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24 ハリー達と会いました

 改めてマールをパーティーに迎え入れ、リオ達三人はファインダの街へと帰還しました。


「……ん? あいつらは……」

「あ、昨日会った人達だ。確かハリーさんだっけ?」


 街門をくぐってすぐのところで、ハリー達一行の姿に気が付きました。道端で固まり、何やら話をしています。リオが声を掛けようか軽く迷い、アルヴィドと顔を合わせるのも面倒だ――と考えた辺りで、ハリーがこちらの視線に気が付きまし

た。


「……ああ、リオか」

「よう」


 目が合った以上、避けると言う選択肢はありません。未だ気まずさを引きずっているらしい様子のハリーに、気軽な調子でリオは声を掛けました。


「おやリオ、久し振りだね。……ああ、確か昨日会ったばかりだったか」

「……ご挨拶だな」


 嫌味の入り混じったアルヴィドの言葉に、リオは顔をしかめます。予想通りとは言え、到底気分の良い邂逅ではありません。だから声を掛けたくなかったんだ……と言ってやりたい欲求に駆られましたが、強いて喉の奥へ押し込みました。"ハリー達"まで避けている、と受け取られたくはありません。


「アルヴィドさん、でしたよね。こんにちはー」

「……ああ、どうも」


 険悪な空気は察しつつも、強いて気にせずティエラは友好的に挨拶をします。

が、アルヴィドからはまるで味気のない返事が返って来ました。義務的に口を動かしてやった、とでも言わんばかりの素っ気なさです。友好など欠片も混ざっていない態度に、流石のティエラも笑顔を引きつらせました。


「……ところで、そっちの娘は? 新しい仲間?」

 マールを指し、ヴェネッサが尋ねました。


「ああ。今日組んだばかりの治癒術士だ」

「あ、マールって言います。教会で準司祭もしています。以後お見知り置きを」


 マールが頭を下げると、ハリー、ヴェネッサ、エマはめいめいに「ああ、よろしくな」「始めまして〜」

「よろしくお願いしますね」……と応えました。


「……ああ」


 最後にアルヴィドが一応、と言う風に応えました。彼女に対してまるで興味がない――むしろ、ごく薄っすらと不愉快そうな気配すら漂わせておりました。もちろん、マールには原因の心当たりが全くありません。戸惑いつつも、努めて表情に出さないようにするばかりでした。


「メンバーを増やしたのか、リオ。それで君の無力っぷりが補えると良いけどね」

「余計なお世話だ」


「おいおい。さっさと立ち去ろうとするなよ」

「生憎、こっちはギルドに報告に行かなきゃならないんだ。クエスト帰りなんで

な」

「奇遇だね。僕達もだ」


 確かにハリー達の格好は、クエストに出る(あるいは戻った)開拓者特有の十分に装備を整えた姿です。彼らがクエストの出発前か帰還後である、と見るのは妥当です。


「そうかよ。じゃあ、俺達はこれで」

「だから、そう急ぐなよ。折角だ、僕達と有益な話をしながらでも良いだろう? 例えば魔術のアドバイスとか、ね」


「本っ当に嫌味ったらしい奴だな。お前には関係ないだろ。放っとけ――」

「リオ達が今回受けたクエストは何だ?」


 言葉を遮るように、アルヴィドが言いました。無視しようかとも迷いましたが、彼の性格的になおも絡んで来る可能性があります。仕方なく、リオは答える事にしました。


「突撃鳥の駆除だ」

「そうか。……それでリオ。君が直接倒した突撃鳥は一体何羽だ?」


「……何が言いたい」

「答えて見ろよ」


「だから放っとけって――」

「僕が代わりに言ってあげようか? せいぜい一羽か二羽か、大体そんなところだろう。ゼロかも知れない。君達が全部で何羽狩ったのかは知らないが、大半はそっちの二人の手柄だ。違うか?」


「おいアルヴィド。そこまでに――」


 慌ててハリーが止めようとしますが、アルヴィドは構わず続けます。


「君は魔術師として大した働きが出来ない。仲間の力を借りなければ、今回のクエストだってろくな結果を出す事は出来なかっただろう」

「それが何だってんだ。仲間の力を借りる事は、パーティー組んでる開拓者として当然だ。お前だって人の事言えないだろ。お前一人でクエストを成功させたつもりなのかよ」


「そう言う事じゃない。本当は自分でも分かってるだろう? 君は仲間に助けられている。じゃあ君自身は仲間の助けになっているか? 真っ当な魔術師として、真っ当な魔術で貢献出来ているか?」

「…………」


「出来ていないだろう。せいぜいがこけおどし程度だ。……確かに、君の魔術制御能力は驚異的に高い。僕にも真似出来ない。だが、それが一体どうしたと言うんだい。そんな真似など出来なくても、並の魔術師が並の威力の魔術を使った方がよっぽど役に立つ。僕から言わせれば、君は小細工を強調して実力を誤魔化しているだけだ。そんなものは技巧と言わない。情けないと思わないのか?」

「……うるせえ」


「そんな君に対し、この僕が魔術を教えてやろう、と言ってあげてるんだ。何なら付きっ切りでも良い。ひょっとしたら、君の魔術の威力も実用的な水準に上がるかもよ。つまらない見栄なんて張っても、何の得にもならないと思うけど?」

