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全ては正しき国のために(呪われた公爵令嬢は時戻り後も断罪を望みます)  作者: ふぁぶにーる


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騎士団長の息子の告白

とあるパーティーにて一人の令嬢が婚約破棄を告げられた。

会場内はざわめきにより覆い尽くされる。

婚約破棄を告げる者と告げられる者共にこの国では有名な二人であったからだ。

婚約破棄を告げるのはこの国の第一王子ミカエル殿下。

婚約破棄を告げられているのはフォークス公爵家グレイシア令嬢であった。

この日、二人は婚約を破棄された。






しかし、それだけでは終わらなかった。


パーティー会場で婚約破棄とされた理由で裁かれる事となったグレイシア令嬢に下された刑は断頭の刑であった。


数日後、民衆に晒されるように現れるグレイシア令嬢。

罪人に許された最後の言葉を聞きとげようと皆が静まり返る。


「殿下、共に歩む約束を守れず申し訳ございません」


罪人が語る言葉は罵る言葉でも罵倒する言葉でもなかった。

そして誰もが令嬢の姿に戸惑う。

木枠に差し込まれた令嬢の顔は笑顔のままであった。


本当に令嬢は悪女なのかと囁かれる中でミカエル王子は立ち上がり手を上げる。

それは執行の合図であった。

執行人により綱が切られ大きな刃が落とされた。


本来なら籠の中に入るはずの生首が籠から転げ落ち、ミカエル殿下と聖女がいる方を見つめていた。

それはまるで何かを訴えかけようとしているかのようであった。


これは、この断罪に関わりのある者が語る告白の話である。

俺の名はアレン・バーサス。

バーサス伯爵の三男。

我が父は王宮騎士団の団長を務めている。

兄も騎士として務めるなどバーサス伯爵家は騎士道を誇る一族であった。

これは、そんな騎士道を歪めてしまった愚かな男の手記だ。




バーサス家には三つの家訓がある。


『弱きも者を守るべし』

『力に溺れるべらかず』

『真実を見誤るな』


訓練所に掲げられている家訓。

毎日のように語られる言葉であった。

俺の好きな言葉。

俺が目標としていた言葉。

この言葉を目標に鍛練してきた。

だが、おれはこの言葉を裏切ってしまった。


ミカエル殿下が学園に通う事となり学園で殿下を守る側近として選ばれた。

父の名も影響したかもしれない。

だがそれだけではないはずだ。

日々の鍛練が認められたのだと己を誇る事ができた。

父からも祝われた。

祝いにと父より授かった剣。

生涯の宝が出来た。




学園に通う。

学園で殿下を出迎える。

馬車からは殿下だけでなく婚約者の令嬢もいた。

グレイシア公爵令嬢。

美しく大人しそうな令嬢であった。

この時の俺は思った。

殿下だけではなく令嬢も守らなくてはと。

確かに思ったのだ。

翌年に聖女が学園に通う事とになるまでは。


『聖女様は異世界から来られこの世界の事を学ぶべく学園に通う事となった。学園では孤独とならないよう父上より傍にいるよう頼まれたのでそなたらも宜しく頼む』


殿下から頼まれた。

一人でこの世界に訪れた聖女。

彼女は一人も知りうる者がいない。

誰かが守ってやらねば・・・

この弱き者を・・・

バーサス家の家訓に従い俺は令嬢を守る事にした。


聖女はこの世界の事を何も知らない。

異世界から来たのだから無知である事は仕方がない事だ。

だが、それを許せぬ者が俺が目を離した隙に聖女を苛めていた。

直ぐ様、駆け付け聖女を守るが苛めはなかなか無くならなかった。

すると、出所は解らないが一つの噂が流れてきた。


『グレイシア様が聖女を苛めるよう指示している』


あり得ない。

聖女が学園に通うようになり、グレイシア様が傍におられる事はなくなったが、それまではグレイシア様も常に傍におられた。

だからこそ解る。

グレイシア様がそのような事をされる人物ではないことを。

なのに、この時の俺は酔いしれてしまっていた。

弱き者を守る事に。

己の力で苛めていた者を蹴散らす事に。


教室に聖女を迎えに行く。

この日は殿下が所用のため俺だけであった。

教室に入ると俯いて佇む聖女がいた。

聖女の手には一冊の教科書が握られていた。

教科書を見るとズタズタに刻まれていた。


「どうしたんだ、この教科書は?」


「グレイシア様が・・・」


赦せない。

聖女は孤独で弱き者だ。

その弱き者を苛めるグレイシア嬢が赦せなかった。

殿下に告げるも「グレイシアがそのような事をするはずもなかろう」と、まともに受け入れて下されなかった。

何と己は役立たずなのだろうか。

グレイシア嬢を諌める事が出来ない。

そして、次なる事件が起きた。

びしょ濡れになった聖女が現れる。

事情を聞くと『グレイシア様が・・・』と語る聖女。

なんと言う卑怯者なのだ。

もう赦せない。

強めに殿下へ抗議した。

そのかいあり、殿下も重い腰を上げて下さった。


しかし、しかしだ。

聖女が階段から突き落とされる事件が起きた。

階段の下で震える聖女。

目撃者がグレイシア様の姿を見たと言う。

これは明らかに殺人未遂だ。

苛めの域を越えた所業。

そのような者が将来の王妃になるなどあってはならない。

我々はもう公爵令嬢の行いを許す事など出来ない。


着々とグレイシア令嬢を断罪する計画が固められていった。

何よりも心強かったのが、公爵令嬢の弟であるカミュ令息が協力してくれた。

おそらく家でも横柄な態度で悩まされていたのだろう。


パーティーで断罪が行れる。

罪を伝える王太子に歩みよろうとしたグレーシア令嬢を見て直ぐに体が反応した。

この状況で近付かせては危険だ。

俺は素早くグレイシア嬢の腕を取り床に組倒した。


ボキッ!


