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7 学園のアイドル編②

「サリエルさま、授業でわからないところがあってえ……」

「アル、教えてあげてくれる?」

「はい」


「今日こそランチをご一緒したいです!」

「お二人の邪魔をするな」

「なんですかあ……!」


あれから数日経ったけれど、キャンディ様は諦めを知らなかった。しかしながら、彼女の前にはいつもアルベルト様が立ち塞がっていた。

キャンディ様がサリエル様に話しかけにくるたびに、その間にアルベルト様が入る。もはや犬猿の仲と言っても差し支えないほどだ。


「もお!なんなんですか!わたしはサリエルさまとお話したいんです!」


だん、とキャンディ様が地団駄を踏んだ。サリエル様とアルベルト様は涼しい顔をしている。相変わらず私の存在は無視されているけれど、この展開にずっと困惑している。

ゲームではアルベルト様のような存在は出てこないし、サリエル様とキャンディ様のフラグがひたすらに折られ続けている。ここまでくると、もうキャンディ様ルートは失敗と言っても過言ではないのではないだろうか。


「んも〜〜!アルベルトさま、きらあい!」


そう言い捨てて、キャンディ様が去っていった。公爵家の令息に言うには、少々失礼じゃないかしら、と呆れながらアルベルト様を伺うと、何やらぼうっとしているように見えた。


「アルベルト様?どうかなさいましたか?」

「……いえ、何も」

「さあ二人とも、もうすぐ授業が始まるよ」

「あっ、はい」


サリエル様の言葉に、アルベルト様は礼を執ってから教室を出て行った。何か様子がおかしい気がしたけれど、気のせいだろうか。


「ブリーゼ、心配かけてごめんね、もうすぐ落ち着くから」

「落ち着く……?」

「うん」


サリエル様は意味ありげに笑って、それから授業の準備を始めた。それはどう言う意味なのか聞くこともできずに、もやもやしたまま午後の授業を迎えた。


キャンディ様がサリエル様のもとにやってくるようになってからしばらく経った日、いつも通りアルベルト様がキャンディ様をすげなく追い返してしまった後のことだった。


「殿下」

「何だい、アル」

「いつまで彼女を野放しにするつもりですか」

「彼女って?」

「……ラメンディ伯爵令嬢です」


アルベルト様がサリエル様に意見をするところを初めて見て、私は驚いてしまった。いつも最低限のことしか話さないのに。


「いつまで、と言ってもね、彼女は諦めが悪いみたいで」

「お言葉ですが、殿下がもっとはっきりとした態度を取れば彼女も諦めるでしょう」


どこかピリ、とした雰囲気にランチの手が止まる。アルベルト様は怒りを抑えているように見えるし、サリエル様は楽しそうに笑っていた。ひどく対照的で、ハラハラとしてしまう。


「君が言うならそうなんだろうね」


サリエル様はそう言って、目の前の食事に向き直った。まるで、この話はもうおしまい、と言うように。二人を窺いながらとる食事は、味がしないような気がした。



「サリエルさまあっ!」


放課後、いつものようにキャンディ様がサリエル様のもとにやってきた。恐らく一緒に帰ろう、もしくは街歩きをしよう、という誘いだろう。それにサリエル様が頷いたことはないけれど。


「ああ、キャンディ嬢、ちょうどよかった」

「はい、なんですかあ?」


キャンディ様が笑顔で応える。これがキャンディ様ルートじゃないのならば、その笑顔を純粋に可愛らしいと思えるのに。

そんなキャンディ様を真っ直ぐ見ていたサリエル様から、スッと笑顔が消えた。


「僕は君に興味はない。これ以上近づくのはやめてくれるかい?」

「えっ……」

「っ、殿下!」


戸惑ったような声を上げるキャンディ様と、焦ったようにサリエル様を呼ぶアルベルト様。そして、何が起こったのか理解できていない私。それぞれの反応を見て、サリエル様はパッと表情を明るくした。


「何だい、アルベルト。君が言ったんじゃないか、はっきりしろって」

「だとしても、言い方があるでしょう!」


アルベルト様の抗議の間も、余程ショックだったのか、キャンディ様は放心しているようだった。いつも笑顔のサリエル様のあんなに冷たい表情を向けられれば無理もない。流石に声をかけたほうがいいだろうか、と一歩近づいた時だった。


「そういうことだから。さあ、ブリーゼ、行こう」

「え、あ、あの……」


サリエル様に肩を抱かれて、それは叶わなかった。歩きながら、残されたキャンディ様とアルベルト様が気になったけれど、振り向くことはできなかった。



翌日、登校するとサリエル様はすでに席についていらっしゃった。しかし、いつも一番に来るアルベルト様はいなかった。


「おはようございます、サリエル様」

「ああ、おはよう」

「アルベルト様はお休みですか?」

「ううん、違うと思うよ」


ならば寝坊だろうか、珍しいこともあるものだ。

席について授業の準備を始めようと教科書を出した、その時だった。


「サリエルさまあっ!」


あの、甲高い声が教室に響いた。驚いてそちらを向けば、サリエル様の方に駆けてくるキャンディ様が見えた。昨日の今日でこれができるなら、本気なのだと思わざるを得ない。どうしよう、この健気さと諦めの悪さに、サリエル様が絆されたりしてしまったら。

さっと少し寒くなった時、サリエル様の手が、私の手を包んだ。まるで大丈夫だというように。

その時、彼女の後ろから、たしなめるような声が聞こえた。


「こら、キャンディ!」

「……キャンディ?」


思わずその呼び方を復唱してしまう。

キャンディ様の後ろから現れたのは、アルベルト様だった。よかった、寝坊ではなかった。……なんて、そんなことよりも、気になることが多すぎる。

二人はサリエル様の前に並んで、キャンディ様がアルベルト様の腕をギュッと掴んでいる。まるで、仲睦まじい恋人のように。


「サリエルさま、迷惑かけてごめんなさい。わたし、もうサリエルさまに付き纏ったりしません!」


ぐ、と拳を握って言いながら、今度はアルベルト様を見上げた。


「わたし、アルベルトさまと婚約しますっ!」


教室の中が、大きくざわついた。私はというと、何も言えなくなって、ただ二人を見ることしかできなかった。どうしてそうなったのか、昨日あの後何があったのか。全部全部が気になりすぎる。しかし、それを問う言葉は出なかった。


「ふ、ふふっ、そう、おめでとう」


おかしそうにサリエル様がお腹を抱えて笑いながらも、二人を祝福するように言った。アルベルト様はどこか気まずそうに、でもまんざらでもない表情を浮かべて、「ありがとうございます」と頭を下げた。


「ね、落ち着くって言っただろう?」


ひとしきり笑い終わったサリエル様が、私に言った。

一体どこまでがサリエル様の思惑通りになったのか。それも聞くことができずに、私はただただ、困惑と、キャンディ様のルートが潰れたことに対する安堵で複雑な気持ちになっていた。


次回はアルベルト視点になります。

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