聖女(ヒロイン)の告白
とあるパーティーにて一人の令嬢が婚約破棄を告げられた。
会場内はざわめきにより覆い尽くされる。
婚約破棄を告げる者と告げられる者共にこの国では有名な二人であったからだ。
婚約破棄を告げるのはこの国の第一王子ミカエル殿下。
婚約破棄を告げられているのはフォークス公爵家グレイシア令嬢であった。
この日、二人は婚約を破棄された。
しかし、それだけでは終わらなかった。
パーティー会場で婚約破棄とされた理由で裁かれる事となったグレイシア令嬢に下された刑は断頭の刑であった。
数日後、民衆に晒されるように現れるグレイシア令嬢。
罪人に許された最後の言葉を聞きとげようと皆が静まり返る。
「殿下、共に歩む約束を守れず申し訳ございません」
罪人が語る言葉は罵る言葉でも罵倒する言葉でもなかった。
そして誰もが令嬢の姿に戸惑う。
木枠に差し込まれた令嬢の顔は笑顔のままであった。
本当に令嬢は悪女なのかと囁かれる中でミカエル王子は立ち上がり手を上げる。
それは執行の合図であった。
執行人により綱が切られ大きな刃が落とされた。
本来なら籠の中に入るはずの生首が籠から転げ落ち、ミカエル殿下と聖女がいる方を見つめていた。
それはまるで何かを訴えかけようとしているかのようであった。
これは、この断罪に関わりのある者が語る告白の話である。
私は小野女 静と申します。
あれは受講帰りの事でした。
突然に道路が光だし視界が奪われると、目の前に現れたのは知らない街並みでした。
古めかしい町並み。
まるでゲームの中に引き込まれたかのような世界。
普段からこういった小説を読んでいた私は気付きました。
これは異世界転生なのではと。
これは、異世界に転生した私が侵した過ちの告白です。
街の人達は私の事を歩みを止めて驚いていました。
それもそうでしょう。
見たこともない服装の者が突然に目の前に現れたのだから。
この状況、どうしようかな・・・
と、頭を悩ませていたところ、一人の子供が私の事を指差して「聖女様だ!」と叫びました。
「えっ!?」
驚きました。
まさか聖女と言われるなんて。
私なんて普通者の人間。
聖女などではありません。
ですから、否定しようとしたのです。
ですが、この子の言葉を皮切りに周囲の人達も皆が私の事を「聖女様」と呼び初めてしまったのです。
もう収拾がつかない。
どうしたら良いものかとしどろもどろしていると、白い衣を着た女性が現れた。
「聖女様、突然の事で困惑されておられるのではないでしょうか?もし、宜しければ直ぐそこに私共がおります修道所がございますので、そこでお体を休められてはどうでしょうか?」
ここでも「いや、聖女では」と否定したのです。
ですが、相手も引いて下さらず埒があかない。
人も徐々に集まり困り果てた私は女性と共に修道所へと向かうことにしたのです。
修道所では木製の軋む椅子に座りぬるい水を頂く事になりました。
食事は固いパンと薄いスープ。
修道士にとって最高のもてなしだと聞くが文明の落差に嘆きたくなりました。
修道所にある硬いベッドを借りる事になったのてすが、
あまりの固さに眠る事が出来ませんでした。
朝早く、私が眠る部屋の戸が叩かれます。
どうしたんだろう?
