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咎の勇者  作者: 如月厄人
第三章 激動
39/44

3-9

 さて、そろそろ準備に入らねえとな。


 深緑色のローブを深く被り、立ち上がる。土を掘って作ったような洞窟。蟻の巣のように広がるのは、種の素が其々の部屋で干渉しないようにするためだ。


 種の素の中には、それぞれが次の咎の世話をするための『咎守』が入っている。男もいれば女もいる。多種多様な姿をした咎守は、安らかな寝顔で体を丸めて眠っている。

  中には、俺そっくりの咎守もいる。そりゃそうだ。俺たちはそういう風になってるんだから。


 だが、俺だけは違う。咎守でありながら、咎ではなく咎守の管理を任されている俺は、記憶もステータスも全て引き継いでこの種の素から出てくる。


 俺という存在は消えない。だが、俺はそれを望まない。


 俺は、唯一になりたい。今までの俺がそう思ってきたように、俺も、ただ一つの存在でありたい。だから俺は今まで耐えてきた。俺たちが作り出されてから、今代の魔王に至るまで、四千年も、待っていた。


 チャンスは俺に巡りきた。身体も老いてない、精神もおかしくなっちゃいない。今しかない。溜まりに溜まった咎の罪を、その力を、手に入れられるチャンスだ。


 吸収の刻印の刻まれた小手を右腕につける。黒い金属に刻まれた刻印は、ぼんやりと白い光を灯しながら、小手に沈んでいった。


『スキルドレイン』の効果を持ったこの小手は、俺たちが長年の研究の末に、触れるだけでその者が持つスキルを全て吸収出来るまでに改良された。


 咎が素直なやつで良かったぜ。あいつは確実にアジュカリウスに行く。そしてその下に眠る歴代の人間が犯してきた罪を見るだろう。


 撃鉄はすでに下ろされている。


 トリガーには、魔王の指。


 その銃口が自分に向いているとも知らずに、あいつは咎をアジュカリウスへ導こうとしている。


 魔王はまだどうにか出来ると思ってる。それが無駄な足掻きだとも知らずに、ただただもがいている。


 それを片手で捻り潰せるんだぜ?気持ち良いに決まってる。


 俺を…俺たちを生み出した事を、必ず後悔させる。人間だけじゃない、それに加担した魔族の奴等も全部、根絶やしにする。


 ニヤける口元が抑えられない。


 鼓動が早くなる。


『魔導書』を手に浮かべ、ゲートを開く。


地獄の門(マギアンズゲート)


 骸骨龍が虚空から現れ、その口が開かれる。その口の中に広がっているのは、王都の風景。上空から見下ろしながら足を踏み入れる。


 そろそろか。


 空気の歪みを肌で感じながら、その方向に目をやる。咎が繋がれていた社の上、思い出の場所だってか?


 何もなかった空間から、魔王、咎、そして予定になかった人物が複数出てきた。魔王の姿は変わらず、咎は魔人に偽装している。片腕しかないからわかりやすいな。


 だが、もう一人の暗黒騎士は誰だ?能力だけ見りゃ、今の咎と大差ないっつーのはおかしいだろ。


 その域に達した人間がいるって事か?


 それ以外にも、調停者と咎につけてた咎守、ただの人間まできてやがる。調停者と咎守、人間は揃ってメルタに向かった。魔王は何を考えてんだ…?


 俺は魔王に感知される前にローブの効力を発揮させた。『無の包』によって俺の姿が見えなくなる。


 魔王と片腕の魔人、暗黒騎士は同時に分散すると、王都にアジュカリウスの三つの入り口から、同時に煙が上がった。


 一つは小隕石が降り注ぎ、一つは巨大な拳が打ち据えられ、一つは斬撃が入り口の壁を切り崩した。


 始まった。だが悲鳴が聞こえない。


 なんだ…?どうなってるんだ?


 悲鳴の代わりに聞こえてきたのは、兵士達の鬨の声だった。民の姿を脱ぎ捨てて、鎧をまとった兵士達が一斉にそれぞれの場所に向かう。王城からは垂直に魔装機が飛び出し、その機銃に火を噴かせている。


 だが兵士も魔装機も、この三人には敵わない。


 どれだけ武装を固めようと、どれだけ知恵を絞ろうと、単純な力の前ではまるで歯が立たない。


 …まぁいいか、多少予定が狂ったところで、俺がやるこたぁ変わりがねえ。


 徐々に徐々に崩れていく王都を見ながら、俺は王城に足を踏み入れる。中に残っていたのは、国王とその臣下達だけ…?