鈍い音がした。

何かが折れる音であった。

だが、俺は力を緩める事はしなかった。

弱き者を守るため。


断罪は無事に成し遂げる事が出来た。

我々の正義は勝ったのだ。

裁判でも我々の正義が認められた。

だが、まさか処刑とまでなるとは思わなかった。

せめて貴族籍剥奪くらいだろうと。

少し厳し過ぎるのでは・・・


処刑の日にグレイシア嬢が姿を現す。

片腕は動いていない。

その姿に胸の奥が痛い。

何故だ?

俺は正しき事をしたはず。

なのに何故に彼女の姿を見て罪悪感を憶えなくてはならない?

その答えは処刑の数日後に明らかとなった。




ある女性の手記とグレイシア嬢の日記により断罪の真実が表面に表れ始めた。

供述の強制、アリバイと全てが断罪を覆す内容。

それからは芋づる式に供述が覆され、教科書が傷つけられた日や聖女が噴水に落とされた日のアリバイまで証明されていった。

そこまで来ると俺に行き着くのも早かった。


「お前は現場を見ていたのではないのか?」


王太子殿下の問いに答えられなかった。

俺は聖女が立ち尽くす姿を見た。

しかし、グレイシア嬢が行ったところを見ていない。

ただ、俺の問いに聖女がグレイシア嬢の名前を出していた。

だから俺は・・・


『ミカエル様、聖女様の教科書がグレイシア様によってズタズタです』


『ミカエル様、聖女様がグレイシア嬢に噴水へ落とされておりました』


俺は見ていない。

でも聖女様があの時グレイシア嬢の名を出した。

だから・・・俺は・・・


〖グレイシア令嬢は無実〗


頭によぎる。

よぎる度に脂汗が止まらない。

俺は・・・俺は・・・無実の令嬢を処刑台に送ってしまった。

俺の発言が令嬢を殺してしまったのだ。

そして、あの断罪の場、あの場でグレイシア令嬢はただ無実であると歩みよろうとしていただけだったのでは?

その令嬢の腕をへし折ってしまった。


全てが明るみとなった。

聖女の虚言。

作られた証言。

ねじ曲げられた罪状。

無実の者の腕をへし折る愚かな騎士。

全て真実が語られるようになった。


バーサス家の訓練場。

目の前には家訓が飾られていた。


『弱き者を守るべし』


グレイシア様は弱き者ではなかったのか?

いつから悪しき者と思ってしまったのか?


『真実を見誤るな』


俺は見極めようとしなかった。

片方の意見を鵜呑みにしてしまった。

それが正義だと思ったから。

正義が執行出来る自身の力に自惚れてしまった。


『力に溺れるべらかず』


「はは・・・結局、俺は何一つ家訓を守れていなかったな・・・」


手元には力から頂いた剣がある。

剣を鞘から抜き剣先を己の腹に向ける。

歪んだ騎士には生きる価値などない。

勢いよく剣を腹に突き刺す。

少しずつ意識が遠退く。

訓練場に掲げられている家訓を眺めながら暗闇に落ちた。

俺は誰にも見守られることなく自宅の訓練場にて自死をした。




しかし、俺は生きている。


どういう訳か側近として選ばれる前に戻っていた。

何が起きたのか解らない。

父に相談してみる事にした。


「王家の秘宝ですか?」


「王家の秘宝に『時戻りの宝玉』というものがあるらしい。もしかしたら、今回それが使われたのではないだろうか」


王家の秘宝。

誰が使われたのかは解らないが俺は過去に戻る事が出来た。

過ちを諭す許しを得られたのだ。

今回、側近の話が来ても断るつもりでいたのだが、その話しもなかった。

どういう事だ?

もしかしたら、俺だけでないのかもしれない。

他にも記憶も持ったまま時が戻された者がいるのかもしれない。


学園に通うようになりミカエル殿下を見掛ける。

ミカエル殿下の側に聖女はいなかった。

歴史が変わっている。

最も変わっているのが聖女が公爵家の養女となられている事だ。

何故に己の娘を死へと追いやった聖女を養女にされたのだ?

何が起きているのか解らない。

だが、やるべき事は一つであった。


「申し訳なかった」


グレイシア様に謝罪した。

グレイシア様に時戻り前の記憶があるかは解らない。

それでも、俺は己の罪を許すことが出来ず謝罪せずにはいられなかった。


「そうなんですね。アレン様もご記憶があられるのですね」


グレイシア様にも記憶があった。


「今度の人生ではグレイシア様を守らせて頂けないか」


グレイシア様は少し黙り込む。

少し困ったような表情をすると穏やかな笑顔で私に告げた。


「私をお守りしても何の意味もございません。今生では、正しきものを間違えず騎士として真っ直ぐ生きて下さい」


「ですが、またグレイシア様が無実の罪に問われるかもしれません」


「私の冤罪など正しき国にとって些細な事です」


冤罪が些細な事?

自身の死を笑顔で些細な事と言うグレイシア令嬢の事が解らない。

自身の幸せよりも大事な正しき国とは何の事を示しているのだろうか。


だが、そのような事などどうでも良い。

今生では父上を目指す事をしない。

今生ではグレイシア嬢をお守りする事を誓う。

これは俺の贖罪だ。

今回は殿下の側近である騎士団長の息子の告白でした。


実は彼の告白はもう少し後だったのですが、全ての話が完成したら重要性から考えて今回となりました。


次回はヒロインの告白となります。

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