がない。馬鹿馬鹿しい。


 自身の思考ながら、何とも突拍子のない発想であると呆れました。


「どうした? これ以上は迂闊に触らない方が良いぞ」

「いや。何でもな――」


 単なる気のせいだと思い直してハリーの方を向こうとして――今度こそ間違いのない、強い違和感をはっきり覚えました。いいえ、既に"覚える"と言う事すら呑気のんきであると断言出来る状況でありました。


 紛れもない異変でありました。


 それまで土に埋もれたまま静かに姿を覗かせているだけであった"遺産"の黒い表面に、赤い光が灯りました。丸い丸い――まるで夜天に不気味な輝きをともす、紅い紅い満月のようでした。


「な、何だ……?」

 ハリー達も気付き、たじろぎながら一歩、二歩と距離を取って行きます。


 動揺のままに取った行動ではありましたが、結果的にそれが正解でありました。


 がくん、と"遺産"が揺れたかと思った次の瞬間、"遺産"を覆っていた周辺の土が盛り上がり、周辺にばっと飛び散ります。


「うわ……っ!?」

「きゃあっ!?」


 無遠慮に撒き散らされる土埃や土塊、腐った木片や小石から、ハリー達は背を向けつつ両腕で顔を守ります。エマだけは咄嗟に前に出て大盾を構え、飛散する土砂が仲間達へと向かうのを防ぎます。


 もうもうと漂う土埃にむせ返りつつハリー達は目を開き、ゆっくりと前方へ向けます。


 そこには、


「……そんな……まさか……」

「動いて、いるのか……?」


 先史文明時代の"遺産"が、さながら生物であるかのようにハリー達の眼前で動いておりました。


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