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咎の勇者  作者: 如月厄人
第三章 激動
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3-11

 俺は上手の刀を左手で逆手に掴み、そこから一気に踏み出す。いつも通りのスピード、いやそれよりもっと速い!超速い!


 でも、見える、認識できる。体が動く。


 やれる。


 一歩、踏み込み。


『裏閃:打瀬』


 光の筋が俺の後に付いてくる。逆手に抜いた刀の柄は男の額に吸い込まれるように打ち込まれる。


 ボッ!という音が響く前に、感じた手応えから次にステップを踏む。


『表裏一閃:満月』


 順手に抜いたもう一本と共に二連続の斬り上げ。だが手応えは硬い。見ると、二本の筋が走ってはいるものの、血も出てない。


 先に刀がダメになっちまうかもしれねえな…。


 すっ飛んでいった男を見送り、俺は刀を納めた。男は瓦礫の海をのたうち回りながら転がり、またガバッと起き上がる。


「ドォーしてダァ!俺が何をシタァ!!俺を作ったのはお前ナンだぞぉ!」

「俺はお前を作った覚えなんてねえよ」

「イーヤ!お前だ!トガがいるから俺タちが生マレたんだ!俺は許サない!絶対に赦しハシナイ!こんなクソみたいなイキカタヲさせるお前らを!この世界を!俺は許さないイイイイイイいいいいいい!!!」


 地団駄、地面が揺さぶられ、まだ残っていた地表までもが崩落していく。棺はめくり上げられ骨が飛び散り、いつぞやの勇者達が無残な姿を晒した。


 咎がいたからこそ生まれた存在、といえば一つしかない。


 咎守。彼らは…、アルマは俺がいなければ一族として作られる事は無かったのだろう。


「咎、勘違いするなよ。あいつは、咎守は人間じゃない」

「は?」


 俺の隣に立った魔王が、わけのわからないことを言う。


 咎守が、人間じゃない?


「流石に咎も其処まではわからなかったみたいだな。認識も従者だったか。スコアラー、咎守とはなんだ」


 ギレアンの治療をしていた女性がつらつらと本を読むように言った。


「魔族の種の素から作った人為的かつ半永久的な人材資源、ホムンクルス、なんて言ったらわかりやすいかしら」


 ホムンクルス…、人造人間…?


 そんな…アルマが…人造人間?


 思い返せば、疑問ばかりが浮かんでくる。


 咎守は何処に住んでいるのか?他の咎守りは一体何処にいるのか?俺の食糧の出処は?それだけ秘密に包まれていながら、これだけ長い間存亡し続けていられた理由は?


 どうして今まで聞いてこなかったんだろう。どうして俺はアルマの事を知ろうとしなかったのだろう。


 情けなさすぎて悲しくなってくる。


「俺は、未だに何も知らない。アホも阿呆でど阿呆だ」


 俺は拳を大きく振りかぶった。


「でもな、そんな俺でもわかることがある」


 踏み出し、踏み込む。


 ゴッ!バゴォッ!!


 拳に走る衝撃、食いしばりながら、振り抜ける。


「人のせいにするんじゃねえッ!!!」


 地面をバウンドしながらも受け身をとった男に俺は腕を組んで堂々と言った。


「確かにお前らが作られたのは俺のせいだ!間違いない!でもな!お前らは変わろうとしたのか!アルマを見ろクソ野郎!勇者が死んで嬉々として自分の運命を変えに来たぞ!ちゃっかりしてて可愛いだろ?!あぁ?!」

「何言ってんだこいつ…」


 うるせえ黙ってろ。


「お前はその生き方を変えようとしたか?どうやったら変えられるか考えた事はあるか?」


 よろよろと立ち上がった男は、歯を食いしばったまま涎を垂れ流しながら、俺に向かって走り出した。


 速さが上がっている。またステータスが上がったんだろう。


 だが関係ない。


 大きく振りかぶった拳を、俺は仁王立ちのまま受け止めた。


 ゴッ!と俺の頬を殴り抜かんとする拳は、そのまま俺の頬で止まり、俺の首の筋力と奴の拳が拮抗する。


 ぐぐぐ…、と押してくる拳を顔で弾き飛ばした。


「ふんぬ!」

「っ!」

「お前だけが被害者みてえな顔してんじゃねえぞ」

「ぐ…ぅううう!!!」

「俺も、魔王も、マリアも、軍士も書士も経済士も、勇者だって…アルマだって被害者だ。でもな、俺はお前に代弁してもらおうだなんてちっとも思わねえ。俺の言葉は俺が語る」


 男はまた、口を歪めた。


「だったら、お前に贖って貰おうじゃねえか。この世界の罪を、俺たちの悲しみをォッ!」


 ヴォン!



