言葉を忘れた詩人の『楽しみ』
数々の詩を漁った
感情の言葉を辿った
クサく食えたものではない詩も
甘ったるく喉を通りづらい詩も
ひと通り読み進めた
病気を患う前の私の感情は
こんなにも生々しく
こんなにも気持ち悪いほど
言葉のチカラを信じていたのだな
誰かに通じるのだと
誰かに伝わるのだと
痛々しくも感じる
しかし確かに過去の詩は私の生きた感情であった
私は詩人
詩人であらなければならない
言葉のチカラによって
妻の記憶とエリーゼの心を救わなければ
私は過去の詩を継ぎ接ぎにして
妻とエリーゼに語った
言葉は上手く練れていたようで
2人とも気に入ってくれたが
「パパらしくないよ」
エリーゼは鼻をつまんで
パタパタと紅葉の手を振った
妻は私の詩を褒めたがソレだけだ
瞳に波紋をつくるような詩ではなかったらしい
私は詩人だ
詩人でなくてはならない
言葉のチカラでなくては
言葉によってしか私は
私は何も癒せなかったのだから
無力さに全身の力が抜けた
目の前に果物ナイフが見えた
このまま2人の介護を続けたらエリーゼが倒れる
(……)
ナイフを手に取り
眺めていた
このときの感情は本当に言葉にならなかった
「パパ、リンゴ切れるの?」
「……え?」
エリーゼがこちらを見ている
夜に輝く星々の煌めき
エリーゼの瞳の中にリンゴが映る
真っ赤に燃える太陽の様だった
そうか
エリーゼの瞳は夜じゃなくて宇宙なんだなぁ
そんなことを発見しては
くだらないと思いつつリンゴを切った
「いてっ!」
ついでに手も切った
私が傷口を咥えていると妻が
「大丈夫、貴方」
そう言って指に絆創膏を貼ってくれた
「思い出したのか」
「ええ、思い出したわ」
「ママだ! ママがママに戻った!」
エリーゼの喜びの声で
今までの感情という感情の言葉が蘇った
私は詩人だ
詩人でなくてはならない
……しかし、その前に1人の人間であり
エリーゼの父親であること
そのことを忘れてはいけないし
言葉を忘れている間もソレは忘れていなかった
なんとも
私というものは
本当に
私というものは
つくづく
生きる『楽しみ』に包まれた人生に
恵まれた男だ
◇
娘が描く絵に3人
詩人の私は帽子の大きなパパで
妻はリンゴの皮を宙に浮かべて笑ってる
エリーゼは大きな口開けて
きっと踊っているのね
いや歌っているんだ
妻と話しては
暖炉がパチッと笑う
『楽しい』夜
おわり




