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言葉を忘れた詩人の『怒り』
買い物に出かけた先で
娘のエリーゼが転けた
荷馬車が停まる
轢かれてしまうところだった
心臓が破れるくらい大きく鳴り響く
「大丈夫か、エリーゼ!」
大粒の涙で膝小僧の傷を訴えるエリーゼに
鳴り響く御者の汚い声
遅れたら50リリィの損失だと言う
リンゴ1個と娘の命
天秤にかけたのか
頭の中で神経がピリついた
全身の毛が逆立った気がする
殴ったらこの感情は収まるだろうか
殺したらこの感情は収まるだろうか
「パパ、怒らないで。私が悪いから」
エリーゼが化け物を見たような顔で
私のことを抑えるものだから
ほんの少しだけ自分を客観視できた
なるほど
怒りとは人を人でなくしてしまうほど
凶暴にさせてしまう野生のような感情なのだな
帰って妻に話すと
「貴方は何時でも貴方よ」
そう言って紅茶を淹れてくれた
星の瞬きと共に眠るエリーゼに布団を被せて
本来なら野生が闊歩する夜に
暖炉が火と薪を弾く音が響いてる
その横で編み物をする妻
エリーゼが寝返りを打つ
私は詩人の端くれ
この瞬間を詩にしなくて何になる
◇
荷馬車の前ではリンゴ1個の命
選択肢のなかに殴り殺すがあった私
獣のような目に怯えたエリーゼが
止めてくれなかったら『怒り』に喰われていた
今は夜
獣が闊歩する暗闇を仕切る部屋のなか
暖炉の灯りに照らされた
妻とエリーゼのために
私は人間であり続けたい
◇