 なんだ…!


 紫色の魔法陣が展開され、男はこう言った。


「ステータスコピー!命ずる、目醒めよ!全ての咎守よぉ!!!」


 すかさず、魔王が叫んだ。


「それを待ってたぞ!! ムクスッッ!!!」

『転送します。ほら行け、全く、最近の若者は…』


 今度は空中から叫び声が響いてくる。


「ぅぉおおあああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 アレは…。


「勇者っ?!!」

「其奴だァッ!叩っ切れええええええええええええええ!!!!」


 途端、勇者の目つきが変わり、背中の剣を抜き放つと、身を翻して男を叩き切った。


 …え、マジ?勇者?


 男が作り出した魔法陣ごと叩き切った勇者は、受け身を取れずに地面に転がった。


「おいちょまじいってえええええ!!!ざっけんなよおい!あのガイコツ何考えてんの?!マジいってーんだけど!!ってか魔王!!お前今度こそ俺と決着つけろオラァ!訓練とか言って夢の中に閉じ込めやがってよぉ!!」


 直ぐに立ち上がって魔王に文句を垂れる。マジで勇者かよ…、死んでないじゃん。


 俺が魔王を見ると、勇者をガン無視して男に言った。


「これが勇者の固有スキルだ。『因果切断(ロストコネクト)』、元々は罪人が同じことを繰り返さないにする為、さらに言えば、罪人を孤立させる為のスキルだったみたいだがな。お前はこの力が自分の計画の邪魔になる事を知っていた。だから俺に早々に殺させようとしたんだ」

「おい無視かよ!」

「うるせえ」

「へぶっ」


 男は自分の手を見て、くつくつと笑った。


「く…クククク!それがどうした…、それがどうしたぁっ!俺が死ねばまた俺がお前達を…この世界を壊しに来る!もう止められない!『スキルドレイン』で奪い取った時点でお前達の負けなんだよ!!」