戸を開け話を聞くと王宮に来て欲しいと頼まれました。
王宮がどんなところか解りません。
ですが、もしかしたら質素な食事、固いベッドから卒業出来るのではと思い、直ぐに返事を致しました。
修道所の表には一台の馬車が止まっていました。
馬車など生まれて初めてでした。
胸を踊らせ馬車に乗ったのですが、馬車の揺れがこんなにもお尻に響くものとは思いませんでした。
王宮についた頃には吐き気と臀部の痛みにふらつきながら馬車を降りました。
「大丈夫ですか聖女様?」
「はい?」
信じられませんでした。
目の前に王子様が現れたのです。
「聖女様、よく来て頂きました。私はこの国の第一王子のミカエルと申します」
「は、初めまして、静です」
「シズカ、良い名ですね。ここからは私が我が父のところへ案内致しましょう」
王子様と思われる人物は本物の王子でした。
ハッキリ言って一目惚れしてしまいました。
こんな完璧な男性など今まで見たこともない。
案内の最中も色々と話し掛けられましたが会話の内容は殆ど覚えてません。
彼の顔を見るので忙しかったのです。
「聖女よ、よく来てくれた。まずはソナタの力を試させて貰いたい」
王と思える男の指示によって白い衣を来た男性が丸い水晶玉を私の前に持ってきました。
指示通り手を翳す。
すると水晶は神々しく輝きだしたのです。
「「おお!!」」
一斉に驚きの声が聞こえるも何が何だか解りません。
「すまんな、水晶が輝いた事で言い伝えは真であった事が解った。これからは王宮でそなたの事を守らせて頂きたい」
それからの生活は天国のようでした。
豪勢な料理。
お姫様のようなフカフカのベッド。
美男子とのお茶の時間。
全てが幸せに感じられていた。
「えっ!学園ですか?」
「ああ、シズカはこの国の事を何も知らないだろ。父上が特例で学園に通えるよう手配してくれてね」
まさか、この世界に来てまで勉強など勘弁して頂きたい。
お断りしようしましたがミカエル殿下が傍で助けてくれると言う。
しかも送迎まで一緒。
もう、断る訳がない。
異世界万歳!何て素晴らしい世界なのだと思いました。
が、学園に通うと私のテンションは急下降しました。
「シズカ、彼女は婚約者のグレイシアだ。」
「グレイシアと申します。聖女様の事は殿下よりお手紙にて聞いておりました。知らない人ばかりで大変でしょうが、遠慮なく色々聞いて下さい」
婚約者がいるとは思ってませんでした。
しかも婚約者のグレイシア様は何とも美しく私などが敵う相手ではありませんでした。
私の恋は終わった。
ですが、次の瞬間、頭の中であるワードが浮かび上がったのです。
『悪役令嬢』
彼女は悪役令嬢なのでは。
そして、私とミカエル殿下は真実の愛で政略的な婚約者を断罪して婚約破棄をするのでは。
私はグレイシア様が嫌がらせをしてくるのを待ちました。
しかし、嫌がらせを受けるも他の令嬢からで寧ろグレイシア様に助けられてしまいました。
グレイシア様は悪役令嬢ではない?
そうなると、私の恋は・・・
それでは困る。
苛めにこさせるために殿下と常に一緒にいることにしました。
休日の日も無理を言って。
けど、グレイシア様は悲しそうな顔をされるだけで苛めをしてくる事はありませんでした。
けれど、噂は流れました。
ですがそれだけでは薄すぎる。
それだけではミカエル様と結ばれる事が出来ない。
だから・・・私は・・・自作自演をしたのです。
自ら教科書を切り刻み、自ら噴水に飛び込みました。
前々から扱いやすそうなミカエル様の側近を証人としたことでミカエル様はグレイシア様も漸く重い腰を上げて下さいました。
すると人は不思議なもので、ただ階段から足を滑らせ転んだだけだったのだけど、何故かグレイシア様が突き落とした事になってました。
パーティーでミカエル様がグレイシア様との婚約破棄を宣言した。
私の思惑通りとなりました。
これでミカエル様はフリー。
今度は私がミカエル様と婚約する番。
私は浮かれていた。
幸せでした。
この後の裁判でグレイシア様が処刑と判決されるまでは。
グレイシア様を処刑?
こんな事で?
グレイシア様は何もしてないのに?
全ては私が彼女に冤罪をかけたから・・・
私なら彼女が無実だと言える。
でも、それを言えば私が処刑されてしまうのでは?
