表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧約(改稿前):電子競技部の奮闘歴 →書籍化  作者: 西井 シノ
本篇・PV稼ぎ用の分割&改稿版+α

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/14

⑦鬼と箆鹿


 最初の感想?そうだな。ビックリした。

 私がまさかこんな舞台に上がれるとは夢にも思わなかった。知っている天井に知っているクローゼット。知っている布団はいつもより心地が良くて、知らないのはこの無気力。あれ、重力が増したか。ついに地球はガタがきてしっまたらしい。そうバグというよりかはガタである。あぁ、なんて残念なことなのだろう。


 私はもう一眠りして目が覚める。


 あれあれ、あれ。時計にまでガタが来てしまったらしい。時刻はすでに13時を過ぎている。それでいて空腹は無い。腸内時計もガタが来ているのか。私はとりあえず身体を起こして洗面台へ向かう。あぁ布団の片付けは、今日はいいか。鏡の私は...流石だ、今日も可愛い。。。ボサボサになった髪に目やにと、鼻毛が出ている。それでも可愛いがこれは良くない。私はそれを電動のカッターで、


 ――あぁ。メンドクサイな。


 私には新しい発見が必要であることに相違ない。時が立つまで束の間の休息である。そういえば生まれてから今の今まで、こんなにも”何もしない”ことは無かった。あの日からもう二年と数カ月。なのに、この感傷はまだ昨日の事のように残っている。


「アイアム、ニィー、ット……。」


 ハンバーガーなんてどうだろうか、今までに食べたことは無いおよそ不健康の塊を胃の中に流し込んでやりたい。ハンガーにかけた着替えは、遠くの丘の向こうにある。あぁ...暑いな。出前でもとるか。


 暗がりで端末が眩く光る。ブルーライトは見慣れたが、その先のメニューは異国の秘境を覗くような未開拓地だ。これもあたらしい発見である。ポテトはLが二つ。とりあえずシンプルなもの、ハンバーガーにチーズバーガー、フィッシュバーガーに、、、ここまで。楽しみはとっておこう。あとはお茶でいいか。私は炭酸が飲めない。あれはパチパチして痛いんだ。


 よし、ボタンを押した。



◇◇◇


 思ったよりも早く届いた。私は時計を見て玄関へ向かう。20分で来た。なんてスピーディー、私もできそうなバイトだろうか?私は玄関を開きそれを受けとる。


「こんにちはー、DEMAE EATSです!」


 思った以上に視線がキツい。


「ども。」


 私は品を受け取り、すぐに戸を閉める。


「疲れた。」


 その場にヘタレ込んで封を開ける。玄関は私の家だ。つまり私は私の家で飯を食べている。なんら可笑しくはない。


「むぐっ......はぐっ......」


 ふむ、なるほど。存外旨いじゃないか、キーパーの奴こういうの食わせてくんなかったしな。このただのハンバーガーいける。


 しかし、この旨さを共有できる人間はいない。


「へっ」


 私は段々楽しくなっている。何か心の奥底から笑えてくるのだ。視界はだんだん狭まってゆく。心肺は握られたように苦しい。昼間の暗がりで、私はこの可笑しさを声に出してみる。


「ははははははははははははははははははははははははははははは、ああああああああああああ、はぁっ、はっはっはっっはっはっはっはははっはははっははっは。はぁー。あぁーー。」


 明日を迎えるのがいつも怖い。毎晩呼吸が乱れている。どうやら私にはそうとう、ガタが来ているらしい。着信音が怖いから随分前から切っているスマートフォンを念のため確認しておく。SNSのトレンド、動画サイトのニュース、検索エンジンの記事。ららら世界と繋がる時、私は世界を感じる。あぁ今日も動いている。戦争が起きた人が死んだ警察に捕まった裁判に敗けた回転寿司を舐めた人生が詰んだ。へへへっ、はははっ、ららら私より不幸~♪


――あぁ…


「誰か、私を殺してくれ。」


 凪の様に無気力で穏やかで激しい感情が鼓動を乱す。ミジンコみたいな精神力、酸素が足りない。意識を他へ。……あぁこの女の子は可愛い。ちょっと弄ろう。


「ログイン制限...」


 旧メアド、サブメアド、旧メアド、サブメアド、メアド2、メアド、メアド。


――・・・


「......」


 ビックリした。鼓動が高鳴り、静かに熱を帯びる。こ、こんな私に仕事の依頼だ。私は何故だか、何故だか泣けてくる。いや、心ではずっと泣いていた。泣きじゃくっていた。堕ちるところまで堕ちてしまったような感覚。私は取り敢えずスマホを放り投げ、冷たい床へ横になる。吐き気は常だが波がある。


「お金。無いな。」

 

 いや正確にはお金はまだある。四半世紀ほどは働かなくて良い。けれど確実に減っていっている。この貯金たちが無くなったとき私は何者でも無くなり。中卒の女という肩書きを平たい胸にどうどう掲げて社会に出ていく。そのころには45歳か。悪くない、funnyだ。むしろfunny。いや別段希望は残っていることには残っている。けれどメンドクサイ。身体が。


