⑧ハードウェア
「志田 錺、恩を仇で返すとはこのことだな。」
錺は生徒会室へ緑色の腕章を返しに来ていた。
「校則には何も違反していないだろ?それよかあんた生徒会長だったのか。」
「校則に違反せずとも、倫理的に違反していることを他の生徒が認めると思うのか。貴様はのうのうと朝っぱらからこの俺に対して不敬を働きに来たようだが、こんなものが通るとでも思っているのか?」
生徒会長席に座す男は錺の渡した創設願書をじっくり眺めた。
「あぁ、思ってる。部員四人のサインと顧問のサイン、空き教室の確保、担任からのサイン。後はアンタだけだ。」
錺は胸を張って答える。
「いいやどうだか。{電子競技部}ここだ。ここが認められない。例え競技性を持つ活動をしたところで競技への参加資格、経験を持たない段階では虚偽にあたる。競輪部がサイクリングしかしないようなものだ。それに活動人数が6人以下もしくは実績の無い部活動は同好会へ降格させられる。顧問は情報科の長嶋、担任は数学科の田村か本当に運が良いな御二方が御理解のある器の大きなマヌケで。書き直せ。」
錺は生徒会室の机に転がっていたサインペンで{電子競技部}文字に波線を引く。その下の空白に新たな文字を書いた錺は「ほら。」と紙を滑らせた。
{電子遊戯部}
「貴様、話を聞いていなかったのか?」
「放課後までに三人がほぼ確実に入部する。そっちの手間が増えるだけだぞ。」
生徒会長は舌打ちをして錺を睨む。
「貴様らの様なふざけた部活に生徒会予算がしっかりと内分けられている事を知ったら、貴様らをよく思わない連中は教師以外にも出てくるだろうな。加えて顧問の長嶋教員は今年で退職されると聞いている。来年には誰も引き受けないだろうな。ともかく張り紙は今日までに剥がせ。景観を著しく害する。」
錺は放られた創設願書を手に取ると、ポケットに片手をツッコミ「うい。」と返事をして部屋を去っていった。
◇◇◇
翌日の放課後。錺と陽菜を含む電子遊戯部は、それぞれに仕えそうなデバイスを持ち寄っていた。
「ほぇー、こんな部屋貸してくれるだなぁ。」
山田がドアを開けて見渡す。その手には紙袋に入った認定堂のswitchとコントローラーがぶら下がっていた。後ろには坊主の髪が伸びてきた新田の姿も見える。
「それに、こんなハードウェアまで。」
それから山田は機械を接続する錺の手元を覗いた。
「あ、初めまして。」
流れるように山田は元弓道部の馬喰田恵へ挨拶した。
「うん、どうも。」
恵は頭をペコリと下げ、釣られて山田と新田も下げる。錺はその光景を横目にモニターの横で手を動かしていた。
「別に特別良いデバイスじゃない。中古で買ったPS5と、現在価値15万位のデスクトップゲーミングPC1台。古いゲーミングマウスとキーボードが二つずつ。モニターは長嶋先生から借りてきた情報科の物だ。」
「でも昔の良い奴だね。私のは10万位のデスクトップ。」
恵が補足をする。
「じゅ、十五万...」
陽菜はゴクリと喉を鳴らすと、その挙動を固くした。
「陽菜には俺のPS5を貸す。」
「え?私キーマウの方が、多分そのぉー」
陽菜は目を泳がしながら申し訳なさそうに遠慮する。
「PS5はキーマウに対応してる。そこにあるUSBポートで普通に動くぞ。」
「えぇ、そうなんだ。やぁはは、でも逆に良かったよぉ。15万円なんて弁償できないし。」
陽菜は安心したように頷くと、山田が後に続くように言葉を続ける。
「確かに、一番性能の良いデバイスは錺が使うべきだな。なんたってこの中で一番ゲームが上手いのは――」
「いや、性能だけで言えばPS5の処理速度はゲーミングPCに匹敵する。そして恐らく、旧型のコイツよりはPS5の方がFPS(※Frames per second.=秒間辺りの画像の数で、高い程動画が滑らかになる)が出る筈だ。」
「へぇー。」
山田は腕を組んで感心する。
「だから今のところは陽菜に使って貰うし、俺より下手だったら機種交代だ。」
「分かった!勝負だね!!」
その会話を縫って、新田が恐る恐る挙手をした。
「お、俺はノートパソコンなんだけど、大丈夫だったか?」
錺はそれにコクリと頷く。
「ノーパソでも質の良い物ならFPSは動く。特にCHRONICLEは設定から描画をかなり荒くできるからプレイできないことは無い。ただ認定堂と普通のノーパソにはディスアドバンテージがあることは否めない。」
