言葉を忘れた詩人の『喜び』
流行り病
三日三晩寝込んでいたらしい
後遺症
感情を表す言葉を忘れた
私は詩人だったらしい
だからか、頭の中がグルルと鳴った
言葉を忘れたら
詩人ではいられない
そのことが何だかとても、すごく
抉られた気がした
身体の何処かを鋭利なナイフで
今すぐひと言で表せそうな言葉が
浮かんでこない
私が咳き込むとエリーゼが背中を撫でた
紅葉のような小さな手
狸のようなふっくらした顔
小動物のような娘
自然と口角が上がった
妻がリンゴを剥いてくれた
果汁が甘く喉を潤す音コクリ
エリーゼが「パパ」と呼ぶ
喉仏が震えた
鼻頭をツーンと刺激する声
溢れる涙
私は感情を失っていない
うまく言葉にできないだけだ
こんなにも
こんなにも
破裂しそうな感情が
身体の中に溢れていて
言葉にしない詩人など
詩人ではない
妻とエリーゼ
私は2人に訊いた
このときの感情を表す言葉を
「それね、喜びっていうんだよ!」
エリーゼがふやけた顔で言う
夜のような瞳に星が散りばめられている
「そうか、喜びか」
窓を見た
差し込む光がエリーゼと妻を照らす
ステンドグラスの天使のようだ
そうか、喜びというのは
こんなにもあたたかく
こんなにも無防備に身を委ねられるものなのだな
ずっとずっと
続きますように
言葉を忘れたとはいえ
詩人の端くれ
妻とエリーゼのための言葉をここに記す
◇
紅葉の手
リンゴ剥く妻の手
ああ、私の天使らよ
窓際の光も神の抱擁
夜のざわめきも
エリーゼの星に煌めいて
『喜び』満ち溢れますように
◇




