3/4
言葉を忘れた詩人の『哀しみ』
妻が倒れた
脳の病気らしい
後遺症
人の顔を憶えられないという
私は喉から内臓がぶち撒けられるような
そんな焼けただれた感情を抱いた
桃を扱うように接していたエリーゼのことも
忘れたらしい
言葉を忘れるよりよくない
叫んだ
子どものエリーゼの方が言葉をよく知っている
今
私は何を感じて
どんな言葉を発するべきか
無力だ
とてつもなく無力だ
私はエリーゼの声に震えて
涙を流すしかなかった
父である私は感情の言葉を
妻は人の顔を
忘れてしまったのだから
この時の感情は……知りたくないな
エリーゼは絵を描いていた
帽子を被った詩人の私と
手をつなぐ子どもの姿
そして真っ黒に塗りつぶされたもう一人
「あんなのママじゃない」
壊れた家族に『喜び』は来ない
私は今の心境に近い詩を
引き出しから探した
◇
『哀しい君』
葬式帰りの君
亡くなった友から貼られた
花柄の絆創膏に込められた祈り
たとえ深く『哀しい』夜に怯えていても
傷口は塞がるものなのさ
友は永遠に心のなかにある
明日を信じて生きよう
ほら、泣き顔に太陽の光が散らばった
◇
過去の詩を見て
『哀しみ』を思い出した
今までの詩のなかに
言葉を浮かべるヒントがある
待っていてくれ
妻よ、エリーゼよ
2人の顔を穏やかなものに戻したい
そのためにやるべきことがあるのだ
詩人だ
私は詩人でしかない
言葉を思い出さねば
何の役にもなれんのだ
待っていてくれ