私は私を守るため彼女が処刑されるのを受け入れました。
人の首が転がる。
私が知っている人の首が。
私が冤罪をかけた方の首が。
首だけとなった方と目と目が合う。
忘れる事など出来ない。
彼女は私の被害者なのだから。
瞼を閉ざそうとすると彼女の生首が浮かびあがってくる。
この日より私は眠ることが出来なくなりました。
不眠が続くなか、私の嘘が徐々に明るみになってきたのです。
数日後には檻の中で眠れぬ日々を過ごす事になりました。
「君は・・・嘘だったのか・・・」
久しぶりにあったミカエル様の目には一切の輝きがありませんでした。
私が転べば直ぐに『大丈夫かい』と心配してくれたミカエル様でしたが、痩せこけ不眠で深いクマをこしらえた私の姿を見ても心配する素振りもありませんでした。
「ミカエル様を私のものにしたかった・・・でも、まさかあんな事で処刑される何て思いもしなかったの」
「ははは、私は何て馬鹿なんだ。一番大事な婚約者の声を信じず、他のものの声しか信じなかった。私がもう少しでも信じていれば、私がもう少し調べていれば彼女は死なずにすんだのに・・・私は何て馬鹿なのだ」
真実を知った彼は剣を抜き一歩ずつ近付いてきた。
私も彼が来るのを待った。
疲れてしまった。
生きていくのが。
もう楽になりたい。
彼に握られた剣が私の腹を貫く。
これで私はゆっくり眠る事が出来る。
が、私は生きていた?
次の瞬間、私は光に包まれていた。
生暖かい光は地獄には見えなかった。
人を陥れたのに天国に来れるはずがないのに。
『人の子よ』
何処か声が聞こえる。
耳を澄ましてみた。
『人の子よ、時は戻された。正しき選択をするのだ』
誰もいないのに声が聞こえる。
何処か懐かしい声が。
そうだ、私がこの世界に着た時に一度だけこの声を聞いていた事を思い出す。
「時が戻ったってどういう事?正しき選択って何よ!」
声の主が私の問いに応える事はなかった。
光が徐々に弱まる。
視界から見えて来たのは何処か懐かしい街の中であった。
『聖女様だ!』
声の主の『時が戻された』の意味が解った。
しかも戻されたという事は声の主ではなく別の人物が戻したということ。
再び白い衣を来た修道士が話し掛けてきた。
修道士に導かれるかのように着いていき、修道院で一晩を過ごした。
前回と同じ。
ここまでは。
人とは不思議なもの。
『やり直せる』と解った途端、私の不眠症は解消されました。
まるでゲームのリセットボタンが押されたかのように。
だからでしょうか。
固いベッドでも今度はぐっすり眠る事が出来ました。
次の日、起きたのが昼過ぎとなるほどに。
王宮からの迎えもありませんでしたので。
『正しき選択』
光に包まれていた時に聞こえた言葉を思いだし、思わずクスッと笑ってしまった。
もう何日も修道院で寝泊りをしている。
されど王宮からも迎えが来ることはなかった。
正しき選択をしようにも私には選択する事さえ出来なくなっていたのですから。
半ば修道所で暮らす人生だと諦めていた頃、一台の馬車が訪れたのです
王家の馬車ではありません。
「何方が来られたのですか?」
「フォークス公爵家の方です」
フォークス公爵家・・・
私が処刑したグレイシア様のご実家でした。
これは復讐。
今度は私が殺される。
私は恐怖に震えながら歩みを進めた。
因果応報なのだから。
私は刃向かうことなく従者の言われるがままに着いて行きました。
屋敷では憎しみの目で迎えられた。
何人かが記憶がある事が解った。
扉が開く。
公爵閣下がいた。
牢の中でも聞こえてきた。
公爵が謀反を起こし王宮に攻めいったと。
その人物が私の目の前にいる。
瞳を見て記憶があることが解った。
だからこそ恐怖で足が震える。
しかし、次に公爵閣下から告げられた言葉は私が予想もしない言葉であった。
「そなたを我が公爵家の養女に迎える事になった」
どういう事?
娘を殺した者をどうして養女に?
理由は解らないが私は再び豪勢な料理、フカフカなベッドで暮らせるようになった。
しかし、前回とは違い幸せには感じる事は出来ない。
差別も迫害も受けていない。
ただ、周囲にいる者達から感じる殺意の目が、いつ実行されるのかという恐怖を感じていた。
私に選択肢などない。
間違った選択一つで死が待ち受けているのだから。
今回は聖女の告白でした。
彼女は魔がさしただけでごく普通の女性です。
ですから巻き戻った世界ではあまり不幸にはしたくありませんでした。
何故に公爵が養女に迎えいれたのかは今後の話にて。
次回は公爵の告白となります。




