↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界聖女の現代グルメ ~万物を食べ物に変えるスキルで世界平和を目指します~  作者: 霧島樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/62

第59話 一難去ってまた一難

 深呼吸して、目をつぶる。

 ちょっとショックなことが多くて頭が混乱してきたから、いったん状況を整理しよう。


 私は王国に非公表ながら聖女と認めてもらい、帝国領内にある聖教国へ、正式な王国の使者として向かわせてもらう予定だった。

 しかしジャンさん曰く、王国からの使者として出向くのは色々と差し障りがあるし、ぶっちゃけ存在自体が邪魔なので首を刎ねられかけた……というのが今の私の現状。


「…………うん」


 なんだか本当に、散々な目に遭ってるな……私。

 何か美味しいものを食べて回復したい。精神的に。


「我々の事情はおわかりいただけましたか?」


 ジャンさんの言葉に、遠い目で脳内の神食品リストを眺めていた私はハッとした。

 現実逃避している場合じゃない。今の私にできることをしなければ。


「わかりました。丁寧にご説明ありがとうございます。では最後に私から一つ、お願いがあるのですが」


「なんでしょう?」


「自由都市連合まで送っていただけませんか? ここからも街は見えますが、あまりにも遠すぎます」


 馬車だとしてもすぐに着くとは思えない距離だ。

 歩きで向かうとなると、どれだけの時間が掛かるかわからない。


「それはできかねます」


「……なぜでしょうか?」


 物理的に首が刎ねられなかった私は一応、偽者ではなく本物の聖女として認識されているはずだ。

 であれば、それぐらいのことはしてくれても良いような気がするんだけど。


「見た目ではわかりにくいかもしれませんが、ここから先は砂漠になります。サンドワームが出現するため、直進できません」


「え……」


 改めて、自由都市連合が見える方角の地面を確認する。

 言われてみれば確かに、少し先から地面が砂地に変わっていた。


「で、であれば、遠回りして送っていただくことは……?」


「申し訳ありませんが、我々は他に任務がありますので。それに、馬の餌も残り心もとないですから。リシア様は馬の固形飼料を生み出すことはできないでしょう?」


「うっ……」


 それは確かに、ジャンさんの言う通りだ。

 というより、私はそもそも馬の固形飼料どころか、人間が食べられるものも未だに硬い白パンか茶色パンしか出せない。


 ここ最近色々と試した結果、また通常スキルが進化したんだけど、それは『一滴だけでも元になる水があれば、そこからほぼ無尽蔵に水を増やせる』というもので、食べ物ではないし……。


「…………わかりました。自由都市連合には、歩いていきます」


 送ってもらえる妙案が出てこないので、ここは諦める他ない。


「ちなみにですが、この砂漠を遠回りして街に行く場合って、徒歩だとどれぐらい掛かるかわかります……?」


「徒歩はわかりませんが、馬車だと一日ほど掛かります」


「一日……」


 ということは、徒歩だと三日から四日ぐらいか。

 うーん……悩む。


 サンドワームは砂漠に生息する巨大なミミズみたいな魔物だ。

 女神様の加護がある私にとっては特別、危険な存在じゃないと思うんだけど……丸呑みされた後、地面に潜られたりしたらどうなるんだろう?


 セルジュくんの氷漬けで呼吸できなくても大丈夫だった私だから、命の心配はしていない。ただ森で遭難したときみたく、また服がボロボロになりそうな気がする。あと地中からの脱出が大変そう。


 ただサンドワームに丸呑みされなければそのリスク自体もなくって、大幅に時間を短縮できる……ってことを考えたら、やっぱりここは直進……かな?

 丸呑みはされたくないけど……でも、ただでさえ和平までどれだけ時間が掛かるかわからない状況になってきてるし、短縮できる道のりは短縮したほうが良いよね……丸呑みは嫌だけど。


 そんなふうに私がうんうん唸っていると、ジャンさんが申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


「……聖女様を裏切る形になってしまい、申し訳ございません。ですが、これは我々の独断ゆえ、どうか王国を恨まないでいただきたく」


「ああ、恨んだりなんかしませんよ。皆さんそれぞれ事情があるでしょうし」


 独断といっても、どう考えても上からの仕事でやってるんだろうし。

 理由を聞いた今となっては王国を恨む気もないし、命令した誰かさんにだって恨みを抱くつもりはない。


 もし機会があったら文句の一つ……いや二つ……三つぐらいは言ってやりたいけどね。あと和平とか何もかも終わって自由になったら、主犯者を探して高級料理店で美味しいごはんを奢ってもらおう。百回ぐらい。私個人として恨みはまったく抱いてないけど、ほら、相手は聖女を暗殺しようとした罪の意識があるだろうから、それを償わせてあげる感じで。