「俺もかぁ」
山田が額に手を当て腰を反った。
「クロスプレイ出来るだけ万々歳さ。それにこのゲームは他のFPSに比べてエイムよりマクロの連携で差が生まれる。だからデバイスにも考慮したロールとキャラピックを考えてきた。勿論、エイムも必要だが微々たる差だよ。」
錺は自分にも言い聞かせるように説明した。実際にはその微々たる差がESPORTSにとっては充分な痛手となる。錺はそのことを良く知っていた。
◇◇◇
錺と箆鹿の会合から翌々日の昼。夏休み開始まで残り約一週間半。大会までは残り1ヶ月を切った。そんな7月17日。放課後のことであった。
「しまっていこう。」
鈴木陽菜の一言で全員が飛行船から一斉にダイブする。ジャンプマスターは新田が努める。キャラと役職の内分けに大した特別要素は無い。それはシンプルかつ理にかなったバランスの良い編成であった。
――{電子遊戯部キャラピック&ロールセレクト}
・ストライカー(攻撃人)
鈴木陽菜。=メインオーダー 振り向き10cm エイム時 10cm
使用キャラ→ムサシ。
スキル「神速剣」=範囲ダメージ及びスタン攻撃+方向キー入力時に高速移動(射程、移動距離ゲーム内2m)。
アルティメット(=スキルよりもクールタイムの長い大技。以下ウルトと表記)「剣神の煙道」=多数のスモークグレネードを使い道を作る。
使用デバイス→志田家のps5.キーマウ(=キーボード&マウス)
・ガーディアン(護衛者)通称タンク
新田海。(元野球部。)=アタックオーダー 振り向き15cm エイム時15.5cm
使用キャラ→フランケンシュタイン。
スキル「ネジ巻き防壁」=防弾ドームを30秒間設置。
ウルト「怪物の一撃」=高威力の範囲ダメージ&スタン砲撃を放つ。
使用デバイス→ノートパソコン.キーマウ
・メディック(衛生兵)通称ヒーラー
山田正義。 設定感度5/10
使用キャラ→ナイチンゲール1号
スキル「2号」=一定時間spを回復し続けるドローンを設置。
ウルト「3号」=生命補助装置を展開しダウンした味方を蘇生、回復できる。
使用デバイス→認定堂switch.コントローラー
・スナイパー(狙撃手)
馬喰田恵。(元弓道部。) 振り向き14cm エイム時17.5cm
使用キャラ→ワーウルフ
スキル「鼻」=一定範囲内の敵を検知し居場所と人数を特定する。
ウルト「人狼形態」=一定時間サーチ状態を断続的に維持し、足が速くなる。
使用デバイス→デスクトップpc.キーマウ
・オペレーター(操作士)
志田錺=現チームキャプテン。サブオーダー。振り向き17cm エイム時17cm
使用キャラ→ガガーリン
スキル「反重力板」=垂直方向へ浮遊させる機械を設置する。
ウルト「拘束する重力機」=敵の動きを阻害する重力発生機を投げる。
使用デバイス→デスクトップpc.キーマウ
――――――
戦場はダイヤモンド・クロニクル。
錺たちはマップ南西部「中世領域」のメインシティである大王城を囲むように点在するサブシティ帯へ降りたっていく。
「教会行く。」
陽菜は降下途中にチームから分離する。サブシティはメインシティに比べ物資量と物資ティア(物資の質、高いものをハイティアアイテムなどと呼ぶ。)が低いため広く漁る必要性があった。そのため移動手段に長けた陽菜と錺は空中で部隊から外れそれぞれ別のサブシティへ降り立つ。
「じゃあ、かじ家。」
錺は陽菜の降り立つ{教会}とは反対側のサブシティ{かじ家}に降り立った。そして新田を中心としたタンク、ヒーラー、スカウト(偵察)兼スナイパーの三人は比較的物資量の多い{領主の館}へと降り立つ。ここが通称{北の三連}と呼ばれるサブシティ群であった。この三つを含めた計6つの最多サブシティ量を誇るマップ構成こそ南西部の大きな特徴である。
そして、
「城被ってる、2パーティー。」
新田がピンを指す。
合計12パーティーものチームが9つのメインシティを取り合えば必ず起きる現象「初動争い」。
「「了解。」」
四人がそれぞれに返事をする。
これを錺たちは狙っていた。つまりこの初動争いこそ東高校電子遊戯部の打ち立てた最初の作戦らしき作戦。北の三連からの漁夫ムーブ(※漁夫の利ムーブ=第三者として戦況有利で戦闘に介入する動き。)大会までの短時間でチームの動きを最適化するため、錺が打ち立てた作戦の一つだった。