 時々思う。死ねば楽だ。ホームの柵を見ているとき。高いビルを見上げるとき。橋の上から川を見下すとき。速い車が目の前で流れる時。このメンドクサさと死を天秤にかけたとき、私にはよく吊り合っているように見えた。


――秋刕。


「うん」


 ISSでも見に行こうか。現実離れした逃避行の象徴を、一心に探したい。


――秋刕。


「あぁ......うん、あぁ...。」


 顔のクマを感じている。この顔を見られたくない。


「小鳥遊さん?」


 そうだ現実は、ずっとゲームの中みたいだ。


「うん...」


 CGのような夜の川、ランダムに動く人間、解像度の悪い視界。星のような人工物。


『どうぞ味噌汁です。』


 私は何とか辿り着いた学校の一室で、茶代わりに差し出された熱い味噌汁を口に入れる。喉に通す。


「聞いてますか。」


 熱い。


「あ、...うん。」


 あぁ熱さが懐かしい。涙が出る程懐かしい。喉を通り、食堂を通って胃の形が分かる。私の意識は、今だけは、火傷しないことだけ考える為に目覚めている。不安だとか焦燥だとかは横に置いて。目が覚めるほど、火傷しないように集中している。


「はぁ。」


 例えばそれは大量生産された愛の無いパンと肉のジャンクでは無くて、それは少々雑な見た目で、客に呑ませるような気の使った熱さじゃなくて、この身体へ土足で踏み込んでくるような深い味。磯の香り。ジャガイモの食感。ワカメの舌触り。


「聞いてないでしょっ!」


あぁ。それから私は――バシィと強烈なビンタを頬に、え?......えぇ?この男、今、なっ、殴った?私を?女を?男が?ってか強くねッ?!


「い、痛いよ!!」


「知るかよ。」


「はぁ?」


 男は眉間に皺を寄せて私を見下ろし自席へ戻る。


「アンタのせいだろうが、こっちは貴重な仕事の時間を下らんガキのイタズラに割いてやっているというのに。おいクソガキ、聞かれた質問もロクに返さない、泣きそうな顔して何も言わない、いい歳してららぽーとの迷子ですかァ?ご用件はキッザニアですかァ?!ここは迷子センターですかァ!?」


「ちちち、ちょっと私、客人なんですけど!? これでも呼ばれたんですけど!?」


 私の中の怒りが、感情のベクトルを統一させる。不安だとか焦燥だとかやる気だとか、他の全てを置き去りにして。頭に血が昇る、血液が巡る、熱い、暑い。腹が立って全てがどうでもよくなる。


「だから自前の味噌汁入れて、応接してやったんだろうが!」


 男はキレながら戻った席で、開いたラップトップへ目掛けて怒りのタイピングを始めた。


「応接って、水筒の味噌汁嫌そうに出す奴がいるかい!こぉれだからガキは困るんだよ、べろべろべろばぁー。ほら仕事邪魔してやる!」


 ――昨日創設された部活動の創設過程の志田錺ああああああああふぉkpdskhじょいえswhぃ7vhbdしあuhぎえnぱkhbgぴnwhqgpさohdfぴあwhqぴがnhぴああああああああああああ


「なっ、チビ!邪魔すんじゃねぇ‼」


「うるさいね!バックスペース押さないであげただけマシだと思いな!!へぇーざまあああ、いひひひひひひ!!!」

 

「てめぇ、それでも大人か!!」


 ――ガチャリと、扉が開き女子生徒が登場する。


「こんにちはー。あれぇ箆鹿くん、その子誰ですかー?」


「東雲さん。こんにちは!知らない人ですお引き取り願いましょう。」


――バシィ、と身を乗り出す女に箆鹿と呼ばれたその男は、四本の指でまたビンタを喰らわせる。


「痛いィ~、痛いィよ~。」


「あ~、箆鹿くん女の子殴った~、やっぱ獰猛~。」


「産まれてから二度目です、どっちも今日。おいアンタも過度な演技してんじゃねえ!!」


「痛いィ!なーぐーらーれーた!!!!」


「うるせぇ!」


 ――バシィ、と快い音がまた響く。


「あっ箆鹿君、また殴った~。」


「痛いよぉおお!!!ポリコレどこぉ!!SNSどこぉ!!」



◇◇◇


 その女。東京都立東雲しののめ高校の生徒会室へ足を運んだ女、小鳥遊秋刕あきりには二日前、奇妙なメールが届いていた。


{ from ks7unkown@com

  to takanashi02@com

 件名 コーチング依頼。 

dear nakiri

  この度は失職どうもおめでとう。そんな貴方に依頼がある。まずは下記を読んでくれ。

 内容

・東京都立|東雲高校電子遊戯部のヘッドコーチ依頼。

 

 契約条件

・前金40万円を初月給料分として受け取り。その後、2021年12月の「E SPORTS CUP(chronicle部門)」までの四ヶ月給料分120万円を本部活動の大会優勝時に報酬として受け取る。

