9 幕間:お茶会
毎週恒例の王太子妃教育が終わって、サリエル様とのお茶の時間が取られた。
紅茶を前にして、ふうと思わずため息を吐いてしまって、慌てて口を押さえる。
「疲れた?」
「い、いいえ、すみません、大丈夫です」
「そう?無理はしないでね」
優しい笑顔で言うサリエル様に、頷く。
今週は色々あった。……と言うより、最高学年になってから、ばたばたしっぱなしなのだけれど。
ついに始まってしまったゲームのシナリオに沿うように、すでに三人のヒロインがサリエル様の前に現れた。
公爵令嬢のローゼ様、女騎士のイベリア様、そして学園のアイドルのキャンディ様。いずれもすでに身を引かれているけれど、正直生きた心地はしなかった。
「それにしても驚いたね、アルベルトとキャンディ嬢のこと」
「そうですね、……あの後一体何があったんでしょう」
「さあ。でも幸せそうだからいいね」
キャンディ様とアルベルト様が婚約したと聞いた時は本当に驚いた。前日までサリエル様にぞっこんだと思っていたキャンディ様が、翌日にはアルベルト様にベッタリになっていたのだ。サリエル様にこっぴどく振られてから、何があったのだろう。
ちょろい、と言うのは、何も主人公相手だけではなかったということなのかもしれない。
「でも驚きました。サリエル様が、あんなふうに突き放すようなことを言うなんて」
「嫌いになった?」
「まさか!……わかって言ってますよね」
「ふふ、かわいい婚約者様はこんなことで僕を見放したりしないよね」
「もう」
あの感情も何もない表情を向けられたら、私だってきっと呆然とするだろう。泣いてしまうかもしれない。だって、そんな顔をされたことがないもの。
こうしていつも優しく、穏やかな表情を見せてくださる。それが何よりも幸せなことだと思う。
「それにしても、進級してから三ヶ月ほどしか経っていないのに、ずいぶんと賑やかだったね」
「賑やか、と言いますか……」
どたばたしていた、という言葉の方が合う気もする。わたしの方は、ヒロインが出てくるたびにハラハラして気持ちが落ち着かなかったのもあって、まだ三ヶ月しか経っていないのかと思ってしまった。
「ブリーゼにはだいぶ心配をかけたね」
「いえ、そんな」
「でも不安にはならないで。僕には絶対、君だけだから」
ふわりと、優しい声でサリエル様が言う。
不思議なもので、どんなに不安でも、はらはらしても、サリエル様がそう言ってくださるのなら信じられる気がした。
残るヒロインは二人、卒業式典まで九ヶ月。
大丈夫、どのヒロインが来ても、きっとサリエル様となら乗り越えられる。




