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6 学園のアイドル編①

「アル、君も座りなよ」

「いえ、私は殿下の側近なので、ご一緒することはできません」

「相変わらず固いなあ」


サリエル様が楽しげに笑った。

最近、サリエル様は学園内で側近を迎えられた。それは国王陛下の意向らしく、卒業後に向けて信頼できる側近を見繕え、とのことだった。

そして迎えられたのが、アルベルト・ジュスティエル公爵令息である。とても真面目で、優秀な方だった。身長は高く、体躯もがっしりしている。それでいて涼やかな顔立ちをされていて、女子生徒から人気なのだと聞いたことがある。


「ブリーゼ様も、私のことはお気になさらず」

「え、ええ……」


鋭い眼光が私を捉えた。最初はこの眼に圧を感じていたのだけれど、サリエル様にも同じ対応なところを見ると、そういう方なのだろう。私の家の方が階級は下なのだけれど、将来の王太子妃だから、ということで丁寧に接せられている。

クラスは違うから、授業中は一緒ではないけれど、それ以外のときは基本的に側に居た。これまでと違うから窮屈じゃないのかしら、と思うけれど、サリエル様は特に気にしていないようだった。



「サリエルさまあっ!」


突然、甲高い声がカフェテリアに響いた。

声のした方を見ると、瞳の大きな、可愛らしい女子生徒がこちらに向かって走ってきていた。ああ、ついに来た。


間違いない、あれは、キャンディ・ラメンディ伯爵令嬢だ。


「やあ、元気そうだね」

「はいっ!あのぉ、ランチ、ご一緒してもいいですか?」


食堂で頼んだのか、ランチボックスを掲げたキャンディ様が微笑んだ。その微笑みは、同性から見ても魅力的で可愛かった。


「うわあ、サリエル様か」

「さすがに、勝てないな……」


キャンディ様の後ろにいた男子生徒たちがこそこそと話している。他にも、周囲の視線がこちらに集まっている。それは主に男子生徒からのもので、すべてキャンディ様に向いている。


「学園のアイドルも、やっぱ王子様が好きかあ」


……そう、キャンディ様は、「学園のアイドル」と呼ばれている。とても可愛らしい見た目、小さめの身長に高めで甘い声。学内での友人が多く、いつも輪の中心にいらっしゃる。主に、男子生徒の、だけど。


「すまないね、婚約者とランチ中なんだ」

「ええ~っ、それじゃあ、これ、わたしがこけた時に助けてくださったお礼ですっ!ハンカチに刺繍をしてきたんです、受け取ってくださいますか?」


きゅるん、と音がつきそうなほどに可愛らしい上目遣い。どうして座っている相手に上目遣いができるのか不思議だけれど、諦めるつもりはないらしい。


「学内で物は貰わないようにしてるんだ」

「そんなあ!」


納得がいかないようにキャンディ様が声をあげる。行き場の無くなったハンカチは、ぎゅ、と握りしめられてしまった。


「えぇん、サリエル様、つめたあい……」


うるうると瞳を揺らした姿は、同性の私から見てもやはりかわいらしい。

キャンディ様は「君花」のヒロインの一人で、転んだところを助けてもらったという理由でサリエル様を好きになる方だった。とことんチョロい理由に、頭が痛くなる。

このキャンディ様のルートは、「学園のアイドル」編として中でも人気のシナリオだった。


ハンカチを断って、困ったように眉を下げるサリエル様に声を掛けた方がいいだろうかと口を開こうとした時だった。


「殿下とブリーゼ様は昼食をとられている。席を外してくれ」

「きゃっ、な、なんですか……!」


アルベルト様が私たちとキャンディ様の間に入った。とても背の高い彼に見下ろされて、キャンディ様が怯んだように一歩下がった。あの圧を向けられて驚いているのだろう。


「ありがとう、アル。……そういうわけで、すまないね」

「うっ、ひどおい……!でも、わたしあきらめませんっ」


ぎゅ、と拳を握ってからとてとてと音がしそうな足取りで、キャンディ様が去っていった。台風一過とはこのことだろうか。徹頭徹尾私の存在は無視されたけれど、あそこまで徹底されていたら、いっそ清々しくもある。


「ブリーゼ、騒がしくしてごめんね」

「い、いいえ、……よろしいのですか?」

「ん?何が?」


にこり、と笑うサリエル様に、首を振った。

実を言うと、キャンディ様ルートでは最初はサリエル様は少しだけ冷たいのだ。いや、冷たいというほどではないのだけれど、そっけないところがある。その分後半の溺愛ルートが人気なのだ。

だから、これまでと違って、こうしてそっけない態度をとるサリエル様に少し不安になった。

優しくしても、そっけなくしても不安になるなんて、何て面倒くさい女なんだろう。


「不安にさせてごめんね、でも彼女とは何もないから心配しないで」

「い、いいえ!私こそ、顔に出てしまって……、お恥ずかしいです」

「そんなことない、とても可愛いよ」

「サリエル様……っ」


さら、と優しく頬に手を添えられる。かっと熱くなるのがわかった。


「ふふ、そういえば週末は王太子妃教育だったね。また終わったらお茶をしよう」

「はい……っ!」


その約束が嬉しくて、こくこくと頷いた。

キャンディ様のことは心配だけれど、私が信じるべきはこうして私を大切にしてくださるサリエル様だ。

それを心に留めて、いまはサリエル様との昼食を楽しむことにした。


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