「恨んだりしないか。そう言ってもらえると俺も気持ちが楽になるな」


「レイスさんには言ってないんですけど?」


 横からいきなり割り込んできたレイスさんに、思わずツッコミを入れる。

 首を刎ねようとした張本人なのに全然、申し訳なさそうにしていないのですがこの人。


「なんだ、俺のことは恨むのか? 俺もやむを得ない事情があったんだが」


「恨みます。首を刎ねられそうになってビックリしたんですから」


「お前なら大丈夫だって確信してたんだが」


「大丈夫だから何やっても良いってわけじゃないでしょう」


 いくら無敵でも驚くものは驚くし、怖いものは怖いのだ。

 まあ怖い系はもう何度もやられてるから、そこそこ慣れてきたけど。


「それはそうだ。参ったな、聖女様に恨まれるなんぞ、気が気じゃない。どうしたら許してもらえる?」


 レイスさんがどう考えても気にしてなさそうな口調で聞いてくる。

 私が本気で言ってないことはわかっているんだろう。

 彼とはここ最近かなり顔を突き合わせて話していたおかげで、それがわかる程度の関係値はあるのだ。


「そうですね……私が王国に戻ってくる前に、例のお酒を用意しておいてください」


「あれは自由都市連合からの土産だぞ? 今からそこに向かうんだったら、いくらでも手に入るだろうに」


「王国に戻ったそのときに飲みたいので」


 私は微笑みながら答える。

 これまでの会話の流れから、レイスさんなら私の気持ちを理解してくれるはずだ。実際、彼の表情が少し和らいだのがわかった。


「……わかった。必ず用意しよう」


「お願いしますね」


 ジャンさんが咳払いをする。


「それでは我々は撤収いたします」


「はい。皆さんも任務の続き、頑張ってください」


 騎兵さんたちは馬に跨り直し、ジャンさんは馬車を引いて、来た道を戻っていく。

 レイスさんだけが最後に振り返った。

 彼は何も言わなかったが、その真剣な表情と視線で、言いたいことは伝わってくる。


 ――帝国との和平、頼んだぞ聖女様。


 たぶん、こんな感じだろう。

 私は了承の意を込めて、軽く手を振り返した。

 するとそれを見たレイスさんは満足そうに頷いて、馬を走らせる。


 私は一人、砂漠の入り口に立って、遠くに見える自由都市連合を見つめた。

 さて……直進しますか。サンドワームに出会わないことを祈りながら。




 〇




 砂漠を歩き続けて、もう丸一日。

 普通なら冒険者でもないシスターの私は、足が棒のようになって動けなくなるはずだ。

 けれど女神様の加護のおかげか、私は驚くほど消耗していなかった。


 日差しの下を歩いても体力を削られず、夜は砂の上で眠っても疲れが残らない。

 まるで魔力持ちの冒険者にでもなったみたいに、延々と歩き続けられた。


 その甲斐あってか、自由都市連合の建物群がはっきりと見える距離に迫ってきている。


 ――それにしても、見えてからが長い。

 まさか目に映っているのに徒歩で一日以上の時間が掛かるとは思わなかった。砂漠の広さ、恐るべし。


「あ……砂漠が、終わる?」


 ふと前方を見やると、数十メートル先で地面の色が変わっていることに気がついた。

 延々と続いた砂の大地が、灰色がかった硬い大地に切り替わっている。


 助かる……!

 加護のおかげで疲れてはいないけど、砂地はやっぱり歩きにくかった。

 ようやくそれから解放されると思うと、嬉しさが込み上げてくる。


 私は思わず小走りになった。

 サンドワームにも出会わなかったし、今日の私は、ツイてる。

 そう思った直後。


 砂が爆ぜた。

 地響きとともに、大地が割れ、巨大な顎が私の正面を塞ぐように突き出してきた。

 砂漠の魔物、サンドワームだ。


「ひっ……!」


 丸呑みされる、と反射的に身をすくめた。

 しかし、サンドワームは私を見つめたまま、なぜか動かない。

 そして次の瞬間、慌てたように頭を砂の中に引っ込めてしまった。


「え……?」


 理解が追いつかず、呆然と立ち尽くす。

 サンドワームが逃げた? ……なんで?


 と、思ったその時。

 背後から、ずしん、と大地を震わせる音が響いた。

 巨大な影が、私をすっぽりと飲み込むように覆う。


 恐る恐る振り向くと――そこにいたのは、巨大な鶏に似た魔物だった。

 全長は……これだけ大きいと、5メートルを超えているのではないだろうか。

 真紅のトサカを風に揺らし、黄金色の瞳でこちらを見下ろしている。


「クック、ドゥー……」


 巨大な鶏さんが、私を見ながら控えめに鳴く。

 人間どころかサンドワームも丸呑みできそうな、巨大な嘴(くちばし)。

 翼も、羽ばたけば突風どころか砂嵐を巻き起こせそうな大きさ。


 ……うん。そりゃサンドワームも逃げるよね。私も今まさに逃げたいもの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。