 おいおいおいおい!軍士は?書士は?経済士は?全員王城にいるはずだろ?特に軍士はここの指揮を執るはずじゃ…。


 壊滅の報告が跋扈している王城の中で、王は椅子をぶっ叩いて怒鳴った。


「軍士はどこにいったぁああああああ!!!ありったけの兵をだせぇえええええ!!!こんなところで!こんなところで死ねるものか!何としてでも!奴らを殺せええええええええ!」


 王の怒鳴り声に臣下達は其処彼処を這いずり回る。だが、次の瞬間には、その狼狽さえも見えなくなった。


 魔王が城を爆破しやがった。俺はその場から直ぐに離れる。コレだけ王城が攻められてるのに、軍士は愚か他の二人すら出てこない。


 まさか…まさかまさかまさか…!


 俺は『地獄の門』を開き、メルタの跡地へと飛ぶ。


「ではマリア、ここの守りは頼んだぞ。私たちは一度王都に向かう必要がある」

「うん、任せて」


 ここにいた…、全員が全員、ここに揃ってやがる。


 まさか、全部魔王が仕組んでんのか?


 一体…何のために?


 糞、咎守の管理にかまけて魔王の管理に手を抜いたのがまずかったか。


 となれば…サッサと力を奪っちまうに限る…!


 俺はもう一度『地獄の門』を開き、今度は咎の前に降り立つ。片腕の魔人の周りには使い捨てられた幾千もの武器が転がっており、それと同じだけの兵士の死体が転がっている。

  黒い肌に赤い紋様を走らせた咎は、俺に気がつくと、手近の槍を掴んで言った。


「何処にある」

「すぐ下さ、地面を崩せば、直ぐに見える」


 俺がそう言うと、咎は槍を適当に飛んでいた魔装機に投擲する。槍は紙を貫くように容易く魔装機を貫通して空の彼方へとすっ飛んでいった。その後、大きく拳を振り上げる。


 俺は先に宙へと飛び上がった。直後、咎の拳が輝き、地面に振り下ろされた。


破壊の権化(スーパーノヴァ)


 轟音と共に血で濡れた石畳の上を亀裂が走る。咎を中心にして、広がった亀裂はやがて、奴を中心に崩落する。


 その先に広がっているのは人が犯し続けた罪の証。


 整然と立ち並ぶ墓標は百を容易く超える。


 何メートルも落ちた先にあった墓場は、ある特定の人物達のみをその下に飲み込んでいる。


 なぁ、咎よ、お前ならわかるだろ?コレが何の墓なのかがよ。


 バキィ!と腕輪が砕ける。


 空気の振動がヒシヒシと伝わってくる。このプレッシャー、この魔力、触れたな。


「人の罪に触れたなァッ!」


  興奮が止まらない!この力が本物!人が作り上げた最高の罪!


 咎は飛び上がり、天に手を突き出した。


 直後、天から巨大な剣が飛来する。


『天上剣 星砕き』


 飛来したその巨大な一振りは、咎が手をひろげると四つに分裂、更に前になぞると、合計十六本の剣に変貌する其々が咎の身の丈ほどの大きさを持ち、咎の意のままに空を闊歩する。


 咎は前に突き出した腕を一度下ろすと、半壊した王城に、その手を差し出した。


 瞬間。


 ギュンッ!ドゴォ!!!


 十六本が同時に王城を突き破り、王城は跡形もなく崩れ去っていった。


「最早人が贖いきれぬほどの罪を背負ってしまった。これより、この世界の浄化を始める」

「あーぁそうしようそうしよう。だが、それをするのは俺の役目だ」

「なに…?ぐぅっ!」


 俺は背後から小手を突き立てた。途端、小手に刻まれた紋様が疼き出し、光を灯す。


 始まった、スキルドレインが起動する。


 寄越せ、寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ!


「お前の全てを寄越せぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」


 咎の体がグッと仰け反り、苦しそうにのたうち回るのを無視して更に突き立てる。首に腕を掛け、もっと奥へ、小手が食い込んでいく。


 入ってくるぅ、入ってくるゾォォおおぉ!!


『心眼、刹那の一撃、刹那の連撃、ウェポンマスター、練気、覇気、魔力吸収、魔ノ手、限定解除、限界突破、練気解放、高速練気、暗唱、魔法操作、危険感知、並行回路、看破、無限魔力、断罪者の心得、鉄身、影真似…………………』


 咎の持つスキルは全て敵を殺すためのスキルばかり、そしてぇ…!


贖うその身(復讐の誓い)


 キタァ…!