「それはどうだろうな」


 経済士がキャンパスに何かを描いている。


「『思い通りの結末を(私のキャンバス)』を舐めてもらっては困る。我輩にはこういう事しか出来ないからな、大いにやらせてもらうよ」


 くるっとひっくり返したキャンバスには、この世界の地図と思しきものと、幾つかの地点にポイントがされていた。


「まさに、ここ掘れワンワン、というやつかな」

「もう既に轟とギレアンさんが向かってるわ。メルタに駐留させていた部隊も動き始めてる」

「詰んだのはお前だ、咎守。『因果切断』でお前はもう命令を送れない。お前を殺す前にお前が作り出される種の素を壊せば、お前は復活出来ない」


 男はグッと拳を握る。


「俺が…俺が何をしたっていうんだ…!」


 そうだな…。


「強いて言うなら、何もしてこなかったからさ」


 そして、もう一つ、付け加えた。


「あんたら咎守には、辛かったろうよ。罪を負うのは、俺だけで良い」


 俺がその肩に触れると。す…、と黒色の肌が抜ける。代わりに、俺の中にあのスキルが戻ってきた。


(あがな)うその身』


 もう俺に取って変わろうとするような奴は居ない。俺は刀を抜いた。


「世界を浄化する必要なんて、最初から無い。いつかバランスが崩れたなら、また今日みたいに、元に戻せるような日が来るさ」


 刀を振り上げる。


「あんたの…、咎守の役目は終わったよ。お疲れ様」


 すっ、と振り下ろす。とさ、と倒れた男に外傷は無く、息もちゃんとあった。


「良いのか」


 魔王が俺に尋ねる。


「良いんだよ。罪を贖うべき人間は、もう死んでる。これ以上は無意味な殺生さ」


 魔王に殴られ伸びていた勇者もムクリと起き上がり、目が合った二人から顔を背け、頭を掻きながら言った。


「…ただいま」

「ただいまじゃないわよ!バカマサキ!!あんたのせいで…どれだけ…こわかったとおもってるのよぉお…!」


 びぇー、と泣き出した書士の女の子は隣の経済士によしよしと宥められ、勇者は「だってこいつつええんだもん」と言い訳がましくむっすりとしていた。


 そうだよなぁ、こいつ強かったよなぁ。


「魔王様、書物はどちらに?」

「あぁ、メルタの方に持って行ってくれ」


 畏まりました。


 何処からか現れた黒いローブを深くかぶった骸骨が恭しく一礼して、フッと虚空へ消えた。


 あいつ…確かメルタに…。


「今のが魔術士だ。もう六千年は生きているらしい。あいつもそろそろ交代させてやりたいんだ」

「そうなのか…」


 長い長い刻を生きた彼の苦悩は、計り知れない。何人もの魔王が殺られる所を、黙って見ているしかなかったのだろう。魔族を残すための、最低限の犠牲として。


 それももう終わる。


「これからどうする?魔王さんよ」

「まずは…、条約の締結だな」

「真面目だねぇ…。なんかフラグ立ててねえの?帰ったら結婚するとかさ」

「けっ…こんはもう済ませた」


 ちょっと顔を赤くした魔王。え、既婚なの?


 ほーん、そっかぁ、奥さんいるんだぁ?


 ニヤニヤしている俺の顔をぐい、と魔王が無理矢理逸らす。


「てめえ役が終わったら急に絡むようになりやがって…、もっとクールな奴じゃなかったか?」

「あー、それなー…、でも俺そんなクールな奴じゃないんだよ、本当はさ。なんだろ、やっと戻ってこれたっていう感じ」


 魔王はそうか、と短く返して、グッと背を伸ばした。


「こいつの身柄は俺が一旦預かる。適当な食糧やらなんやらをくれてやって、森にでも置いておく」


 男の下に魔法陣を描いてそのまま発動させると、大きな黒い獣の口が男を呑み込んで消えた。それ転送魔法なのね…。


 それから、と周囲を見渡して腰に手を当てた。


「此処は埋め立てた方が良いと思うが、お前らどうする気だ?」


 魔王が勇者達に振り返ると、勇者は首を傾げた。こいつ此処がどんな場所かわかってねえな。


「いや、此処にこのまま街を作ろう。先人達には悪いが、上を歩かせてもらうよ」


 経済士がそう言うと、またキャンバスに何かを描き始める。凄まじい速度で描かれたそれは、線画のみであったが、壮観な街を描き出していた。縦に大きく伸びているのは、展望台だろうか? それから、上下を上手く活かした水力発電の風景が見える。


「生活排水と河の水を上手く使って水力発電を行う。幸い、この世界には季節がないから、地熱と太陽光にムラが出にくい。安定して電力の供給が出来るはずだ。種の素は全て魔族に返そう」


 経済士はキャンバスを閉じて、立ち上がった。勇者の横を通り過ぎ、魔王の前に立つと手を差し出す。


「君たちに頼りっぱなしで済まなかったな。後は我々が頑張ろう。先にゆっくり休んでくれたまえ」


 魔王はその手を見つめ、それから軽く握った。

「そうだな。草案でも出来たら持ってきてくれや、城の扉は開けておく」


 風が巻き起こる。全員が目を閉じた所で声が聞こえてきた。


「咎、お前とは一度全力でやりあいたい。近いうち、城に来い」


 風がおさまった後で、俺は右手を腰に当てて言った。


「わかったよ」


 返事くらい聞いてけ。


「そういえば、自己紹介がまだだったな。我輩は経済士のアイネ・ジーンだ」

「俺はケイ、よろしく」

「しょ、書士のナターシャよ」

「俺が天下の勇者!マサキ様だ!」

「呆気なく死んだ野郎がデカイ口叩くな」

「待って俺にだけ辛辣になるのやめて」


 わかりやすく落ち込む勇者を宥めることもせず、経済士は俺に話しかけてきた。


「君にはマリアが世話になったようだね。あの子の元気な顔が見れて安心したよ」

「マリアに関してはお互い様だよ。俺も助けてもらったしな」


 修行中は大変お世話になりました。治しても治しても新しい傷を作ってくるもんだから、マリアもマリアで面倒だっただろう。


 でも、そのお陰で俺はこうして立っていられる。感謝しきれないな。


「そうか。では後でアルマさんを紹介してくれ給え。君の良い人だろう?」

「ぅ…、あんた結構そう言うの好きなタチか」

「勿論さ」


 目を輝かせる彼女にため息をついて、俺はメルタへの道を歩き出した。


 ったく、あいつの顔が見たくなったじゃねえかよ。


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