「一つ言っておく」


 取り入る隙間など僅かにもない口調と共に、リオはアルヴィドを睨み付けまし

た。怒鳴りこそしませんでしたが、内面から立ち昇る怒りの熱気を全く隠すつもりのない声色でした。


「お前から教わる事なぞ一つもない。んなもん絶対にあり得ねえ。一体、俺の何がそんなに気に入らんのかは知らんが、いい加減お前の下らんちょっかいに付き合うのはウンザリなんだよ」

「……そうかい」


 こちらも急激に口調を尖らせ、アルヴィドは吐き捨てました。


「だったら勝手にすると良い。ハリー、さっさとギルドに行こう」

「おい待て……アルヴィド!」


 ハリーが止めるのも聞かず、アルヴィドは一人でさっさと立ち去ってしまいました。


「……すまないな、リオ」

「お前が気にする事でもないだろ」


「それにティエラ達も申し訳ない。俺の仲間が失礼な事を」

「あ、いえいえっ、ボクは気にしてませんからっ」

「お、お気遣いありがとうございますっ」


 謝罪するハリーに、弾き出されたような容赦の態度が二人の表に現れました。本心でこそありましたが、同時に気まずい空気を急いで払拭するような、不自然なぎこちなさも垣間見えておりました。


「……それにしても妙だよね、アルヴィドの態度。リオ相手にキツいのは……全部じゃないけどあたし達も事情聞いちゃったから、まあ理解出来るけど」


 少しバツが悪そうにヴェネッサが言いましたので、リオは「気にするな」、と手を振りました。


「でも、ティエラ達にまであの態度はちょっとおかしいよね。確かにあいつ、無愛想なところはあるけど……あたし達相手には普通に接してるわよ」


「そうだよな。少なくとも、"礼儀知らず"って奴じゃない。……すまないがリオ、昔のあいつはどうだった?」

 ハリーから話を振られ、リオは軽く思い返す素振りを見せ、


「……まあ、確かに友達の多い奴じゃなかったが……かと言って、嫌われ者ってほどでもなかったとは思う。少なくとも、俺以外には特別トゲのある態度は取っていなかった」


「……そうか。……何にせよ、すまなかった。それじゃあな」


 未だわだかまる気まずさから逃れるように、ハリー達はアルヴィドの後を追い掛けて行きました。


「……横から聞いた限りでは、リオさんとあのアルヴィドって方はお知り合いのご様子ですが……何かあったのでしょうか?」

「まあな。……折角だし、説明しとくよ」


 マールの疑問に、リオは答え始めました。






「……そうだったんですか。リオさんは本土の元貴族で、アルヴィドさんとは魔術学院のご学友だったと」


 ギルドへと向かう道すがら、リオは事情を説明しました。とは言ってもアルヴィドとはかち合いたくないので、たっぷり時間を掛けてのゆっくりとした移動です。


「そう言う事だ。ティエラにも言ったが、貴族ったって"元"だ。接し方に気を遣う必要はないぞ」


 自分から"貴族だからと気を遣うな"と言い出すのも、"裏を返せば貴族である事を自分が一番意識している"などと解釈されがちです。しかし、貴族だと伝えたら伝えたで変に恐縮されたり、距離感のある接し方をされてしまう事がままあるのです。実際リオも、元貴族だと知られた途端にパーティーメンバーの一人から『とんだご無礼、お許し下さいませっ!!』……と、ひたすらに頭を下げられた事があります。その後も以前に比べて妙によそよそしく、露骨なまでに"貴族階級"の色眼鏡で見られ、結局元の態度に戻る事はなかった……と言う経験を持っています。


『恐縮されてしまう、しかしそれを防ぐために予め"気を遣うな"と言うと"自分で自分を特別だと思ってる証拠だ"と言われる』二律背反なこの問題。貴族出身開拓者の一定数が抱える、密かな悩みの種なのでありました。


「お話は分かりました。まあ対人関係は無闇に首を突っ込むものでなし、私から特別申し上げる事はありません」

「そうしてくれると助かる。……まあ早いとこ報告済ませて、報酬を受け取ろう」


 経過時間を考えれば、ハリー達も用事を済ませて立ち去っている事でしょう。頃合いも良しと見定め、リオは揚々とギルド本部の大きな木製扉に手を掛けました。


「――うるさいっ! とにかく、お前は追放だっ!」


「待てっ! 待ってくれ――へぶぅっ!!」


 扉を開けて真っ先に目にした光景は、三人の仲間(恐らく)にすがり付こうとした女開拓者が、床向かって|顔面から前のめりに倒れ込む姿でした。長く美しい金色の髪が女を追って空中に尾を曳き、赤い絨毯(じゅうたん)の上へ|ばさり、と被さるように広がりました。露わとなった背中には弓と矢筒が見え、彼女はどうやら弓使いであるらしい事が察せられました。


 女の懇願など一切取り合う事もなく、元・仲間達(恐らく)はさっさとリオ達の脇を通り過ぎ、そのまま何処かへと立ち去って行ってしまいました。


「……くっ、何と言う事だ。また追い出された――」


 倒れたまま顔だけを上げた女の視線と、入り口で立ち尽くしたまま何事かと見下ろすリオの視線とが、正面から交わり合います。女の青い瞳が値踏みするようにリオを下から上まで眺め回し、


「――そこの魔術師。この私をパーティーに加える気はないか?」


 ――ああ。


 ――こいつ、絶対面倒な奴だ。


 床に這ったまま言ってのける女の姿に、リオは直感的な確信を抱きました。


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