 俺は用無しになった入れ物を蹴り飛ばす。すっ飛んでいく入れ物を暗黒騎士が空中で受け止めるが、その勢いは収まらず、墓標を幾つも破壊して地面に伏した。


 あー、きもちぃぃ…。


「最高の気分だぜ…」


 俺は王城を貫いた一六本の剣を呼び戻し、俺を見上げて呆然と立ち尽くす兵士達に振り下ろした。


 轟音とと爆音ともつかない音が響き渡ると同時に、王都はますます崩れていく。俺がそれを繰り返すうちに、王都は完全な窪地に変化し、一面を瓦礫と墓標に塗り替えて俺は一息ついた。


「ふぅ…いい眺めだなぁおい。もう誰も俺に逆らえねえ、俺が最高の一人、最高の神になったんだ」


 あー、ホントにたまんねえ…。


 たまんねえのによぉ…。


「なぁんかつまんねえんだよなぁ…。やっぱ、やっちゃいますか、世界リセット。どーせ俺に意見する奴なんていねえんだし」


 独り言のつもりで呟いた言葉は、思わぬ反論を受ける。


「コレが咎の力かよ、思ったより大したことねえな。咎が持ってた方が遥かに強かったぜ」

「あぁ?」


 背後に目をやる。


 下の様子を見ながら悠々と闊歩する魔王がいた。


 こいつは、俺が何をしたのかわかってねえのか?


「いーや、わかってるさ、俺も『観察眼』は持ってる。だがそれをやるには二、三日遅かったな」

「…どういう意味だ?」

「いーや、わかんねえならいいさ。それに、咎の役がお前に移ったって言うんなら、俺はお前を殺すだけだ」


『魔ノ手:魔法装着・豪炎エンチャント・フィグマ


 炎が渦を巻いて腕に纏わりつく。炎の小手を携えて、魔王は一直線に突っ込んでくる。


「ふっ…!」

「!!」


 速い…!


 俺が目で追えないだと!


「オラオラどぉしたぁっ!」

「ちぃぃ!!」


 同じ『魔ノ手』で対抗する。大きく振り抜かれた拳を受け流す。魔王は空中に魔力場を作り出しそこに拳を打ちつける。


 ゴォゥ!!


 爆発…!


 魔法装着の効果か!


 一度飛び退く。


 調子に乗りやがって。


『天上剣』を手繰り、『並行回路(パラレルワード)』で全ての剣に同時に指示を飛ばす。バラバラに飛散していく『天上剣』に、流石の魔王も焦りの色が見える。


 さーて、何処まで耐えられるかな?


『並行回路』のお陰で、奴の動きに対して複数の剣を容易に動かせる。だが、それでも魔王は俺を睨み続ける。


 いくら『魔ノ手』で筋力の強化をしたところで、反応した先を潰しちまえばこっちのもんだ。徐々に徐々に増えていく傷に、ニヤリと口が歪む。


 だが、その瞬間に魔王が俺を睨みつけた。距離があるというのに、明確な殺気が俺に突き刺さる。ゾク…、と背筋に悪寒が走り、『危機感知』が警鐘を大きく打ち鳴らした。


 こいつ…!


 俺は更に『天上剣』の速度を上げる。


 俺が一番強えんだぞ。


 俺がこの世界の王なんだぞ。


「なんだその眼はよぉッ!!!」


 全方向からの一斉射出!もう避けられねえ!


「ホァア!」

『脳天踵割り』


 衝撃。


 ぐわん、と視界が歪んだあと、俺の身体が風を切る。


 な…に…?


 上手く頭が回らねえ…!辛うじて目が捉えたのは、両手を広げ、高速で落ちてくる軍士の姿だった。


 こいつ…!


『エクステンドネット』

「っ?!」


 地下墓地に落ちる前に地面同士で結ばれた巨大な網に受け止められ、グィ!と身体が沈む。


 今度はなんだ…!


 ギリギリと音を立てて伸びきったネットは、限界を迎えた所で勢い良く俺を射出した。降ってくるよりも速い!


 そして俺は思い出した。


 軍士が落ちてくる…!


鷹爪襲撃(コンドルダイブ)

「ゴブァッ!!!」


 痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛えいてえイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェイテェぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!


 俺の腹に軍士の鋭い蹴りが突き刺さる。軍士はそのままフワリと身体を浮かべ、身体を翻す。


 穴が…!穴が空いた!うぁあああああああああ!!!


 落ちていく身体に受け身を取ることもせず、俺は地面に激突した。


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