・2021年12月の「E SPORTS CUP(chronicle部門)]における大会優勝時には更に―――

・右の人物以外には口外を禁止する...本校学校長、本校教頭、本部活動顧問、箆鹿。

・上記を違反した場合には、本契約は破棄される。

・本契約は箆鹿との接触時より受諾されたものとする。

 ・・・なお詳細については本校来校後、生徒会室に赴き箆鹿を訪ねたり。 以上。}


「いいや知るかああああ!!!!」


「まぁまぁ箆鹿くん落ち着いて。」


「箆鹿って呼ぶな!!」


「あれ、あたし先輩なんだけどな....」


 箆鹿と呼ばれる男は自信の左側、2年生書記である番条司にやつあたる。混沌を加速させるように生徒会室の扉からは女とロン毛の男が同時に部屋に入ってきた。


「ちゃっす。あれ客ですか?いや迷子?」


「迷子じゃないわい」


 秋刕は不貞腐れたように呟く。


「ようし皆、聞いてくれ大変な事件が起こった。」


 箆鹿が机をバンッ、と叩きあたりを見渡す。


「ここにいる小鳥遊さんが本校と関わる重大な...」


「言っちゃダメでしょうが!」 

 秋刕は全身全霊で箆鹿の口を押さえる。


「こんな楽しそっ、、ビジネスチャンス逃せるわけ無いでしょ!」


「うふへぇ、無職ニート!俺には関係ないんだよ!!」


「確かにそうだけど待ってお願いィ~!!」


 秋刕は箆鹿の目の前に、とある写真メールを広げる。


「ほっら!!...ね。怖いでしょ?」


 箆鹿は秋刕が開いた画像を見るや、真剣な面持ちへと変わり「分かりました」と一言返すと、「解散」と号令を発し壊れたカーテンを無理矢理閉めた。画像には秋刕の口座へ振り込まれた出所不明の金と、近くのビルから今しがた生徒会室の秋刕達を盗撮した写真が載せられていた。


 生徒会室から役員が立ち去る。箆鹿の異様な雰囲気を察したのか、彼らは二人へ無理な詮索はせずスムーズに部屋を後にした。


「ごめんね。何か巻き込んで。」

 秋刕は申し訳なさそうに箆鹿に言う。


「本当ですよ。まったく...」

 箆鹿は心底うんざりといった顔で秋刕を見ながら、しかし笑って頬を掻く。


「でも、先刻よりは元気が出たようで。死にそうな顔をしてらしたので、僕の張り手が効いてよかった。」


「どうだか。それは、まぁ、そう...だね。どーも!」


 秋刕は少し怒りながら箆鹿の尻を叩いた。



◇◇◇


 その日の放課後。秋刕は箆鹿の指示にしたがって生徒会室で時間をつぶした。箆鹿がいうには例の部活へ案内するとのことだった。その日は陽が落ち始めると風が吹けばやや快適といった気候。箆鹿は部屋の窓を開けながら秋刕に話しかけた。


「アドレスの名前から推理すれば、メールの差出人もとい犯人には心当たりがあります。ただ条件にある通りそれが誰であるかを小鳥遊さんが勘づいたとして、当人に言えば契約が破棄される恐れがあるかと。」


「分かってるよ。」


「それと、顧問、教頭、校長にはプロゲーマーライセンスを持った方が無料でご指導されているとお伝えしておきます。」


 秋刕は{学校関係者}と書かれた赤色の腕章をグッと腕にはめピンで止める。


「服に穴あくんで着けなくても良いと思いますよ。」


「遅いわい。それより早く案内したまへよ。」


 秋刕は腕章にデコピンしながら扉へ歩く。


「分かりました。...あぁ後、小鳥遊さん。好きなタイプは?」


 箆鹿はさも当たり前そうに聞きながら扉を開けた。


「えぇ?なんだい、ナンパかい?申し訳ないけど私ゃ美形が好きだぞ。」


「あぁ、そうですか。」と箆鹿は流しながら部屋を出る。


「特にあの子は良かった。君の隣にいた髪の長いおっとりとした。いいやそれでいて年下なんだよ私からしたら、ねぇ?背徳感が、ねぇ?」


「東雲さんですか?生徒会役員は僕の権限でリア充...不純異性交遊者即刻クビにしているのでダメです。」


 そういいながら箆鹿は生徒会室の目の前、数歩先にある扉へ手をかけた。


「とにかく生徒には手を出さないように」

 箆鹿はドアノブを握る。


「いいですね?」


「なんだい君は。私の心を揺り動かす美少女なんてそうそういないんだぞ...」


 箆鹿は戸を開ける。真っ暗な小教室に光る五つの画面。その光が照らす五つの顔の一番手前に、ブロンズの豊かな髪を二つに結んだ、確かなクォーターの美少女がいた。


「――ふォオオオオオオ!?ねぇ?」


 ワンテンポ置いて、秋刕は箆鹿へキラキラさせた目を輝かせながら振り返ろうとするが、箆鹿は案の定といった顔で「チッ」と舌打ちを決め秋刕の背中を押しバタンと扉を閉めた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