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咎の勇者  作者: 如月厄人
第三章 激動
40/44

3-10

「……! …………せ! ケイ! ケイ!!」

「はっ…!」


 急いで身体を起こす。


 此処は…、王都…か。


 そうか、俺は結局…、咎に負けたのか。


 魔王が俺たちに施した『偽装』も解け、俺はズキズキと疼く背中に、先程のことを思い出した。


「気を落としている場合…じゃないけぇ、今は起きんしゃい」

「あぁ…、っ!ギレアン!」


 俺が倒れていたのはギレアンの上で、そのギレアンは頭から血を流して地面にめり込んでいた。俺は飛びのいてギレアンを地面から抱え上げる。


 だがギレアンは立ち上がれないのか、地面に下ろしても後手をついて座り込んでしまった。


 傷が酷い。墓標の破片やら瓦礫やらでギレアンの鎧はベコベコにへこみ、その隙間からは大量の血が流れている。


「ギレアン…なんで…!」

「なんでもクソも…あるかぃ。弟子を助けるのは…師匠の務めじゃ。ただ…ちぃとばかし…無理があったな」


 ギレアンは息も絶え絶えにそう言うと、続けてこう言った。


「だが…お前がそのまま敵にならんでよかったわぃ…。見てみぃ…、お前を相手するより…楽そうじゃ…」


 アゴで刺した方向を見ると、あの男が地面に伏している所だった。少し離れたところに別の男が立つ。三つ編みに結わえた髪をなびかせて空を見上げる。その視線の先には魔王がおり、俺の姿を確認すると俺の近くに降り立った。


 ギレアンの方を見ると、振り返って三つ編みの男に言った。


「スコアラーは何処だ」

「アイネ女史と一緒に近くに居るはずだ」

「呼んだかね?」

「スコアラーの方だ」

「残念だな。ナターシャ、お呼びだぞ」

「わ、わかってるわよ! …轟も来て」


 三つ編みの男がため息と共に、瓦礫の影から出てきた緑のワンピースの女性は、三つ編みの男の陰に隠れながらこちらにやってきた。褐色肌にウェーブのかかった髪からは、活発そうなイメージを貰うのだが、本人はそうでもないらしい。続いてやってきた黒髪ロングの男装をした女性も、その様子にやれやれといった風に腰に手を当てた。


「治療は?」

「一応…」

「見ての通りだ、やれ。コマンダー、構えろ、まだ来るぞ。咎、そいつから刀を貰え、お前も戦えるはずだ」


 俺は自分の手を見る。


「でも…俺はスキルを…」

「それがどうした。みっちり仕込まれた剣術まで忘れたか」

「それは…」


 そうだ…、身体に叩き込まれた剣まで持ってかれた訳じゃない。俺はギレアンの方を見る。呻き声をあげながら緑色の光に包まれている彼の腰には、二本の刀が挿さっている。


 俺はギレアンに言った。


「借りてもいいか、お師匠」

「あぁ、いいともさ」


 俺はギレアンの腰から二本の刀を抜き、ギレアンに倣って、しなりを下にして腰に差した。軍士と魔王の隣に並び立つ。


「君が咎か、随分と、若かったんだな」

「ケイだ。そう言うあんたも、軍士って割りに若いじゃねえか」

「轟 将雷という。確かにな。私を含めて、役を持った異邦人は須らく若い。経済士のアイネ女史だけは妙齢だがな」

「聞こえているぞ」


 くつくつと笑いながら、軍士の轟は拳に平手を合わせた。


「さて、私も文字を読むまではわからなかったが、どうやら此処は、『我々の墓場』だったようだ。魔王が打ち倒された後、我々の骨も此処に埋められる予定だったようだな」

「そうみたいだな。ま、俺もそうなったんだろうけどさ」


 魔王が死んだら俺も用済みだろ。


 自分達だけ甘い蜜を吸って、搾りカスの俺たちはここに埋まる。


 あー何とも…。


「許し難いな」


 俺は今は無き王城を睨みつける。だが、死んだ奴に当たっても仕方ねえ。


 問題は目の前にある。


 徐々に、あの男が倒れている空間が歪んでいく。魔法を使っているような気配は無い。言っちまえば、オーラって奴だろう。それはドンドンと膨れ上がっていき、俺たちの足元の小石がカタカタと揺れ出す。


「許し難い…許し難いなぁ…!そうだよなぁ!この世界は許し難いんだよなぁ!俺なら解るぜ咎人ォッ!」

「ナンテコッタ、俺は理解者に後ろから刺されたみたいだぜ」


 ガバッと起き上がった男の腹は、グネグネとした肉がその穴を埋め、綺麗な肌が見えている。フードが取れた男の顔は、アルマに特徴をありありと受け継がせていた。違うといえば、顔つき、目つきくらいか。紫陽花色の髪と茜色の目。声が違うのは当たり前だとして、咎守の一族だということはハッキリと解る。


 でも、なんか、うん、スゴイ身体が脈打ってるんだけど…、何つーかその…、うわぁ…体がめちゃくちゃだ…。顔はそのままに、右腕が膨れ上がったかと思えば、奇形のまま巨大化し、パチン!と弾けて新しく真っ黒な腕が出来上がっていた。


 それが全身に施されると、男の身体が真っ黒になり、狂気を感じる笑みをステキに浮かべている。


 隣の魔王が舌打ちした。


「面倒くせえ、ステータスが上がってやがる。お前よりは低いが、俺の倍近くはある。気を付けろよコマンダー」

「なるほど、私程度なら一瞬で御陀仏か」


 え、ちょっと待って。


「俺より低いってどういう事?」

「あぁ?あー、そうか、お前はわかってないんだったか。つっても俺もわかってるわけじゃねえけど…さ!」


 ドゴォッ!


 飛びかかってきた男が振り下ろした拳は、地面を打ち砕き、埋めてあった棺をも露出させる。


 バチ当たりな野郎だな!


 俺は片手で地面に手をついてそのまま少し離れる。すぐさま反応できなかった轟も遅ればせながらその場から飛びのいたのを確認する。


 …ん?


「…動ける」

「そういうことだ!咎が引き上げた能力は下がらない(・・・・・)!」


 何それ胸熱!


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